181 実況中継
どういうことだ!
おい!
まずい!
回廊にぎっしり詰まった人並みが、ぐらりと動いた。
「早く!」
「どこへ!」
「逃げろ!」
「こっちだ!」
元々、熱波から避難してきた人々。
パニックになる素地は十分にある。
ーーー今すぐ、この場を離れるよう勧告します!
アナウンスが繰り返している。
大爆発の恐れと言われて、回廊は大混乱に陥った。
一斉に駆け出す人々の波に巻き込まれ、前へ進むどころか、後退を余儀なくされた。
「落ち着くんだ!」
叫べど、聞く耳を持つ人はない。
「走ったら危険だ! この先は階段だぞ!」
回廊はこの先で右に折れ、反対側の回廊と合流する位置に階段がある。
この人の群れが押し寄せて、無事であろうはずがない。
「くそう! タールツーめ!」
ンドペキは人波に逆らい、なんとか前へ進もうともがきながら、スゥとアヤの位置を確認した。
どんどん離れていく。
この群集の向こう、広場の先の建物にタールツーが。
こんな手が!
市民を盾にするとは!
卑怯な!
しかし、これで、タールツーがいることは確実だ!
「後退するのか!」
パキトポークが怒鳴っている。
「踏み止まれ!」
と応えるしかないが、群衆の動きに逆らうのは難しい。
しかし、ここにいて本当に大丈夫なのか。
一体、どんな爆発が。
「一旦、退却するぞ! 無理だ!」
パキトポークが怒鳴り返してきた。
「うむう」
パキトポークの隊もどの隊も、混乱に巻き込まれて立ってもいられない。
隊としての集団を保つことさえ難しい。
ンドペキの隊も、すでにかなり散り散りになっていた。
「押すな!」
「痛いでしょ!」
人々が口々に叫んでいる。
「早く行け!」
「うるさい!」
「前が詰まってる!」
人の流れが止まった。
もはや立錐の余地もないどころか、身動きすることさえ難しい。
目の前には装甲に押し当てられた女の顔が、痛みに歪んでいる。
スゥは。アヤちゃんは。各隊員は。
群集に押し込まれて姿は視認できないが、概ね五十メートル以内にはいる。
「状況が変化するまで、今の位置を維持しろ!」
そう指示し、自分はじりじりと、広場が見える位置に進もうとした。
しかし、進めるものではない。
「前進できる隊はあるか!」
「無理です!」
「だめです!」
隊はいずれも身動きが取れないでいた。
「俺たちゃ、窓際族だな」
「ミルコ、何を言ってる!」
「窓に押し付けられているってこと」
「見えるのか! 広場が!」
「ああ、よく見える」
「それを早く言え! 状況を報告しろ!」
「お? 了解!」