119 もっと根源的な疑問
イコマは、エリアREFの地下深くに押し込めてあるアギについて、聞いてみたいと思った。
なぜ、パリサイドのコロニーではなく、街に出現したのか。
どこで作られ、どうやってあそこに出現したのか。
また、彼らはパリサイドとしての能力を、どの程度有しているのか。
つまり、空は飛べるのか、宇宙光線からエネルギーを得ることはできるのか。自由に姿形を変えることはできるのか。
そして今後、彼らはどうなっていく、あるいはどうしたい、とパリサイドは考えているのか。
パリサイドが彼らに、ある働きかけを開始しているというが、それはどんなことなのか。
知りたいこと、聞いておかねばならないことが多すぎる。
パリサイドの体を持ったアギのことなど、本当は些細なことだ。
関心がそこにあるわけではない。
もっと根源的な疑問。
それは、ユウのこと。
ひいては、パリサイド自身のこと。
パリサイドが地球に帰還した本当の理由。
人類を救うため、とユウは言うが、それが間違いではないとしても、隠された意図は他にないのか。
そもそも、パリサイドがどういう方法で地球に降り立ったのか、ということさえまだ知らないのだ。
そして、ユウの言葉によれば、コロニーにいるパリサイド以外に、地球近辺あるいは太陽系近辺の宇宙空間に駐留しているパリサイドの中枢がある。
それが、どんなものなのか、どの程度の規模なのかも知らない。
神の国巡礼教団は解体したというが、その後、どうなったのか。
今、地球近辺にいるパリサイドは教団解体後の組織の本体なのか、そうではないのか。
ユウは、自分はニューキーツにコロニーを築いたパリサイドのリーダーみたいなものだという。
では、ユウが属する組織とは?
それらを統括する組織がどういうもので、ユウはどんな立場にいるのかも。
こういったことを聞くには、覚悟と時間が必要だった。
短い会話で終わらせるべきではない。
いつかじっくり話をしてくれる機会がきっと訪れる。
そのとき、神の国巡礼教団と共にユウが宇宙に旅立った真の経緯も語られるだろう。
そして、この数百年の間にユウに起きた出来事も。
「ところで、サブリナっていうパリサイド、知ってる?」
イコマは、ロア・サントノーレの稜線で耳にした名を話題にした。
「知ってるよ」
ユウが怪訝そうな顔をする。
「カイラルーシのパリサイドのひとり。でも、ノブには関係ない人やと思うけど……」
「それなら、それでいいんだ」
「さっき、カイラルーシに帰ったよ」
「そうか」
サブリナが何者なのか、何のためにニューキーツに来たのか、イコマは知らない。
スジーウォンが帰って来れば、話してくれるだろう。
「そうそう、サブリナで思い出した。暗いニュースがあるよ」
「聞きたくないな」
「まあね」
サブリナを神の国巡礼教団に引きずり込んだ張本人、オーエンの妻、サーヤ。
この女も地球に帰ってきているという。
「実はね、ニューキーツにおるねん」
「ほう! で?」
宗教に狂った女のことなど、大して興味はない。
「オーエンに会わせた」
「えっ」
「彼女は心の底から、宗教に嵌ってしまったことを後悔して……」
「そうかねえ。今さら。オーエンは許さなかっただろ」
「なぜわかるん?」
「自分以外の男に教祖サマ、なんて言ってついて行ったんだぞ。身も心も捧げて」
「そうやんねえ」
「追い返されるのが落ちだろ。オーエンの気性だ。喜んで迎えるはずがない」
「そのとおり……」
「ん?」
「俺を愚弄する気か、って怒鳴って、その場で……」
「んん?」
「彼女の体、その場で真っ二つに」
「なっ」
「でも、心配しないで」
そんなタイミングで、ンドペキと同期した。