100 おまえか! ドトーってのは!
「おまえか! ドトーってのは!」
「いつまで、こんなところで閉じ篭ってんだ!」
「それに、なんだ! これは!」
ンドペキはそれなりの、もう少しましな挨拶をしようと思っていたが、マルコとミルコに先を越されてしまった。
レイチェル騎士団の長に向かって投げつける言葉ではないが、ンドペキはそれも一理ある、と二人のやりたいようにさせた。
「街はアンドロに支配されてしまってんだぞ!」
「どうするつもりだ!」
実際、ンドペキも、腸が煮えくり返っていたのは確か。
扉を破壊したはいいが、たちまち騎士団に捕捉されてしまったのである。
武器は取り上げられ、シェルタの中心部まで引き立てられてきていた。
後ろ手に縛られることはさすがになかったが、まるで囚人、あるいは捕虜の扱いである。
身分と事情をいくら説明しようとも、騎士団員は聞く耳を持たない。
地面に座らされ、はや数時間。
ようやく姿を見せたのが、きらびやかな装甲を纏った騎士団長ドトーだった。
鷹揚な態度で重厚な椅子に座ったドトーは、口を開かず、言いたいことを言えというように顎をしゃくったのだった。
騎士団員に銃を突きつけられていたが、マルコもミルコも意に介さない。
「なんとか言え!」
ドトーは、予想とは違って、かなり太った男だった。
騎士団長といえば、精悍な人物を想像するが、ドトーは装甲の上から見ても明らかに肥満。
「団長だろうが!」
シェルタは、自然の洞窟で、かなり細長く、起伏がある。
いくつもの巨岩が転がり、積み重なり、見通しが悪い。
ガレ場である。
この更に奥がどうなっているのかわからないが、徐々に上り坂になっている。
きっと、その先端部がレイチェル居住区の真下付近に当たるのだろう。
小さな川が流れているのか、水音が聞こえていた。
十分な電力が供給されているようで、煌々と明かりが灯っていた。
しかし、どんな仕組みが施されているのか、ゴーグルのモニタは機能しなくなっていた。
シェルタに入る前から、通信もできない。
政府のあらゆる監視網から隔絶された空間だった。
ようやくドトーが口を開いた。
「東部方面攻撃隊かあ? 隊長ハクシュウ、ん……、ンドペキだったかな」
か細く粘りつくような声で、相手の出方を伺う、そんな言葉だった。
「おまえ、何度言ったらわかるんだ! 我々はンドペキ率いる東部方面攻撃隊だ!」
マルコの堪忍袋の緒が切れかけていた。
ンドペキは事態打開の糸口を必死で考えていたが、妙案は浮かばない。
甘かった。
ンドペキは痛感した。
レイチェル騎士団と合流しさえすれば、タールツーを葬り、街を再び元の姿に戻せる、と考えていたが……。
こんな体たらくな連中だったとは。
レイチェルが、騎士団のことを話さなかった理由がわかったような気がした。