172 最初にしなければいけないこと
「この通路の先はハクシュウが爆破している。落盤していて通れない」
退路を絶っていたのだ。
ペールグリはハクシュウの後を追って来たが、そのためにかなり遠回りしてここに到達したという。
「もう少し、早ければ」
ハクシュウの亡骸に目をやった老人は、祈るようにしばし目を瞑った。
「瓦礫を取り除くより、街へ出た方が早いじゃろう」
「は、い」
チョットマは、しっかりした声を出そうとした。
「うむ」
老人が顔を覗きこんでくる。
「お噂はかねがねお聞きしております。お会いできて光栄です」
ペールグリは、かなりの高齢だった。
ハクシュウに華を持たせたが、実際はこの老人がブロンバーグを倒したのかもしれないと思った。
チョットマは再びブロンバーグの死体に目をやった。
クシの刃から守ってくれたブロンバーグ。
でも、今日の彼は、全く別人のようだった。
いよいよの日が迫って、精神が歪んでしまった。
それとも、もともと狂人だったのか。
自分を救ってくれたのも、厚意ではなく、最後に私を利用する必要があったから……。
どうでもいい。
ハクシュウを殺した男……。
「カイロスの民として、大切なことを見失いかけておりましたから」
ペールグリが、ここを離れましょう、と倒したブロンバーグの部下たちの死体を跨いでいく。
「必要があれば、おいおいお話ししましょう」
と、懐から布に包まれたものを取り出した。
そういえば、カイロスの刃は。
ブロンバーグが持っているのでは。
自分が取り出さなければいけないのではないか。
そう問うと、ペールグリは首を横に振った。
「スジーウォン殿には申し訳ないが、あれは偽物。ブロンバーグの手に渡すわけにはいかなかった。すり替えておいたのです」
錦の布に包まれた短剣。
「これがそれ」
鞘に収まってはいない。
刃渡り二十センチばかり。想像していたより小さい。
剣というよりナイフだ。
なんの変哲もない。
光り輝いているわけでもなく、オーラを発しているわけでもない。
ただ黒光りしているだけ。
「最初にしなければいけないこと。ブロンバーグが忘れていたこと。それを今、チョットマ、貴方にしてもらいますぞ」