158 スジーウォン、早く来て
夜が明けた。
街の各地に物資を輸送した車両が戻ってきて、政府建物に出勤する人が正門脇の門をくぐっていく。
街は連日の熱波によって、まさに燃え上がろうとしている。
建物内にいればかろうじて耐えられる。
建物の外壁が熱を跳ね返し、内部は自動的に快適な気温が保たれている。
しかし、一旦扉を開けると。
しかも、建物に備わった空調機能も完璧とはいかない。
比較的古い時代の素材を使用した建物も多く、コントロールできる熱の容量がすぐにピークを超えてしまう。
そんな建物内にいる人はなすすべがない。
すでに何パーセントかの市民が命を落としたとさえいわれている。
街のいたるところで発生する火災。
可燃物が高温によって、なんらかの拍子で燃え上がってしまう。
ただ、政府はまだきちんと機能していて、迅速な消火活動は行われている。
人々の間では、不安が高まっている。
しかし、数百年も続いている体制下で、正面から異を唱えることは難しい。
しかも、すべての言動を監視されることに慣れきった人々。
政府から支給される物資によって生かされていることに気づいている人々。
そんな市民にとって、政府に盾つくことは想像外のこと。
例え、ホメムではなく、アンドロが支配する政府であっても。
さして支障がないなら。
シルバックから連絡が入った。
政府建物に突入した隊員が無事に帰還した。負傷者無し。
三つの門に異常なし。部隊が出てくる様子無し。
引き続き、警戒を続ける。
その短い言葉に、シルバックの張りつめた緊張が伝わってくる。
チョットマは、ちらりと空を見やった。
清々しい朝ではない。
建物や舗装や、街のありとあらゆるものが夜の内に溜め込んだ熱が、朝になったからといって冷めていくわけではない。
空は晴れ渡っているが、青空、ではない。
高温の雲が渦を巻いているかのように、白々と輝いている。
チョットマは、自分の心境がここ数日のうちに大きく変化したことに気づいていた。
覚悟を決めたと言っていい。
地球を救う。
そんな甘っちょろい言葉でしか説明はされていないが、こんな自分にもできることがあるなら。
きっとその役目は、まもなくやってくる。
サントノーレという街から、カイロスの刃という宝物を今日、スジーウォンが持って帰ってくる。
スジーウォン、早く来て。
ブロンバーグ市長の使者が来る前に。




