113 ハートマーク隊!
政府建物の出入り口。
いわゆる正門と呼ばれているところは、正確に言えば三つのゲートで構成されている。
普段は開かれることのない大門と、両脇の通用門。
職員の出入り口であり、物資の搬出入も行われる。
正門以外にも三か所。
いずれもブラインドの向こうで、通常は使われることはないといわれている。
政府建物の大部分は、肉眼では見えない。
ゴーグルを通しても見ることはできない。
意図的に隠されている。それがいわゆるブラインド。
ただ、レイチェルSP達によって、その位置は正確に把握できている。
これらの門を通って、タールツー軍はエリアREFに攻め込んで来るが、そのルートも掴んでいる。
問題は、迷わずその門に到達できるかどうか。
ブラインドをかいくぐって。
しかし、悩んでいても答えはない。
やるしかないよね。皆に頑張ってもらおう。
ブラインドの外で待ち構えていてもいいが、アンドロ兵を封鎖するという意味では確実ではない。
ブラインドは、点ではなく、エリアとして広がっているからだ。
ひょんなところから出てこないとも限らない。
門そのものを固めなければ。
コリネルスからは、絶対に無理はするなと言われている。
各門の封鎖もブラインドエリアの外側でもよい、と言われている。
しかし、あえてそう言われたことによって、本当はそれでは不十分なのだ、とチョットマは思う。
ヒカリからは、ブラインドエリアの濃霧は、敵も同じことで、いかなるゴーグルを使っても透視はできないと情報を得ていた。
迎撃される恐れはないはず。
と、「チョットマ! また後でね!」と声を掛けられた。
アヤが追い抜いていく。
「街で待ってるよ!」と。
彼女、すごいよね。
エーエージーエスで死にそうな目にあったのに、今はあんなに溌剌として。
結局、彼女は病院で脚の再生手術は受けず、隊員が作った義足で走り回っている。
自分の記憶が病院で吸い取られ、政府に情報が漏れないとも限らないから、と。
きっと今も、街のコンフェッションボックスに向かっているのだろう。
パパと情報交換するために。
「頑張ろうね!」
と言いかけて、チョットマは思い留まった。
燃えているアヤにとって、意味の無い言葉だ。
「雨、降ってなきゃいいね!」
なんてことを口走ってしまう、私って。
「アハハ! それを言うなら、熱波でしょ!」
軽やかな笑い声を残して、アヤは遠ざかっていった。
アヤは、連絡班のリーダーとなった。
突入していくンドペキ、シェルタ、後方部隊のコリネルス、そしてイコマの元へと、走り回ることだろう。
ブロンバーグ市長やパリサイドのコロニーにも、伝令として向かうことになるかもしれない。
「本当に、彼女こそ適任よね」
チョットマは、呟いた。
あっ。
アヤに抜かれるということは。
しまった!
考え事をしすぎて、スピードがおろそかになっていた。
まずい!
「ハートマーク隊!」
チョットマは九人のリーダー達に呼びかけた。
「隊員全員、各々五日分の食料、エネルギー、武器弾薬、医薬品を携行! 直ちに準備にかかるよう、みんなに指示して!」
そして、
「REFの兵隊さんもいるから気遣ってあげて」
と、付け加えた。




