165 ほんと、ばかだね!
「ところで、マリーリとニニが政府建物へ向かっただろ」
「うん」
「彼女たちはアンドロ次元へ戻るつもりなのさ。きっと、何らかの使命感を持って」
マリーリとニニが考えていることは、薄々わかる気がする、とライラは言う。
「きっとアンジェリナのこと」
チョットマは、先ほどのニニとの会話をライラに聞かせた。
「そんなことだろうよ」
「マリーリもアンジェリナを?」
「だろうね」
ライラは得心がいったように首を二度ほど振ると、きっぱりした声で言った。
「で、チョットマ、お前はどうする気だい?」
「えっ、私……」
考えてみたことがなかった。
「おまえが例の役割を果たした後のこと」
どこに避難するのか、と問うているのだ。
「もうひとつの選択肢もある。聞いてるだろ。アギのパリサイドが移動しようとしている先」
「え……」
知らない。
「パリサイドの母船のようだね。ニューキーツに近い海中に停泊しているらしい」
そこへの避難希望者も、予想外にそれなりの人数はいるらしい。
「半ば誘拐じみたやり方で誘ってるようだね。で、お前は?」
「まだ何も……」
考えてはいない。
「おまえのパパはどうなんだい。もう、パリサイドになったのかい?」
「ライラ、私に、そこに行けと言ってる?」
「ちっ」
ライラが舌打ちをした。
「お前は相変わらず、分かっちゃいないね」
そうなのだろう。
自分はどこに避難すべきかなど、考えたこともない。
「だって」
「だろうね。考えてなかったと言うんだろ。でもね、もう考えなくちゃ。自分の生きる道を」
確かにそうかもしれない。
でも、ンドペキやコリネルスは、避難することなど考えているだろうか。
考えていないようなら、私もまだ考えずにいよう。
最後まで一緒に行動するつもりだから。
「ああ、もう時間切れだ。市長の部屋だ」
「ライラ、色々ありがとう」
「ばかだね。そういうことを言うもんじゃないよ!」
「でも」
「最後に言っておくことがある。おまえの装甲は、サブリナに持っていかせる」
「でも、私の部屋、鍵が」
「ほんと、ばかだね! パリサイドだよ! そんな鍵!」