108 僕は、役立たず
イコマはシェルタを出た。
影の軍団に紛れていたマリーリ、ニニとともに。
たちまち、いつもどおりのクリアで深い思考が復活した。
と同時に、ンドペキとの同期が切れた。
「僕は、役立たずだな」
と、イコマは話しかけた。
面識はこれまでにもあったが、個人的に話すのは初めてである。
マリーリに対して、ンドペキがひとつの依頼をしていた。
それは、もうひとつの作戦。
念のため確認しておく作業。
ブロンバーグに了解を得て、マリーリとヒカリに託されることになったのである。
もとより、レイチェルの捜索である。
ただ、この作戦は、伏せられてある。
知るのは、コリネルス、パキトポーク、そして市長ブロンバーグとライラのみ。
レイチェルが生きているなど、極めて懐疑的だ。
大げさにはしたくない。
しかも市民へは表向き、レイチェルはンドペキ隊に留まっていることになっている。
ただ騎士団が、レイチェルが地下深くに滞在していると考えている限り、確かめておかねばならない。
ブロンバーグはどう考えているのか。
捜索の申し入れを断らなかったばかりか、エリアREFの全エリアの通行許可を与えてくれたところをみると、市長としても確かめておきたいに違いない。
通行のために、ライラをサポートとして付けてくれたのだった。
そしてライラは、自分の助手としてニニを指名したのだ。
一方、マリーリはンドペキの頼みを断りはしなかったが、かといって歓迎しているふうでもなかった。
表情を変えず、頷いただけ。
ヒカリはシェルタにいなかったが、彼ならどんな表情を見せただろう。
通路は狭く、天井も低い。
ガラガラした石が積み重なり、もちろん照明もない。
マリーリを先頭に、イコマ、ニニと続き、エリアREFに向かってゆるやかに登っていく。
いたるところ、食料やら、エネルギーパッドなどの物資が積み上げられてある。
改めてイコマは、自分が何者かを名乗った。
マリーリは物静かに微笑み、「お噂は伺っております」と、丁寧すぎる言葉を返してきた。
「さてはハワードめ、何を噂していたのか」
と、イコマは冗談めかして、マリーリと話せる雰囲気を作ろうとした。
マリーリはまた小さく笑っただけだったが、後ろからニニが話しかけてくれた。
「チョットマのパパさんでしょ」
「うん、そう」
ニニの表情が崩れて、
「お会いしたかったんです!」と、声を弾ませた。
「僕も」
「えっ、本当ですか!」
「チョットマから、いつも君のことを聞いてるからね」
「うわっ!」
「セオジュンとアンジェリナのこと、心配してるんだってね」
「はい!」
「チョットマは、僕の娘。君はその友達。もっと、気楽に話しかけてくれるとうれしいんだけど」
「はい!」
「でも、その前に教えてくれるかな」