129 三個貸せと言ってるだけだろが!
「あんた、レイチェルの命を受けてこの作戦に参加してるんじゃないのか!」
顔を紅潮させたパキトポークが、ドトーに掴みかからんばかりの勢いで立ち上がった。
「勝手な行動をするなら、邪魔なだけだ!」
ンドペキは、ドトーを説得することを諦めていた。
作戦開始まで、もう一時間もない。
協力的な態度をみせず、あくまで自分のやりたいようにやるという騎士団長ドトー。
「そのパークトレーとやらを、三個貸せと言ってるだけだろが!」
ンドペキは、苦笑いがこぼれそうになった。
パキトポークがこれほど粘り強い男だったとは。
殴りかかってもよさそうだが、己の気持ちを必死で押さえつけながら仁王立ちしている。
ドトーはシェルタに設えられた大テーブルの向こう側に、平然と座っている。
ヘッダーを取ろうとしない。
どんな顔にどんな表情を浮かべているのかわからないが、落ち着き払っていることは声で分かる。
「レイチェル閣下を守るのが我々の使命」
「は! だから、この作戦に!」
「タールツーが閣下に危害を加えた。だから排除する。それが目的だ」
「同じ目的じゃないか!」
「違うな。あんた方の作戦とやらに付き合うつもりはないし、ましてや指示を受けるつもりはない」
もう、その理屈は聞き飽きた。
確かに、チョットマはレイチェルの指示として、ドトーがンドペキ達を政府建物に導き、そして援護すること、と言った。
それを受けて、東部方面攻撃隊と騎士団は共闘の約束を結んだ。
ドトーにしてみれば、あくまで共闘であってンドペキの指示に従う筋合いはないというわけだ。
作戦会議は最初から、噛み合わなかった。
それぞれが独自の筋書きを持って、政府建物に突入するようなものだった。
レイチェルのことを話し、同志であることを理解してもらおうとも試みた。
しかしそれは逆効果だったようで、どこの馬の骨か分からぬ者が軽々しく閣下の名を呼ぶな、と拒絶されただけだった。
東部方面攻撃隊の恒例となった、作戦会議ではヘッダーをはずす、という誘いにも乗ってこようとはしなかった。
「パークトレーってのは…」
「もういいじゃないか」
パキトポークがこれ以上拘れば、こちらの立場を弱くする。
ンドペキはそう思って、話題を変えた。
「では、最後にこれだけは決めておこう。互いの連絡方法だ」
パークトレーという装置が手元にあれば、どれほど心強いことか。
むしろ、これがなければ作戦の成功はおぼつかないといってもよかった。
力づくで奪ってでも手に入れたい品物である。
しかし、それは今ではない。
タールツーを亡き者にし、不良なアンドロを排除するのは自分達ではなく、騎士団が成してもいいことなのだから。
工兵。
これに最も近い隊員は、コリネルスの部隊に所属している。
急遽、居残り部隊から数人の隊員を引き抜き、部隊構成に修正を加えたが、残念ながら、誰もその装置を所有していなかった。
そればかりか、そんな装置があることさえ知らなかった。
攻撃隊の今までの活動には、無縁のものだった。