159 私にできること
私にできること。
ニューキーツを救うために。
地球という概念は意識に遠い。
このニューキーツから出たことがなかったし、街の外に興味もなかった。
地球上にどんな陸地があって、どんな街があるのかも知らない。
自分にとって、世界はニューキーツそのもの。
そういや、パパは。
世界中の街のことを話してくれた。
昔の世界のことも。
今、どうしているだろう。
パキトポーク隊に無事に合流しているはず。
私、どうすればいい?
ライラは教えてはくれなかった。
具体的に私がなにをすればいいのかを。
なにをしなければならないのかを。
わかっていることは、カイロスの刃とカイロスの珠を持って、どこかでなにかをするということだけ。
その結果がどうなるかも知らない。
しかしもう、ライラに聞きたいとは思わなかった。
私は、言われたとおりのことをするだけ。
それでいい。
どうせ私は。
出来の悪い隊員だから。
隠された三つの門を封じ、正門を見張る。
そんな簡単なことさえ、きちんとできない私。
三人もの隊員を死なせてしまった私……。
たちまち落ち込んでしまう自分を奮い立たせるため、緑色の髪を持つ女としてやるべきことをやる、と言い聞かせているだけのこと……。
しかしいつしか、こうも思い始めていた。
絶対に、ニューキーツを救う。
エリアREFにいて、侵攻してくるアンドロ軍を蹴散らしている頃は考えもしなかった。
ましてや、ンドペキをめぐってレイチェルと角突き合わせていた頃には。
自分にこんな覚悟が生まれてくるとは。
街の様子を知るにつけ、これはただ事ではない、と思うようになったから?
長官レイチェルの身代わりだから?
身代わりとして作られたクローンだから?
強烈な暑さの中、健気に出勤してくる政府職員の姿を見ながら、思う。
それに私、身代わりクローンの私自身も、そんな私を作ったレイチェルも、とうの昔に許せるようになった……。
私、いつからこんなふうにものを考えるようになったんだろう。
賢くなったわけじゃないし……。
記憶容量が増えたようにも感じないし……。
パパやンドペキやライラといろんな話をして、少しずつ大人になってきたのかな。
ああ、また、あの頃のように……。
いつ、ンドペキに会えるかな……。
まさか……。
もう、会えないのかも……。
以前の私なら、そう考えただけで、涙していたと思う。
でも、今は、悲しい気持ちも苦しい気持ちも、悔しい気持ちさえ、胸の内に留めておけるようになった。
私は私の仕事を。
私にできることを。
政府建物に駆け込んでいく人の流れを見つめ、出てくる者がいないか、気を引き締めなければ。