182 ビンタ!
「こんな綺麗な芝生を見たのは初めてだな。中央に丸い裸地があって、人がいる」
「カイロスか!」
「え? カイロス? そんなこと、わかりません!」
「説明しろ!」
「説明たって、裸地の真ん中に低い柱が立っていて、台座があって、黒い球体が」
「それだ! きっと!」
チョットマは、と聞こうとしたが、その前にミルコが叫んだ。
「あ、あれは! チョットマ!」
「おお!」
他の隊員達からも歓声が上がった。
「元気そうだ!」
隊員達から笑い声が起きた。
「チョットマひとりか?」
「いや。年寄りが一人。男だ。チョットマにすぐ近くに。それから、女が二人。一人は年寄り。チョットマに話しかけているようだな」
「武装しているのか! チョットマは!」
「いや。何も身に付けていない」
「な、なにい!」
「あ、いえ、たまご色のシャツに黒いフレアスカート、サンダル履きです! 芝生の広場に似合ってる!」
気持ちが張り詰めているときに、ミルコならではユーモアなのだ。
思わずンドペキの頬も緩んだ。
「で?」
「声は届きません! ガラスで遮られているので!」
ガラスと言ってはいるが、透明度の極めて高い樹脂製のパネル。
ミルコの声がにわかに緊張した。
「パリサイドが!」
「えっ!」
「降りてきた! あっ、もうひとり! チョットマのすぐ横に! 話しかけた!」
「JP01か?」
「わからない! 見分けがつかないので!」
あっ、後から来たパリサイドがチョットマの装甲を差し出した!
でも、チョットマは手に取ろうとしません!
そのパリサイドは、装甲を地面に置き、あっさり飛び立った!
もうひとりのパリサイドは、チョットマにピタリと肉薄している!
緊迫した状況なのだろうか。
「おい。ミルコ、武器は使える状況か?」
「まあ……」
ミルコの歯切れが悪かったのは、ガラス越しだということと、周りの市民への危害を心配してのことだろう。
樹脂製ガラスは、火砲などの物理的な攻撃にもびくともしないことが多い。
政府建物で使われているとなれば、なお更だろう。
しかしもし、チョットマの身に何かあれば、なんとか援護せよ。
そう言ったつもりだったが、ミルコの声は笑った。
「うわっ、チョットマがパリサイドに抱きついた!」
ンドペキの口から、思わずため息が漏れた。
そのパリサイドがユウなのか、あるいは馴染みになったKC36632やKW兄弟なのかわからないが、一安心ということだ。
「婆さんがまた話しかけた!」
「どんな女だ?」
その女、まさしくタールツーではないのか。
カイロスの前にいるということは。
「どんなって、あああっ!」
「どうした!」
「チョットマを!」
「なに!」
「ビンタ!」