122 尋問されているようで、不愉快です
予想していた名である。
イコマ自身も、かつてそう感じたことがあった。
アヤの名が出なくてよかったが、もちろんそれを披露する気はない。
マリーリは、内心を悟られまいとするかのように、目も閉じてしまった。
アンドロにとって、しかも長官のSPという立場の者が、自分が仕えるべき相手に特別な感情を持つことは、どんな気持ちだろう。
ハワードにとっても、同僚であるマリーリにとっても。
許す許せない以前に、理解できることなのだろうか。
今、マリーリは見かけは平静を保っているが、その無関心さ、あるいは拒絶感が逆に、心の動揺を表していると思った。
「じゃ、いなくなった理由は、レイチェルに関係してる?」
ニニはまたマリーリを見る。
「ありえなくはないかもしれないけど……」
ニニも、これ以上は自分の口からは言えない、というように顔を引き締めた。
「なにか思い出すことがあったら、僕にも教えて欲しい」
まるで刑事の聞き込みみたいだと、イコマは自嘲しながら、矛先を変えた。
「マリーリ、さっきの話だけど、ずっとSPをやっていて、ニューキーツの街やエリアREFにもよく来てました?」
「ええ、それなりに」
「じゃ、ライラにも会ったことある?」
「何度か」
ふむ。
ずばり、聞いてみよう。
「ライラと、なぜうまくいってないんです?」
なぜそんなことを聞くのかというように、マリーリの瞳が揺らいだ。
「昔、なにかあったとか?」
ライラから話されるよりは、とマリーリが話してくれるのではという思いは、空しい期待に終わった。
「尋問されているようで、不愉快です」
と言われてしまっては、もう後が続かない。
「そう受け取られたのなら、お詫びします」
マリーリの過去を暴くつもりではない。三人の行方を探るためだと言っても、一度与えてしまった不信感は簡単に拭えるものではない。
しかたがない。
どうしてもしておきたかった話をしよう。
もう少し、いいムードのときに話したかったが、これ以上、時間は取れない。
僕は、彼らの親でも何でもありません。
実を言うと、知人でさえありません。
娘であるチョットマの友達というだけで。
ただ、もし親ならどうするだろうかと。
親なら、子供のことを一番に考えて、万一危険な目にあっているなら、自分の身に代えても救い出そうとする。
昔、自分が住んでいた国では、子供をそれこそ大切にしました。自分の子も、他人の子も。
そのお返しと言うのも変だが、親が高齢になったとき、子供は親を大切にした。
いつしか、そのバランスは崩れ、政府が子供の成長を促す、というか責任を持つことになり、親と子の関係は薄れてしまった。
アギやマトやメルキトの制度が生まれた今や、親子の関係という概念さえ消え失せてしまった。
そんな話をした。
「僕は西暦千九百年代の中ごろに生まれ、当時の感覚のままこうして生きてきました。頭の固い昔人間なのです。だから僕は、彼らがどこにいるのか知りたいし、どうしているのかを知りたいのです。アギの自分にできることがあるかどうかは別にして」
説教されたとでも感じたのだろうか。
マリーリの顔が、見る間に紅潮している。
それでも、マリーリの口から何かが語られる、ということはなかった。
「イコマさん。私も聞きたいことがあるんですけど……」
ニニが遠慮がちに言った。
「そうだったね。どんなこと?」
大方の予想はついていた。
案の定、「ゲントウっていう人のことなんですけど……」
イコマはあらかじめ考えておいた答を出した。
「ライラに聞いてごらん。彼女はゲントウのことをよく知ってるよ。それに、マリーリもね」
ニニの目がさっとマリーリに向いた。
「ごめんよ。呼び出しておいて、申し訳ない。もう時間がないんだ。チョットマが来るんでね」
間合いを測っていたかのように、チョットマが顔を覗かせた。
「パパ! そろそろ行くよ!」
「よし!」
フライングアイは浮かび上がった。
ニニがぽんと立ち上がり、チョットマに抱きついた。
「頑張ってね!」
「うん!」