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152 その話は、聞き飽きた

 ンドペキはじれつつも、オーエンの話に耳を傾けた。

 これまでのンドペキなら、我慢がならなかっただろう。

 このような話に、関心が向くのもイコマの意識を取り込んだからなのか。


 スゥがどう感じているのかわからないが、彼女とてユウの意識を取り込んでいる。

 かつて光の女神と呼ばれ、特殊な権利を許されたユウ、パリサイドとなったユウの意識であれば、オーエンの声が語る科学の話から何らかの情報を得ているかもしれない。



「この次元、絶望の海への道程は一方通行。しかも、めったなことで開かれることはない」


 最初のアギがここに封じ込められてから数百年。

 以降、開かれたのは二十数回。

 すべてが、殺すこともできない事情のある重犯罪人を封じるため。

 エーエージエスへ放り込まれるより、はるかに重い罪を背負った者たち。

 絶対に出ては来れないまま生かされる。



「今、それを双方向に変える作業をしている」

 技術的に、容易いことではない。

「しかし、同じような作業をしていて、助かった」


 声が言うには、アンドロの次元と繋がるゲートで、ある作業を進行させているという。

「そのために、ホトキンを呼んだのだ」



 ンドペキは、ライラの夫、ホトキンという技術者を殴り倒し、背中に針金で括り付けてエーエージーエスに運び、置き去りにした日のことを思い出した。

 奴め。

 とんでもない男だった。

 そこにチョットマがいなければ、危うく俺は……。



「アンドロ次元について言えば、これはこれで大きな制約がある」

 話はまだ終わらない。


 オーエンでさえも、アンドロの棲む次元に意識を泳がすことはできない。

 そこは、莫大なエネルギーが渦巻く空間。


「おまえ達は知らないだろう。実は、アンドロはいわば最強の肉体を持っている」

 自らの技術力で、己の肉体を作り変えたのだ。


「脆弱な肉体を持った人類が、アンドロ次元のいかなる空間にも、瞬時たりとも存在することはできない」

 屹然としていたオーエンの声が、一瞬、溶けるように弱々しくなった。

「それに気づいていながら、見過ごしていたのは俺の間違いだった……」



 アンドロに罪はない。

 移り変わっていく次元の構成やエネルギーに適応するべく、アンドロは自分達の力で、自らの肉体を変化させてきたのだ。


 高度な知能を持った人型ロボット、アンドロ。

 柔らかい肌、血の通う筋肉。

 ものを消化できる柔軟な内臓。

 人と同じく熱を持つ脳。暖かい血液。


 人類と同じ。

 しかし、それらを構成する物質、さらに言えば粒子レベルの強度を数千倍にまで高めたのだ。

 しかも、それら組織の再生力に至っては比較にさえならない。



「ゲントウが生きておれば」

 オーエンが弱々しい声を出した。


 ゲントウ。

 カイロスの装置を生み出した科学者。

 名は、ンドペキも聞いている。


「俺の片腕……」


「いや、ライバルであり、よき理解者……」


「あいつが残したもの……」



 カイロスの刃と珠。



 もうその話は、聞き飽きた。

 ンドペキはさすがに苛立ちを覚えたが、オーエンの声は止まらない。


「知っているようだな。しかし、今から話すことは、違う」


 話せる機会は、もうないかもしれない。

 聴いておいて欲しい。

 オーエンの声はそう言うのだった。

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