125 沸き起こる後悔の念
シルバックは慌てることなく、一定のスピードを保って確実に赤いラインをなぞっていく。
さすがシルバック。
落ち着いている。
政府建物からの攻撃がいつ始まるか、と気になって当然なのに。
しかも、方角さえわからない。
ラインに一瞬たりとも触れてはいけないのだ。
ややもすれば注意が疎かになってしまう状況で、シルバックが確実にラインを飛び越えていく。
隊員達も落ち着いて、ピタリとシルバックに従っていく。
チョットマは、自分も冷静にならなければ、と言い聞かせた。
この状況から抜け出してから、どうするべきか。
無事に退避し終え、他のチームの状況をできだけ早く確認せねば。
そして、自分自身は至急、本来の持ち場である正門に向かわなくてはいけない。
なんとか、無事にビルの裏口まで行き着けますように。
いや、そんなことを祈ってどうする。
あくまでクールに。
希望は持つべきであって、念じたところで誰かが助けてくれるというものでもない。
それでも、後悔の念は沸き起こる。
この作戦は失敗だったのではないか。
無駄なことだったのではないか。
いや、無謀だったのではないか。
ブロンクス通りで見張っておればよかったのではないか。
自分達が無事だったとしても、他のチームは。
もしや……、今頃……。
隊列の行程はようやく半分。
抜け出すまで、まだ数分は掛かる。
冷静に、冷静に。
集中して。
突然、霧が晴れ、ラインが消えた。
霧が晴れるやいなや、方向を変え、ビルの通路目指して突っ走った。
チョットマは踏み留まり、政府建物の白い壁を凝視していた。
シルバックたちを守らねば!
撃ってくるなら応戦するのみ!
「チョットマ! なにやってる! 早く!」
すぐにシルバックの声が響き、チョットマは俊足を活かしてビルの裏口にたどり着いた。
「霧が」
「他のチームも同じように」
星明りに照らされて、緩衝地帯や建物が浮かびあがっている。
チョットマは身を硬くしていた。
他のチームは、殺人光線に身を晒したのではあるまいか。
霧が晴れた今なら、確かめに行くことができる。
しかし、たちまちまた立ち込めるかもしれない。
そうなれば、戻ってくることは不可能。
隊員達は裏口に陣取って、戦闘態勢を敷いている。
「シルバック、後は任せるよ。ここで阻止するもよし、通りまで後退して阻止するもよし」
「わかった」
霧が晴れている間はここで見張り、霧が立ち込めて視界がなくなれば通りまで退却ということになった。
「じゃ、私、他のチームを回って、正門に行くよ」
「了解。でも、これだけは言わせてもらうよ」
「なに?」
「隊長が、私達の盾になるなんてこと、今後一切、禁止!」
ブロンクス通りへ走り出ながら、胸騒ぎがした。
他のチームのこと、フライングアイのこと。
フライングアイには、このバーチャルな罠は通用しないのだろう。他の門に向かったことは間違いない。
間に合ったろうか。
霧が晴れたとき、庭に他の隊の姿はなかった。
ほのかな星明りで、見えなかっただけなのかもしれないが。
建物の隙間に入っていった後だったのだろうか。
既に退避していたのであればよいのだが。