118 あくまでランダム
アヤは、自分が情報部の隊長になった、と説明した。
隊員は自分を含めて六名。
既に配置を決め、活動をスタートさせている。
情報の伝達手段や、情報収集や交換頻度などのルールも決めた。
「盗聴されないように、脚が基本になるんだけど、緊急の場合の暗号も決めたよ」
各隊の呼び名、タールツー軍の呼び名から始まって、レイチェルやンドペキなど主要人物の呼び名、エリアREFやシェルタなどの呼び名、エネルギーパットや弾薬、食料、飲料水、医薬品などを指す言葉など。
「お父さんの暗号名は、ハウス。面白くなんともないけどね」
と、アヤは声を上げて笑い、暗号リストを二枚取り出した。
「今、リストを、隊員が各部隊の隊長やリーダーに配布して回ってるところ」
アヤは、自分の拠点をンドペキの作戦室、つまりコリネルスの司令室にしたと言った。
「さっきのユウお姉さんの話、コリネルスに伝えておくね」
すでにアヤは立ち上がりかけている。
「家族の取り決めだけ、しておこう」
イコマはそう提案し、アヤを玄関まで送りながら早口に言った。
毎晩、この時間帯、午後八時前後にここに集まる。
ただし、時間に余裕がある場合のみ。無理は禁物。
フライングアイは、チョットマと行動を共にする。ブラインドされた門と街を往復する必要のある間は。
マンションの部屋の玄関に置いてある手回しオルゴール。
中学生だったアヤが、ユウの誕生日に贈ったもの。
トロイメライを、一回だけ回してから、アヤは飛び出していった。
ユウは、自分でもオルゴールを回しながら、
「ノブの記憶の断片のことなんやけど」と言いだした。
「ん?」
「海に漂ってる断片」
リビングに戻ったユウは、浮かない顔。
「すべてを拾い集めるには、まだ時間が掛かる」
パリサイドはそんな作業も始めているという。
「これも、ノブを優先して、なんてことはできないし」
「いいよ、そんなこと」
「太陽フレアが海を干上がらせるような事態になる前に、終わらせたいんやけど」
情報を海に蓄積していることを、パリサイドは想定していなかった。
「始めてからもうひと月も経つねんけど、さすがに膨大で」
作業開始に手間取ったことに加えて、断片のアーカイブに慎重を期しているのだという。
「海が干上がれば、お手上げってことになるな。まあ、そんなときはもう、人間が住める星じゃないけどな」
そうなる前に、人類は地球を離れざるを得なくなる。
この星を離れられないアギは消滅だ。
「そこまでいかなくても、海水温が上がれば、アギの記憶情報は吸い上げられなくなるねん」
平均海水温で一度、沿岸部や水系で五度も上がれば、限界。
情報はさらに細分化され、しかもそれが誰の記憶なのかを判別するタグが外れてしまうのだという。
「なるほどねえ」
「だから急いで、アギの実体化計画を進めてるんやけど」
パリサイドの肉体を持つプラン。
イコマの順番はまだ回ってこない。
「ごめん。口出しできないねん。あくまでランダム、ってことになってて」
「気長に待つよ」