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153 あいつは、先を読んでいた

 ゲントウが遺したもうひとつの装置。

 それは、脆弱な肉体しか持たない人間が行くことのできないアンドロ次元にある。


「あいつは、先を読んでいた」


 アンドロ次元にはもともと、とてつもないエネルギーが存在している。

 それは次元が形作られてから、存在し続けているエネルギー。

 ものを動かしたり、燃やしたりするような低レベルのエネルギー、すなわち地球上で目にするエネルギーではない。背中のパッドに収まっているような代物ではない。


 アンドロ次元に渦巻いているエネルギーは、空間構成を律するエネルギー。

 いわば、人類の住む次元が四次元であり続けるのは、このエネルギーが律しているからだ。

 ひとたびこのエネルギーが身動きすれば、空間の三方向は、例えば十二方向、三百二十方向とめまぐるしく移り変わることだろう。

 時間軸でさえ、未来へ過去へと捻じ曲がっていく。

 一方向とさえ言えなくなる。



 人類は、自分達の次元構成に比較的近い次元を発見した。

 充満するエネルギー量は比較にもならないほど大きいが、次元のエレメントである空間と時間を構成する方向性の数が類似している。

 そこにアンドロという人型ロボットを送り込み、食料をはじめとするあらゆる物資の製造工場にしたのだ。


 ただ、その次元がどう変化していくのかまでは予測できなかった。

 わずか数百年という短期間に、大切な生産施設であるアンドロ次元そのものが変質し始めるとは思いもしなかったのである。

 次元に変化が生じ始めたとき、オーエンとゲントウ、この二人の科学者だけは、そのことに気づいていた。



 そしてゲントウが、その変化に対抗する装置の開発に着手したのだった。

 もちろん、人類の棲む次元でそのような装置は開発できない。

 ましてや、地球や太陽系といったエネルギー密度の決定的に低い環境では、その装置のネジ一本でさえ作ることはできなかった。


 ゲントウは、アンドロ次元でその装置を開発した。

 数千人もの優秀なアンドロを使って。



「しかし、あいつの装置が陽の目を見ることはなかった」

 オーエンが、ますます声を落とす。

「当時の環境が、許さなかった……」



 ゲントウは、当時の科学界では異端視されていた。

 彼の頭脳が生み出したもの。

 それは 当時の科学常識から、あまりにかけ離れた理論。

 その一端でも理解できるのは、オーエンのみ。


「しかも、俺たちは仲が悪かった。そんな時期だった。あいつは、人類という枠組みでさえ、壊そうとしていたのだ」



 ゲントウが宇宙という言葉を口にするとき、人類が見ることのできる宇宙空間を指すのではなかった。

 地球という塵以下の星を含む銀河系、そしてそれが浮かぶビッグバン以降のこの宇宙でもなく、それらの宇宙が無限数ある多元宇宙でさえなかった。


 ゲントウの頭脳にある宇宙は、それらすべての物質的な構成空間ではなく、粒子レベルから多元宇宙にまで至るその構成法則そのものを指しているのだった。

 しかもその法則は、瞬時に変化し、枝分かれしていて、ある特定の方向性も法則さえない。


 ゲントウの意識に照らせば、肉体を持つ人類とアンドロとの差など、全宇宙の質量と海岸の砂粒の質量との差ほどもないということになる。

 光の速度を一万倍高めても、木の葉を揺らす風のスピードとどれほどの差もない、ということになる。

 当時の人類が受け入れるはずもない。

 ましてや、真正の人類であると自負しているホメムが許すはずもなかった。



「俺は、こう考えたのだ。自分自身が住むために、ゲントウはアンドロ次元のエネルギーを制御しようとしたのではないかとな」

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