114 まずはチャレンジします
「パパ! お部屋、貸してね!」
チョットマが駆け込んできた。
作戦室として、今後、ここを使わせて欲しいという。
もちろん、歓迎だ。
テーブルや椅子を隅に立てかけ、車座になって座った。
リーダーに選ばれたのはついさっきのことなのに、ずっと考えていたかのように、チョットマは淀みなく指示を出している。
「作戦開始は、午後二十一時。ンドペキが突入する六時間前とします」
正門を含め、四つの門に監視をつけます。
同時に全員で街全体をくまなく巡回し、もしタールツー兵がいたら掃討します。
午前零時、正門を封鎖。
同時に他の三つの門も封鎖に向かいます。
もう一つの隊は、街の巡回を継続し、各隊の連絡係も兼ねます。
「時間が遅いから正門を出入りする職員や業者は少ないと思うけど、誤って撃つことのないように、くれぐれも頼むね」
などと、念を押している。
「コリネルスも言ったように、私達の仕事は、街を掌握すること。そして、タールツー軍が街に入り込むことを阻止すること。門は封鎖するけれど、攻略して攻め入ることが目的じゃないです」
チョットマのハートマーク作戦に参加する隊員は、八十名となった。
五隊に分けたので、各隊概ね十五名ということになる。
手薄な門であれば攻略も可能だろうが、無理をするつもりはない、とチョットマはきっぱりと言う。
「むしろ難しいのは、ブラインドされた門に辿り着き、できればブラインドを無効化し、門を封鎖すること。そして撤収すること」
ブラインドされているということは、そこに何らかの装置が作動していて、その境界を踏み越えていかねばならないということだ。
「ブラインドされたエリアから出てくるところを押さえるという手もあるんだけど、きっと難しいと思う」
タールツー軍が出てくるポイントは、この建物とこの建物といつも決まっているが、必ずしもそこだけが出入り口とは限らない。
分散されたら、手の打ちようがなくなる。
まさに水際作戦となって、漏れれば街への侵入を許すことになる。
「たどり着けないとわかった時点で、細かい作戦は変更するけど、まずはチャレンジします」
チョットマは集まった班長達に意見を求めたが、それぞれが既に腹を括っているようで、大筋合意ということになった。
「じゃ、細かいことを話すね」
街のマップと、ブラインドエリア内の道順を記したペーパーを配った。
正門以外の門は三つ。
「道順は門ごとに違います。道順は頭に入れて」
一口にブラインドエリアと言っても、二段構えである。
市民には見えない建物の門そのものと、そこに至る緩衝エリア。
「建物内に入ってしまえば普通に行動できる空間だと思うけど、緩衝地帯が問題。SPによれば、濃霧の中のような空間で、たくさんの光のラインが走ってるんだって」
チョットマが配ったペーパーには、侵入する建物から門に至るまで、どのラインをなぞっていくのかが書かれていた。
「つまり、この門だと、まずは右六十度へ百十メートル進み、そこに交差している光のラインを左にとり、五十五メートル進む。というように見ればいいんだな」
と、隊員が聞いた。
曲がるポイントの距離と方向のリストが、細かい文字でずらりと記載されてある。
膨大な数の数値と記号を睨んで、絶望的な顔の隊員もいる。
「そのとおり。光のラインは網の目のようにものすごくたくさんあって、それに、てんでばらばらな方向に伸びているから、一箇所でも間違うと、取り返しがつかなくなるみたい。戻ってくることもできなくなるんだって」
「俺、記憶力ないんだよな」
「ペーパー、失くさないでよ」
「門に辿り着くまで、ざっと計算すると、距離にして四キロほどだな。慎重に進んで、十五分ってところか」
「だめ。もっと時間をかけて。確実に。一時間でも二時間でもかけていいから。遅くとも、ンドペキ達が突入する時刻までに門を封鎖すればいいんだから」
「了解だ」
「戦闘力も必要だけど、俊敏さも必要ってこと。各班全員で最後の門まで行く必要はないと思って。各班で上手く人選して」
「うむ」
「ペーパー無しでも戻って来れるように」
「うえっ、そりゃ無理だ」
隊員が笑った。
「俺の班に、記憶力のいい奴がいてることを祈るよ」