147 再びシナリオが進み始める
浅い海の底。
ンドペキは迷っていた。
行き詰っていたと言ってよい。
この海から抜け出す方法は、ただひとつ。
マトやアンドロが入って来たというゲートを探し出すことのみ。
ただ、自らをアギだと名乗るあいつの言葉が正しいとすれば。
彼らとて、アギかどうか、わかりはしない。
人口頭脳が作り出した仮想の像が語った、偽りの情報かもしれない。
あらかじめ設定されたいくつものシナリオに沿って、迷い込んだ、あるいは侵入した者達を誤った方向に導いていくための嘘。
むしろ、そう考える方が自然だ。
しかし、どうしてもこの装置を破壊することはできなかった。
幾度、エネルギー弾の集中砲火を浴びせようとも、海は何事もなかったように、緩やかな潮流で砂を巻き上げるだけ。
しかも、ンドペキ達はそこから移動することもできなかった。
この空間の特殊な位相構造。
今いる場所はその直前にいた場所とは違う。
集団行動には向いていない。
その言葉がンドペキ達を縛っていた。
足を踏み出せば、異なる位相に移動することもありえる。
同時に仲間とはぐれしまう。
そうなれば、ここにいる全員が、それぞれ孤立することになる。
突っ立ったまま、かれこれ一時間ほどになる。
ブーツが砂に埋もれかけている。
もう、行動を起こすときなのか。
ンドペキは己の愚かさを呪った。
やすやすと罠に絡め取られてしまった己を。
いつ、この罠に嵌ったのだろう。
暗闇の空間に足を踏み入れたときか。
あるいは、暗闇の中で装置のスイッチを踏んでしまったのだろうか。
どこかでセンサーを横切ったのだろうか。
はたまた、あの廊下の突き当りに無理やり穴を開けようとしていたとき既に、仮想空間に入り込んでいたのだろうか。
ンドペキは隊員達に図った。
どうするべきかを。
しかし、打開策を口にできる者は誰一人いない。
唯一、スゥが、全員手を繋いで、言ったことだけ。
今、全員が武器を収納し、手を繋ぎあっている。
「行こうか」
ンドペキは無理に元気な声を張り上げた。
「おう!」
何人かが応え、まずは一歩を踏み出した。
と、そのとき、声が聞こえた。
「厄介なところに入り込んだもんだな!」
野太い男の声。
足を踏み出したことで、再びシナリオが進み始めた。