175 俺は消えてなくなる
「パキトポーク! 久しぶりだな!」
高圧的な男の声だった。
「どうした! 俺を忘れたか!」
イコマは急いで引き返した。
「お前は! オーエン!」
怒鳴り返すパキトポークの声が聞こえてくる。
「あの時は世話になったな。どうだ、あの女性は元気になったか。たしか、バードとかいったな」
帰り着くと、パキトポークが廊下の天井に銃を向けていた。
「相変わらず、声だけなんだな!」
「アギだからな!」
「フン! 何しに来た!」
「それはご挨拶!」
「ここはおまえのチューブじゃない! 手出しはできんだろ!」
「早まるな! 捕って食おうというわけじゃない!」
「なら、なんだ!」
あのエーエージエスで起きたことは脳裏に新しい。
怒りという感情をほとんど忘れてしまったイコマにも、この男の声を聞いて、改めて憎しみが沸いてくる。
その男の声がまた響く。
「いいことを教えてやろう!」
「おう、そうか」
「まずは、警告!」
「教えてもらおう!」
パキトポークが銃を収めた。
今自分たちが置かれた状況は、芳しくない。
聞いて損はない、と判断したのだろう。
「この部屋に入るな! もう援けは来ないぞ! ぼんくらアギと共に消滅するだけだ!」
「フン! それから?」
「ンドペキは無事だぞ」
「当たり前だ!」
「ただし、俺の指示通りにやればな!」
「なに!」
ホトキンを連れて来いと言ったあのときのように、何らかの条件を突きつけたのだろうか。
「貴様! また、なにを!」
「ハッ! 何もしてないさ。ただ、助けてやろうとしているだけのこと!」
パキトポークが、信用できるか!という言葉を飲み込んだことがわかった。
イコマの胸にも不安がよぎった。
俺の指示通りとは、なにを意味するのだろう。
「お前達に付き合っている時間はない。いまやつらがどうなっているか、後で本人から聞け」
「ンドペキをどこへやった!」
「くどい! 俺は何もしていない! やつらが勝手に迷い込んだだけ!」
「今、どこにいる!」
「一時間ばかりすれば、どこかその辺りの部屋に現れるだろう。通信を繋いでおくんだな!」
そうせざるを得ないのか。
オーエンという男、一筋縄でいく相手ではない。
しかも、声が聞こえるということは、この廊下も、場合によってはこの建物全体が、オーエンの支配下にあることも否定できない。
「いいことを教えてやる!」
時間はないと言っておきながら、改まった口調で話し始めた。
「人類が滅亡するのは、もう時間の問題だ。少なくと、俺は消えてなくなる」