177 赦せる気にはなった
「行けないな。まだここで、することがある」
己の役割は小さくとも。
「フン、そうか。残念だな」
「悪いが」
「パリサイドが志願してくれたんだがな」
「なに!」
胸騒ぎがした。
「おい。そのパリサイドは?」
「ん? 名か? 聞いてないな。知る必要はない」
「どんな立場のパリサイドだ?」
「気になるのか。なら参加してみたらどうだ。彼女と一緒に」
「女か……」
「下級幹部だそうだ」
ユウ……。
彼女ならやりかねない。
六百年前、アヤの身代わりに光の女神になった。
そして、金沢の光の柱を訪れたイコマを甦らせるため、規則を破った。
その結果、罪を背負い、神の国巡礼教団に放り込まれて地球を放逐されることになってしまったユウ。
「どうだ。人類を救うために」
オーエンがしつこく迫ってくるが、イコマの頭は混乱していた。
「パリサイドまでが協力してくれているんだぞ」
ユウなら、自分が犠牲になることをいとわない……。
しかし……。
「パリサイドとて、あの次元では肉体を維持できない。例え街中であっても」
「うむうぅ」
「もし、この次元にある装置の力で太陽フレアを防げなかった場合、人類は滅亡する。ホメムやマト、メルキトはおろかアギまでもがな」
ユウが部屋に来たのは昨夜……。
そんなことは、なにも言っていなかった。
いや待てよ。
ユウとオーエン。二人が出会うことがあっただろうか。
あ、そうか。
オーエンの妻を連れて。
「後に残るのは、アンドロとパリサイドだけ」
オーエンはフフンと笑った。
「ただ、宇宙人類となって進化したパリサイドと違って、アンドロはいわば特殊なマシン。自らの意思でまともな社会を築いていけるか、疑問だがな」
ん?
オーエンはパリサイドを憎しみの対象としてしか見ていなかったはず。
しかし今の口振りからは、その感情が消え、親しみさえかすかに感じられる。
「どうしたオーエン。パリサイドが嫌いなんじゃなかったのか」
「そう。その気持ちに変わりはない。しかし、赦せる気にはなった」
「ほう、どういう風の吹き回しだ」
「そんなことが気になるなら、ンドペキに聞いてみるんだな。奴には話しておいた」
なに!
ということは、ついさっきのことではないか。
同期が切れている間に!
なにがあったのか分からないが、胸騒ぎはますます大きくなった。




