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123/258

123 演舞のように美しく

「各隊! 手はずどおり、それぞれ出立してください! 傍受の恐れがあるので、今後、緊急時以外の通信は控えてください!」

 そんな指示を飛ばして、チョットマはシルバックのチームに合流し、街へ走り出た。


 夜、通りに人の姿は少ない。

 相変わらず、空気が異常な熱を帯びている。


 各隊が、それぞれのルート、いくつかの通りを疾駆していく。

 タールツーの兵と遭遇することはない。


 午前零時。

 政府建物の正門にも部隊を配置し終えた。


 向かう先はブロンクス通り。

 ニューキーツの街の最北端。

 東西に伸びる延長三百メートルばかりの細街路。

 ここに、ブラインドエリアの玄関口となっている建物が立ち並んでいる。

 各隊は、それぞれの目的地である門への扉を、自分達の責任で開き、ブラインドエリアに突入することになっている。



 先遣隊の報告どおり、ブロンクス通りには人っ子ひとりいない。

 ここから北に向かう道はない。

 五、六階程度の低層ビルが、隙間なく並んでいる。

 いずれにも古ぼけて、照明の灯る窓はない。

 長く使われたことがないのだろう。汚れの浮き出たコンクリートが、あちこちで欠け落ちている。

 黒々とした表情を見せるビル。

 星明りに照らされ、通り全体を陰鬱な雰囲気で包んでいた。



 これだな。

 無言のうちに、シルバック率いるチームが、ひとつのビルの前に集結した。


 シルバックの合図で、隊員のエネルギー銃が火を噴いた。

 扉は周辺の壁を巻き込んで、跡形もなく消滅し、ぽっかりと黒い口を開けた。


 隊員たちに力が漲るのが感じられる。

 先頭になって飛び込んでいくシルバック。

 遅れまいと続く者達。

 長くエリアREFに住んでいた兵もいるが、心は失っていない。いずれも勇敢な者たちだ。



 次の瞬間、真っ暗な闇に包まれた。

 と思ったのも束の間、真っ白な空間に放り出されていた。


 シルバックが振り返った。

 全員揃っているのをすばやく確認すると、すぐさま走り出した。

 右前方六十度の方向に伸びる赤い光線に沿って。


 瞬時に反応する隊員達。

 一列になって、シルバックを追う。

 腰の付近を水平に飛んでいる光線に触れないように。

 濃霧の中を。




 チョットマの頭の中には、シルバックが向かう門への道程も、他のチームがとるルートも入っている。

 計算上は、各隊が交差する地点がいくつかある。

 しかし、この濃霧の中で出会うことはまずないだろう。

 そもそもこのバーチャルな仕掛けの中に、そんなイベントは用意されていないだろう。



 三百十五メートル先を、シルバックは左に折れるはず。


 果たして、隊員たちの縦列は列を保ったまま、交差する光線を飛び越し、綺麗に左へ旋回した。

 そしてすぐさま、パスする光線を飛び越していく。


 先頭のシルバックからしんがりのチョットマまで、十八名。


 シルバックは全員で門まで到達すると決断を下していた。

 チョットマもそれに異を唱えなかった。

 霧がもう少し濃ければ、最後尾から十八名を数えることはできなかったかもしれない。


 霧は流れるわけでもなく、ガラス瓶に無理やり閉じ込められたかのように、一定の密度で空間を覆い尽くしている。

 赤い光線は頼りないほど細いが、霧の中でもひときわ目立つ。

 かつ、光線の交差部では小さいながらも、黄色い光が強く光っていた。



 再び隊列が左旋回し、連続的にジャンプを繰り返している。

 まるで、何度も練習してきた団体演舞のように美しく。


 口を開く者はない。

 緊張感が漲っている。

 そして、気持ちのいい高揚感。


 待ちに待った作戦行動の開始。

 ハートマーク作戦。

 数時間後にはンドペキらが突入する。


 いつこの濃霧が崩れ、何者かが襲ってくるかもしれないバーチャルな空間を、一糸乱れず疾駆していく。

 ジャンプの後、降り立つ地面がないかもしれない白い闇を。


 隊員達の心に、恐怖が忍び込まないとも限らないが、その隙を与えることなくシルバックは走り続ける。

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