180 開演前
廊下の突き当たりの扉は難なく開いた。
しかし、「うむぅ」
ンドペキの口からもパキトポークの口からも、思わず唸り声が漏れた。
「こいつはまずいぞ」
装甲を身につけている者もいるが、明らかに市民だと思える人々が所在無げにたむろしていた。
無関心な者もいるが、東部方面攻撃隊と知って、軽く拍手を送ってくる者もいる。
何かしてくれる、非常用物資でも持ってきてくれたのかと勘違いしているのだ。
広場に近づいて、ンドペキ隊は予定通り、八つに分かれた。
スジーウォン隊と合流するアヤとはここで別れた。
回廊に差しかかり、市民の数は大幅に増えた。
やがて、人の間を縫って歩くような有様に。
「押さないでよ!」
そんな罵声が、そこここから聞こえてきた。
アンドロの兵が混じっていてもわからない。
「まずい」
「どうする」
「とにかく進むしかない」
「敵が来ても、これじゃ手も足も出せんぞ!」
「泣き言を言っても始まらん」
「離れ離れになるな! 集団の隊形を維持しろ」
悔しさがこみ上げてきた。
自分たちの苦労は何だったのだ。
時を待てば、普通の市民が難なく入ってくることのできる場所だったではないか。
ここに到達するため、レイチェルのシェルタを探し続けたあの日々は何だった。
おそろしい仮想空間の罠をかいくぐってきたのは、何だったのだ。
「身動きが取れん」
「隊形がバラバラになってしまった」
「こっちもだ」
各チームから、同じような言葉が発せられていた。
ンドペキのチームも、回廊を中ほどまでも進まないうちに、群集に飲み込まれてしまっていた。
「いったい、なにをしてるんだ。こいつらは」
「さあな」
市民は一様に広場に目を向けていた。
「芝居でも始まるのか」
「カイロスだそうだ」
「なに!」
「今から始まるらしい」
「えっ!」
カイロスとやらの儀式はこの広場で行われるのか!
「どういういうことだ!」
「わかりません。そのようです」
「くそぅ!」
ンドペキは広場が見渡せる場所に移動しようとした。
人々が鈴なりになって、広場を見下ろしている。
まもなく開演するショーを、今か今かと待って。
「あんた! 押すなよ!」
なんと言われようが、この目で確かめなければ!
チョットマの雄姿を!
「すまんが、前に行かせてくれ」
「これじゃ、タールツーが紛れていても、わからんな!」
パキトポークが吼える。
「どっちにしても、もう進めん」
「一旦、引き返した方がいいんじゃないか」
そんなことを隊員たちが話し合っていた。
そのときである。
回廊にアナウンスが流れた。
「市民の皆さん! ここは危険です!」
市民のざわつきが一瞬で収まり、回廊は静まり返った。
ーーー大きな爆発が起きる可能性があります!
ーーー今すぐ、この場を離れてください!
ーーー政府建物のさらに奥のエリアを開放します!
ーーー直ちにそちらへ移動してください!