127 見捨てろというんですか!
イコマが建物の次の凹部に差し掛かったとき、マスゲームも既に終了したのか、夜が隠しているのか、緩衝地帯に隊員の姿はなかった。
と、建物凹部から、隊員達が走り出てきた。
緩衝地帯を抜け、一目散にブロンクス通りのビル群に向かっている。
十六名。全員揃っている。
しかし、ルートが違う!
光線を横切ることになる!
通信を繋ごうとしたが、その前に隊列が乱れ、一斉に向かう先を変えた。
そっちじゃない!
違う!
危険だ!
止まれ!
返って来た声が上ずっていた。
「見捨てろというんですか!」
「僕が伝えに行くから! 君達はルートに沿って、安全に退避するんだ!」
「なに言ってるんですか!」
隊列は止まろうとしない。
もう、建物の際を飛んでなどいられない。
追いつきたいが、いかんせん、フライングアイはこの点でも劣っている。
「待て! 止まるんだ! おい!」
夜の闇に、隊員達の姿が飲み込まれていく。
おかしい。
これほど走れば、彼らは光線をいくつも横断したはず。
隊員の中には、性能の悪い旧式装甲を身に着けている者がいるかもしれない。
死人が出てもおかしくない。
ところが、彼らはなりふり構わず走り去っていった。
もう隊列さえ組んでいなかったのだ。
もしや。
霧が晴れ、光のラインも消滅しているのではないか。
だから、あのように自由に……。
振り返ってみたが、シルバックの隊列も夜に紛れて見えなくなっていた。
全速力で、消えた隊を追った。
彼らは他の隊の救出に向かっていた。
不測の事態が起きたのだ。
ここはバーチャルな装置の中。
見聞きしたものは、必ずしも事実ではない。
それをわかっていながらの行動なのだ。
危険を伴う。
そもそもこの装置は……。
通常、バーチャル空間は閉じた箱の中にある。
コンフェッションボックスも、カイロスの刃を保管してあったあの部屋も。
ンドペキが陥りかけたホトキンの罠も、アヤを操ったあの廊下もそうだ。
しかし、ここは屋外……。
いや、違うのか。
この星空さえも幻影なのか。
ブロンクス通りのビルに足を踏み入れたときから、装置に取り込まれていると考えるべきなのだろうか。
イコマには、霧や光線は見えなかった。
それに、他のチームの隊員と言葉を交わすことができた。
ということは、今仰ぎ見ている城壁や星空は、実際にそこに存在するものと考えていい。
それとも、マトやメルキトとフライングアイでは、生成されたモノの見え方が異なることもあるのだろうか。
ハクシュウの手裏剣は、光線によって燃えた。
光線は実体なのだろうか。
それとも、そう見えただけで……。
救出に向かった隊員たちが見たものも……。