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187 となれば! 行き先はひとつ!

 アナウンスが流れた。


 ーーー爆発は起きませんでした。しかし、予断を許さない状況に変わりはありません

 ーーー落ち着いて建物の奥に移動してください


 人波がまた動き出した。

 ーーー急ぐと危険です。ゆっくり、落ち着いて行動し、


 そこに他の声が被さった。



「ニューキーツ市民よ!」

 大音声で呼びかけたのはオーエンだった。


「私は! エーエージーエスを預るオーエンという! あんた方が今から取るべき行動を説明する!」


 回廊がざわつき、足早になった。


「急ぐ必要はない! 命を落としたくなくば、落ち着いて、よく聞け!」


 怒鳴りつけておいて、落ち着けとはよく言う。

 この男は、あくまであのオーエン。


「カイロスは無事に起動した! しかし、完全ではなかった!」


 人々の不安が恐怖に変わった。

 悲鳴さえ上がった。



「静かにしろ! カイロス! これは、電磁波の渦で太陽嵐を防ぐもの! 地球全域を覆わねばならん! しかし!」


 地球上に六十七ある光の柱の内、二基が動かず、三基のパワーが不安定だという。


「完全には覆われなかった! ということは!」


 その穴から入った太陽フレアは、地球全体を舐めていく。

 穴の開いた缶詰を泥水につけるようなものだ、とオーエンが言った。


「太陽フレア! どんなものか、知っているか! 太陽から遠く離れたこの地球でも、人間を焼き尽くすには十分だ! 人間どころではない! すべての生物が絶滅する!」


 科学者オーエン。

 その性癖。

 必要のない説明までしようとする。



 遠くの穴から入った太陽フレアでも、このニューキーツには秒速三百メートルを超える暴風が吹き荒れる。

 暴風は大気によって冷やされるとはいえ、摂氏百五十度にはなるだろう。

 しかも、放射性物質を大量に含んだ嵐がな!

 この街はおろか、政府建物など、ひとたまりもないわ!


 地中深く潜ったところで意味はない。

 数年間は生き延びることができるかもしれぬ。

 しかし、太陽の活動周期から計算すると、一旦太陽フレアが地球を襲い始めたら、嵐が収まるまで百年はかかる!


「それほどの期間、地下で暮らせるか!」


 オーエンのメッセージはもはや、科学者ならでは。

 解説めいていた。


「元々、その期間に火星への移住計画を本格化するはずだった!」

 恨み節でさえある。


「しかし、人類は怠惰になってしまったのだ! 技術はある! しかし今や、その船が建造できないではないか! 火星上に人の住む環境を構築できないではないか!」



「いいか! よく聞け!」


 オーエンがさらに語気を強めた。


「となれば! 行き先はひとつ!」




 もう、ほとんどの市民はオーエンの声など聞いてはいない。

 耳に届いてはいるが、意味をきちんと理解しようとする者はほとんどいない。

 演説は、人々に闇雲に先を急がせるだけの効果しかなかった。


 しかも、行き先はひとつ。

 などと言われて、人波はいよいよパニック状態になった。

 我先に前へ進もうとする人々が、倒れた人を踏み越えていく。そんな有様となった。



「どの廊下を進んでもよい。進めば、ゲートをくぐることになる! 行きたくなければ、この場から早々に立ち去れ! 街へ戻り、地下にでも潜れ!」


 行き先は、アンドロ次元。


 その言葉をちゃんと聴いた市民は、どれ程いたろうか。



 アンドロ次元には、友好的に待っていてくれるアンドロ達がいる。

 そして、前もってアンドロ次元の環境を確かめに行ったパリサイド。

 彼女達二人が、水先案内人を勤めてくれるだろう。


 オーエンのその言葉は、それまでの大音声に比べれば小さく、そして自信無げだった。

 ただ、もう誰も聞いてはいない。



 最後にオーエンがまた声を張り上げた。


「エーエージーエスのあるニューキーツに住んでいた自分の幸運を喜べ!」



 イコマは確信を持った。

 アンドロ次元に行ったパリサイド。

 二人の女性だという。


 ユウが!

 なぜ!


 そうか!

 サブリナが!

 父ホトキンと母ライラのために!


 ユウは、それを追って!



 くそう!

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