178 床に転がるただの目ん玉
ユウ……。
オーエンと話したのか……。
地球人類を救うためというフレーズ。
ユウから聞いた言葉……。
その話を……。
ユウはイコマやアヤを守るために、これまであらゆる手を使っている。
通信を特別な回路に経由させたり、フライングアイに細工したり、マトの再生装置を改竄したり。
きっと、いくつもの規則を破って。
かなりきわどい無理をして。
地球人類を救うため、そしてイコマやアヤを助けるために、ユウは地球に戻って来た……。
そしてユウはパリサイドの中間管理職……。
「オーエン。そのパリサイド、もう出発したのか」
「さあな。もうすぐ向かうだろ。アンドロ達が使うゲートは、まだ通常通り運用されている」
「ゲート……。それはどこにある」
「どのゲートを使うか、それは彼女任せだ」
「そうか……」
ユウ……。
彼女のことだ。
覚悟していたとしても、打ち明けはしなかったかもしれない。
何しろ、スゥと同期しているのだ。
話すべきときが来れば、スゥの口から伝えるつもりだったとしても、おかしくはない。
「まあ、あんたも覚悟ができたら、俺に話しかけてくれ」
「どこで!」
「どこでもいい。ただ、もう時間の余裕はない」
「いつまでだ!」
「今すぐにでも」
うむう!
「マトやメルキトが通行できるゲート、こいつを準備している。まさに今、こいつを開かざるを得ないかもしれないからな」
「避難のために?」
「そう。もし、カイロスが効かなかったら。あるいはそう判断されたら、おれはゲートを開く。アンドロ次元がどうなっていようが。ゲートを潜った人間が瞬時に消滅しようが」
「おい!」
「俺にはアンドロ次元の状況が分からない。ゲントウを信じて、そうするしかない」
くっ。
と、オーエンが大声で笑い始めた。
「ハハハッ! あんたに頼んだのは冗談だ!」
な!
「アンドロ次元までフライングアイの通信は届かない! ゲートを潜った瞬間に、あんたの意識は途切れ、フライングアイは床に転がるただの目ん玉になる!」