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179 大儀を失くすな

 オーエンに言われたとおり、ンドペキは自分の体が柔らかい引力によって動いていくに任せていた。


 やがて真っ暗だった空間に光が差してきた。

 と、思ったのも束の間、狭い部屋に立っていた。



「お帰りなさい」

 隊員達の声が聞こえてきた。

「状況を報告します!」

「ああ」



 あの奇妙なアギの海から一列になって出てきた。

 ンドペキはその殿しんがりを務めたのだった。


「パキトポーク隊はすぐ近くにいます。こちらに向かっています!」

「了解」

「スジーウォン隊は政府建物に入っていますが、停滞しています」

「敵が? 連絡はついたのか?」

「いえ、市民が多くて、思い通りに進めないようです」


「市民?」

 ンドペキはそう聞きながらも、同期したイコマの心情に圧倒されていた。


 まさか、ユウがアンドロ次元に!



 スゥ!

 どこにいる!


 部屋の隅にいたスゥは隊員達の後ろに隠れるように立っていた。

 もちろん表情は見えない。


 ユウはどうした!

 まさか!


 そんなメッセージを送ったが、何も返してこなかった。




「多くの市民が避難してきているようです」

「そうなのか……」


 気を取り直さねば。

 ンドペキは隊員の報告になんとか応え、質問を繰り返した。

 どこに。どれくらいの人数が。問題があるなら、それは何だ。



「どうも、長官から避難命令が出たようで」

「政府建物へ?」

「はい。まずはここへと。暑さもしのげますし……」


 そんなはずはない。

 空調が効いているから、というような呑気な避難ではないはず。

 それに、取り決めではエリアREFの地下へ向かうのではなかったのか。

 一旦、ここに集め、政府建物内にある避難口を利用しようというのか。


 まあ、いい。

 我々はタールツーを倒す。

 まずは、これに集中だ。




 ンドペキはスジーウォン、パキトポーク、そしてコリネルスと通信を繋いだ。

 短い会話を終え、チョットマを呼び出したが、繋がらなかった。

 パキトポーク隊が来れば、救援物資を分配し、体勢を立て直す。

 長官執務室へ向けて、侵攻を再開することになる。


 ユウが気がかりだったが、ここで自分がアンドロ次元のゲートへ向かうわけにはいかない。

 スゥがここにいる限り。




「身体に変調のあるものはいないか?」

 パキトポーク隊がもうすぐそこまで来ている。

「よし、外へ出る」

「了解!」

 スゥがすぐ横に来たが、それでも何も言わなかった。




 扉の外は相変わらず、無機的な白い廊下。

 パキトポーク隊が近づいてくるのが見えた。


「よう! 散々だったな!」

「まあな、そっちも無事で何よりだ!」


 廊下を右手に取り、長官執務室のある建物に向かう。

 すぐ行き止まりになっていて、両開きの大きな扉が行く手を阻んでいた。


 救援隊が物資を手渡して回っている。

 アヤちゃん。また会えてうれしいよ、とンドペキは心の中で言った。

 スゥがアヤに近寄り、声を掛けている。




「ここで隊を八つに分けようと思う」

 ンドペキはそう提案し、てきぱきとメンバーを決めた。

 もちろん、スゥとアヤは自分の隊へ。


「長官室は近い。マップでは、その手前に大きな広場があるはず。長官室のある建物はその向こう側だ」

「うむ」

「広場はほぼ五百メートル四方の正方形」

「ああ」

「周りには回廊。左右それぞれ、三階建て。各チーム分散して長官室に向かう。地下の通路は封鎖だ。その班は」


 各チームがどのルートを取るのか、それもすぐに決めた。

 ンドペキのチームは、右側三階の回廊。



「ここは何階だ」

「一階だ」

「よし。じゃ、もう一度、長官室の位置を確実に頭に入れてくれ」

「もう入っている」

「じゃ行こうか。心して掛かれよ。久しくアンドロ軍とまみえていない。長官室周辺に集結している可能性が高い」

「おう!」

「市民は傷つけるな! 俺達の大儀を失くすなよ!」

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