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145/258

145 侵攻開始から、四時間

 イコマはパキトポークのすぐ後ろに浮かんでいた。

 分厚い体躯の先には、轟然と燃え盛る灼熱の炎が見えていた。


「ちっ」と舌打ちして、パキトポークが振り返った。

 ここか、というように目を向けてくる。



 侵攻開始から、四時間ほど経過。


 数十人のタールツー軍を蹴散らし、仮想空間生成装置を幾度か破壊してきた。

 しかし今、パキトポーク率いる隊は元来た道を引き返し、ンドペキの隊が進んだと思える経路を辿ってきたのだった。



「なんともいえない」

 イコマはそう応えた。

 ここがンドペキ達が消えたところだろうか。


 イコマはンドペキと意識を共有しながら、互いに相手の位置を確認しながら政府建物内を進んできたが、突如としてンドペキの意識が消えたのだった。


 そのことを伝えるべきかと迷ったが、パキトポークの方からこう言ってきた。

 ンドペキ隊の様子がおかしい。通信が繋がらない。

 非常事態が起きているのではないか。



 既に、ドトー率いる騎士団は壊滅状態に陥り、将は討ち死に、生き残った者はシェルタに逃げ帰っている。

 パッション隊は前線に踏みとどまっているが、兵力の毀損は少なくない。

 彼らから救援要請は届かなかったし、パキトポークも自分の隊員を応援に向かわせようとはしなかった。

 余裕はない。

 あくまでタールツーの排除が優先。

 しかし、ンドペキ隊なら話は別。

 見殺しにはできない。




 疲労が蓄積していた。

 隊員の動きは緩慢になっている。

 表情は見えないが、REFの兵の中には、武器を構えるのも辛そうな者がいる。


「行けるか」

 パキトポークが声をかけた。

 この炎の中を進むことのできない隊員はいないか、というのだ。


 疲れてはいても、ここで休息を取ろうという気はパキトポークにはない。

 ンドペキ隊と無事に合流するまで、休んでいる暇はない、と隊員達には伝えてある。

 しかも、ンドペキ達が消息を絶ったと思われる地点の目と鼻の先まで、ようやく到達したのだ。



 ここぞとばかり吹き飛ばした壁の向こうには、灼熱の空間が広がっていた。

 これまで破壊してきたバーチャル室は、無機的な小さな空間だったが、ここは違う。


 何らかの薬品か火薬に引火したのか、あるいは凝縮されたエネルギーを解放してしまったのか、火の海に大小の爆発を繰り返している。



 東部方面攻撃隊の隊員なら問題はないが、エリアREFの兵の中には、装甲の不十分なものがいる。

「迂回路を探して追いかけていく」

 数人の隊員が手を挙げた。


 パキトポークは何も言わず、鮮烈な光を放っている部屋を見た。

 迷っている。ンドペキが飛び込んでいったのはこの部屋だろうか。



 イコマは記憶を手繰り寄せた。ンドペキが見た光景の中に、このような空間はなかった。


「違うと思う」

 そう声をかけたが、依然としてパキトポークは炎を凝視している。

 そして、振り返った。

 なぜ、違うのかと。



 見えはしないが、パキトポークの巨眼に睨まれているような気がした。

「ンドペキの隊員の中にも、ここを通過できない者がいるだろう」

「フム」

「今壁を破壊したことで、この部屋が燃えているのではなさそうだ」

 壁を破壊し、視界が広がったその瞬間から、既に目の前は地獄絵だったのだ。

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