120 彼らの行方、心当たりは?
約束の時間よりかなり遅れて、マリーリとニニが連れ立ってやってきた。
「すみません。遅くなって。ライラとの話が長引いてしまって」
とニニが、謝った。
「ヒカリはまだライラと話しています」
「すみません。お呼びだてしてしまって。どうぞそこに」
椅子を勧めたが、マリーリは座ろうとせず、狭い部屋の入口に立ったままだ。
チョットマの出立まであまり時間はない。
イコマは早速、話題に入った。
「セオジュン、アンジェリナ、ハワード失踪の件について、力を貸して欲しいのです」
もうひとつの事柄、レイチェルの生死についても聞きたいことがあったが、これはマリーリらの「作戦」の内容に踏み込むことになる。
ライラと揉めていないなら、口を出すことではないし、横からの意見にいい気はしないだろう。
実のところ、イコマは、レイチェルは生きているのではないかとも思い始めていた。
レイチェル騎士団の持つジャイロセンサーの件もあるが、SPの動きが不自然だと思うようになっていた。
レイチェルが死んでいるなら、彼らは解雇となって、別の仕事があてがわれるのではないか。
にもかかわらず、今も本人たちはレイチェルのSPだと言っている。
表向きの仕事はそれぞれ別にあるので、SPとしての立場が自然消滅するだけのことかもしれないが、それにこんなに日数がかかるものだろうか。
レイチェルが水系に消えてから、かなりの日数が経っている。
ニニはともかく、マリーリは警戒している。
かすかに微笑んではいるが、相変わらず戸口に立ったまま、フライングアイを凝視している。
彼女の癖、必要以上に見詰める癖、はいつものことだが、その瞳の中に今日は特に頑迷さが宿っているように感じた。
ハワードがそうであったように、アンドロでありながら、マリーリも複雑な感情を持っているのだろう。
ただ、どんな人間にでもできる感情のコントロールが、習性上、上手くないのかもしれない。
逆に、理知的な彼女なら、思っている以上に上手に嘘もつけるかもしれない。
そもそもマリーリのSPとしての主たる任務とは何だ。
ハワードの任務は、サリやチョットマを守ることだったという。
アンジェリナは、街の情報収集、エリアREFの兵との連絡係に名を借りた、レイチェルの恋人探し役だったという。
恋人探し役などという妙な任務ではなく、もっと中身の濃い内容だったはず。
ただこれも、マリーリの口から聞き出すのは難しいに違いない。
イコマは、答えにくいことを冒頭に聞くことを回避した。
まずは世間話。
「アンドロは歳をとらないと聞きます。でも、再生はされる。また同じような年齢で」
普遍的な知識になっていること。
こんな話題なら、口も滑らかになるだろう。
が、少しニニに訂正された。
「そんなことないですよ。歳は取りますよ。ものすごくゆっくりですけど」
その調子で、会話が続いてくれればいい。
「そうだね。ニニはいつもその年齢?」
「ですね。私がお婆さんなって三十歳過ぎぐらいの容姿になったら、また十六歳から」
人の年齢は今や意味をなさないが、アンドロの場合も同じこと。
「でも、最近は規制が緩くなって、アンドロも再生時に好きな年齢を選べることになったんですよ。一部の人だけは」
「へえ。そうなんだ。ということは職業も?」
「いいえ。それはまだ」
応えるのは常にニニ。
マリーリは、時に微笑を見せるものの無関心。
時間がない。
そろそろ本題に入ろう。
「確認させてください。ハワードやアンジェリナが職場を変えたということはないですよね」
「ないです」
「彼らの行方、心当たりは?」
「残念ながら」