162 奇妙な怒りは孤独感
「レイチェルを探すことより、アンジェリナの救出の方が優先するかなって」
「え……」
早口でまくしたてるニニ。
アンジェリナの居場所の見当がついた。
助けに行くのだと。
役に立てないかもしれないけど、もしまだ間に合うようなら。
「だって、レイチェルはヒカリやマリーリが探してくれるでしょ。アンジェリナやセオジュンは私が行ってあげなくちゃって」
「セオジュン?」
「チョットマ、もう忘れたの?」
「ううん。そういうことじゃなく」
「じゃ、なんなの? 今の反応」
セオジュンとアンジェリナの失踪。
心を痛めていたのは、つい数日前のこと。
十日も経っていない。
忘れはしない。
いや、忘れていた。
心の中から抜け落ちていた。
「どこにいるの!」
「慌てないで。あなたたちには行けないところ」
「アンドロの次元?」
「そう。正確に言うと、ちょっと違うらしいんだけど」
私もよく知らないんだと言って、ニニが一歩前に出た。
「じゃ、そろそろ行くね。もう会えないと思う」
「待って」
「大げさな身振りは人目を引くからしないけど、本当はチョットマ、抱きしめたいくらい」
「待ってよ」
「ありきたりな言い方だけど、チョットマ、あなたと出会えてよかったと思ってる」
「ニニ!」
ニニがゴーグルをずり上げた。
瞳が見えた。
感情を殺して、無理やり厳しい目をしている。
そんな瞳だとチョットマは感じた。
「ねえ、チョットマ、最後に聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「マリーリも通っていった?」
気が抜けた。
別れにあたって、最後の質問がこれか。
「私も質問があるよ。なぜ、もう会えないなんて言うの?」と、投げ返した。
「えっと、それは聞きっこなし。というより、私の最後の質問の方が先。もう時間がないんだから」
「行ったよ」
「そう。やっぱり」
「なんなの、それ!」
「私、死ぬんじゃないかなと思ってる」
ニニの言葉が胸に突き刺さった。
「変なこと言わないで!」
「チョットマ、あなたは自分の役目をきっと果たすでしょう」
「だからそういうことじゃ、な、く、て!」
「もし生きて再会できたら、そしてもしチョットマがニューキーツでもどこでもいいから長官になってるなら、私を特務要員として雇ってくれるかな」
「なにそれ!」
「私はアンドロ。仕事がないのは困るから」
と言うなり、ニニは踵を返して走り去っていく。
ニニ……。
なんて……こと……。
チョットマは理由もわからず、怒りが込み上げてきた。
セオジュンのこと。
アンジェリナのこと。
ニニのこと。
親しくなった友がみんないなくなる!
レイチェルのクローンである自分に課された使命。
ブロンバーグ市長はじめとするカイロス展開派の伝承。
私はそれに従うことを決めた。
でも。
でも!
でも!
ああ!
ンドペキ。
アヤちゃん。
みんな、今、どうしてる?
今抱いた奇妙な怒りは孤独感だとチョットマは思った。
ふと、あのシーンを思い出す。
ハクシュウとプリブを待って、座り込んでいた時。
バザールが開かれている広場。オベリスクの足元で。
心細かったあの時。
あの時はパパが来てくれた。
今頃、パパは……。
スジーウォン!
早く来て!