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124 ここで何かをしなくては

 最後の直線三百メートルを駆け抜け、シルバックが立ち止まった。

 相変わらず霧が深い。

 眼前に目を凝らしても、白い世界が広がるのみで、建物も門も扉も、その輪郭さえ見せない。



 ここで何かをしなくてはいけないのだ。

 ただそこにあるのは、光のラインだけ。

 これまでのラインと明らかに違う。

 か細い緑色の光が地表から上空に伸び、たちまち霧の中に消えている。

 これをどうすればいい。

 遮断すればいいのだろうか。



 シルバックは依然として前方を見つめ、何らかの痕跡を探そうとしている。

 だが、やがて振り返ると、無言のまま光のラインを指差した。

 これを切ってみるか。これ以外、できることはないのでは、と。


 切れば、かつては防衛軍、今はアンドロ軍に情報が伝わるのだろう。

 しかし、濃霧の中、ここでできることはそれしかない。


 チョットマはシルバックに、待ての合図を送った。

 この細い光線にどんなエネルギーが仕込まれているか、知れたものではない。

 手で遮れば、掌に穴が開いてしまうことにもなりかねない。


 光の中に、きらきらと光っている物が見える。

 霧が反射して光っているのではない。

 何らかの粒子状の物質が、光によって運ばれているかのようだった。



 チョットマは、装甲の中からいつも身につけている手裏剣と呼ばれるものを取り出した。

 ハクシュウからもらった、角が飛び出た形状の黒光りする金属板。

 クシに襲われたとき、ナイフの切っ先から身を守ってくれた、あのときの傷跡。

 隊員たちが見守る中、チョットマは傷跡をすっと撫でてから、躊躇することなく光のラインにかざした。



 たっ!

 つっ!


 思わず手裏剣を取り落としそうになった。

 光の圧力に、弾き飛ばされそうになったのだ。

 あっ、と見る間に、手裏剣が激しく燃え始め、たちまち指先には小片が残されるだけとなった。


 しかし、チョットマは手裏剣が燃え尽きる前に、周囲の様子を掴んでいた。


 光が遮られている間、霧は跡形もなく消えうせ、巨大な建物の白い壁が立ちはだかっていたのだ。

 目の前には口を開けているだけの簡素な門があり、建物内に続いていた。


 振り返ってみると、壁が左右から取り囲むように立っていた。

 建物に囲まれた、谷間のような庭の最奥部に到達していたのだ。


 庭の幅はわずか三十メートルほど。

 最後の直線三百メートルは、この谷間を走ってきたのだった。 

 背後には、一面に打ち敷かれたコンクリートの床が広がり、一キロメートルほど後方には、ブロンクス通りに建ち並んでいるビルの裏側が見えていた。

 先ほどくぐってきた通路もはっきりそれとわかる。

 空には星が瞬いていた。


 壁を見上げると、数多くの小さな開口があった。



 まずい!

 この細長い庭で、身を隠すところはない。

 相手にとっては霧などなく、あの小窓からこちらの姿が丸見えなのだとすれば……。



 とっさにチョットマは、後方を指差した。

 戻れ!

 シルバックも同じ考えに至っていたのだろう。

 たちまち隊列を建て直し、再び霧に覆われた元来たルートを戻っていく。


 フライングアイが飛び出した。

 あっ、と思ったときには、あらぬ方向に飛び去り、すぐ霧に紛れていった。


 もしあの無数の穴から狙われては、無事ではすまない。

 反撃することもできない者が、一列になってすぐ目の前の庭を右へ左へ走り回っているのだ。

 これほど狙いやすい的はない。

 ヒカリは、心配ないとは言っていたが。

 恐怖は募る。

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