126 白い霧も見えない
イコマは建物の壁際、地面すれすれを飛んだ。
夜に紛れてアンドロ軍に視認されぬよう。
イコマには最初から,白い霧も見えなければ、赤い光線も見えなかった。
おまけにフライングアイに搭載されているGPSは精度が低く、シルバックが間違わずに決められたルートを選んでいるのかどうかもはっきりとはわからなかった。
チョットマを守ると勢い込んで来たものの、無力だった。
三つの隊がビルと政府建物の間に広がる細い緩衝地帯を、慎重に、かつすばやく駆け巡っていた。
マスゲームのように。
並行して走ったかと思うと、一方は折れていき、細かいジャンプを繰り返す。
夜の闇から現れては、ラインを挟んですれ違い、左へ右へと分かれていく。
隊列の動きに注意を払いながら、政府建物にも注意を向けていた。
これがニューキーツ政府建物の中枢部分……。
横に伸びて全長数キロメートルは悠にある。
これほど巨大なものだったとは。
階数は一定で、概ね五、六階程度。
造形的な面白みどころか、何の飾り気もない。
コンクリートで作られたただの白い巨大建造物。
壁には、一般的な建物同様、窓らしきものはない。
あるのは、ランダムに開いた無数の穴。
なんのために……。
これは、いわゆる鉄砲狭間……。
そこから監視され、場合によっては攻撃されるのだと思うと、気持ちのいいものではない。
中に人の姿がないかと注意して見るが、夜のことでもあり、動くものは認められない。
どうしても不気味に思えてしまう。
アンドロ軍との戦闘も予想されるという状況もそうだが、不穏な空気は建物の平板な形状にも関わっているのだろう。
建物には三つの細く深い切れ込み。
門はその奥。
他に出入り口らしきものはない。
凹部の両側の壁には、一段と多くの狭間。
政府の執務を行う建物ではなく、前時代的な要塞ではないかと思えるほどだった。
シルバックがルートをなぞり終え、最後に切れ込みの中に入っていくとき、ふたつのチームはまだマスゲームを展開していた。
いよいよ門に近づいていく。
ハクシュウの手裏剣が燃え尽きたとき、この危険を他のチームに知らせること。
これが自分にできること。
もちろん、作戦の前に、光のラインには決して触れないように、と申し合わせてある。
しかし、シルバック達のように、門の前まで到達したとき、きっと光線を遮断してみようとするだろう。
手遅れにならなければいいが。