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ようやく完結しました。

 無感動にスシ詰めの撮影日程をこなしてゆく日々。ランウェイを歩いたかと思えば、カメラに笑顔を向ける。そんな日々が3年続いた。その間、色々な人に声をかけられたけど、どの交際の申し込みも断ってきた。離れている時間というものは執着心を酷くする。これは最近知ったことだ。私の心にはもはやセンセイはいなかった。あの男の鋭い目だけが、低い声だけが支配している。

 円は、高校時代に付き合っていた彼と結婚した。今は武本という苗字を名乗っている。江梨子さんも、夫のアシスタントとしてスタジオに来ることが多かった。よく、加藤芳春の話をしている。なんでも最近雑誌の取材が来ていたようだ。加藤が近づいてくる。約束通り追いかけてくれているのか。それとも、私との約束なんて忘れてしまっただろうか。

 その日は、平日にもかかわらず、何だか街中がざわついていたように思う。私の控え室にその人が訪ねてきたのは、午後の休憩時間のことだった。客だと言われ通すと、そこにはよく知った顔。優しい微笑みと紺色のネクタイ。チノパンがよく似合う男。

「高木センセイ……」

「随分美しくなったね。藤田」

 センセイだった。久しぶりに見たその姿は、よく知っている頃よりも少し疲れているような、諦めたような表情をしている。

「君がメディアに取り上げられるようになって、すぐにわかったよ」

 モデルを始めた頃は、まさかこんなにメディアに取り上げられてしまうとは思いもよらず、本名のまま活動していたので、センセイにもすぐにわかったらしい。私は、二度と会わないためにも、転校先は伝えていなかったのに、本当にもう私の頭の中には、加藤芳春が沢山いてそんな大事なことを今まで忘れていたくらいなのだ。

「どうして会いに来たの? センセイとは遊びだったって言ったじゃないですか」

 私は過去この男と肉体関係にあった。友達もいたし、母も義父も優しくてそれなりに幸せな生活をしていたのに、表面上のようなやり取りが寂しくて。そんな時、この高木と言う男は優しくしてくれた。ときには父のように叱ってくれ、ときには恋人のように優しかった。だから、全部あげてもいいと思った。

 だけど、私は子供で、何も知らなかった。高木には妻と息子がいた。それを知ったのは、たまたま校内で高木とキスをしているところが収められた写真が学校中に広まった時だった。犯人は見つからなかった。ただ、その人物はとある掲示板にその写真を添付。その掲示板をたまたま見ていた同級生が発見してしまったのだ。

 高木と関係を持ってこれまで向けられたことのない愛情を受け、幸せだった私は、正直それまでの人間関係はどうでも良くなり、粗雑にしていた。よって、友達は皆離れてゆき、私は侮蔑の目を向けられるようになった。母は憤り、義父は蔑んだ。真実を知った私は絶望よりもショックが大きくて。高木は私の退学の責任を取り結婚してくれると言ってくれた。

 だけど、私は知っている。父親が去って行く時の悲しい思いを。母は、二度離婚していた。だから、高木にそんなことをして欲しくなかった。だから、私は高木に別れを告げ、一人東京で幸せだった日々の思い出を抱えて生きて行こうと決めた。

「そんなこと、嘘に決まっている」

 高木はよく私のことをわかっている。だから、私が何を考えているのかよくわかるのだ。

「嘘じゃないです。嘘であっても、あなたとは一緒になれないんです」

 周りを不幸にしてまで自分だけ幸せになんてなれない。誰ひとり傷つけず生きてゆくなんて不可能なのは知っている。だけど、自分の知っている絶望を、大事な人の大事な人たちに味わって欲しくない。

「考えて。あなたが疲れて帰ってとき、迎えてくれたのは誰。辛い時支えてくれたのは、私ではありませんよ」

 高木に強い眼差しで拒絶を表す。私は大丈夫だ。私は高木以上に私を思ってくれる人がいることを知っている。自分にその価値はないけど、加藤が一瞬でも私のことを思っていてくれたあの時だけがあれば生きていける。加藤は、優しい。高木も優しかったけれど、それとは別の優しさを持っている。高木は沢山甘えさせてくれた。だけど加藤は私がうっかりSOSを発信してしまわないように隠しても暴いてくれる。私が逃げようとしても強引に引き止めてくれる。つまるところ、私は自分が幸せになることで誰かが不幸になるのが怖いのだった。加藤はそんな私をいつも助けてくれた。それに、円だっている。いつも話を聞いてくれる。私に話してくれる。辛い時、無理に聞き出さずにそっと見守ってくれる。その代わり、甘いものを一緒に食べてくれる。私には、支えてくれる人たちができた。

「どうしてわかってくれない。僕は君を愛しているのに……!」

 だけど、高木はしびれを切らしたのか、私の肩を掴んできた。見知った加藤のものと違う感触にむしろ嫌気が指してくる。この人と私はすでに違う道を歩んでいるのに。そう思った。だけど、高木にはそれがわからない。こちらでの私の生活を知らないから当然である。

「君が僕のモノにならないのなら」

 そう言って高木が取り出したのは、ナイフだった。嗚呼、そうきたのか。私はどうしてかとても落ち着いていた。もうセンセイへの想いは思い出になってしまったし、私には大切なものができた。だけど、それは私が守れるものではなかった。

 私は贖罪しなくてはならないと思い続けていた。だから、自分が大事な人と結ばれないことが贖罪になると思っていた。私ができる贖罪は、もしかして一緒に死ぬことだけなのかもしれない。そう思った。

 目を閉じる。後悔はない。円は泣いてくれるかもしれないけれど、大丈夫。強い子なんだ。首筋にヒヤリとした感覚があたる。ああ、やっと楽になれる。私は、罪を犯しすぎた。高木はもう家族のことは愛せない。私は、大事な人とは結ばれない。だったら、生きていtも死んでいても同じじゃないか。高木は私が抵抗しないことを肯定と捉えたらしかった。

「君一人では逝かせない。僕もあとから追いかけるから」

 マネージャーには二人で話したいと言ってある。助けは来ないだろう。せめて最後に加藤に会いたかったな。首筋の刃物が少し食い込んで、地が流れる感覚がした。その時だった。

「りな!!!」

 何で。どうして加藤の声がするの。

「お前何してる!」

「やめろ!! 僕と藤田の邪魔をするな!!!」

 驚いて目を開けると、高木は数人の男性スタッフに取り押さえられている。その中に加藤。加藤芳春がいた。

 救急車が呼ばれて、手当を受ける。加藤芳春が乗り込んできた。血を流しすぎたらしい、朦朧とする。そのぼんやりとした意識の中で、加藤が手を握ってくれたのがわかった。


 白い天井、白い壁、白いカーテン。私は死んだのだろうか。

「りな!」

 名前を呼ばれている。この声は、加藤芳春――?

「気がついたのか? 俺だ、わかるか。加藤だ、加藤芳春……それとも、もう忘れたか?」

 なんでそんな、ぐしゃっとした顔してるのよ。頬が緩む、幸せだ。加藤が手を握ってる。加藤の匂い。いい匂い。こんなに心地よい時間は久しぶりだ。私は本当に死んでしまったんじゃなかろうか。

「なんで、加藤がいるわけ」

 鼓動が上がってる。ああ、生きてるんだな。そう思うと泣けてきた。やっぱり私死にたくなんてなかったよ。どうやらまた自分の気持ちに嘘をついてしまったらしい。それにしてもなぜ加藤は私の居場所がわかったのだろう。

「たまたま同じスタジオにいたんだ。楽屋で名前見つけたから、声かけようと思って。そしたら、何か様子がおかしいから……あの男、誰なんだよ」

 死にかけたからだろうか、ひどく穏やかな気持ちで、幸せで朦朧としている。だから、もういいや。加藤に何を知らて嫌われてももう、十分だ。だって、またこうして生きて加藤に会えたのだから。拒絶されてもいい。そう思えた。

「そうか。それで、お前そんなに頑張ってたのか」

「重いでしょう。引いた?」

 わかってる。私が背負う岩は赤の他人には重すぎる。だから、一人で背負っとかなきゃならない。ましてや、加藤にはこんな重たいもの乗っけられない。

「いや。だとしたら、俺の間違いだった。俺があの時答えを急ぎすぎたんだな。藤田さ、人のために自分を犠牲にするところあるだろ。俺に背負わせたくなかったんだよな。だから、友達辞めてまで俺に過去を明かすことから逃げたんだよな」

 加藤は本当に凄いな。全部分っちゃってるんだ。

「うん。でもね、ちょっと疲れちゃった。死にそうにもなって、もううんざり」

 これは甘えだ。私にはそんな資格なんてないけれど、ちょっとくらい休憩してもいいよね。今日くらい、甘えてもいいよね。そうでしょう、お母さん。

「ああ、俺が一緒に背負ってやるよ。はじめからその覚悟で藤田に惚れてるんだ」

 もう十分すぎるくらいなのに、この男はまだ甘やかそうとする。自分こそ、自己犠牲じゃない。こういう時なんて言えばいいのかわからない。誤魔化すために、さっきは名前で読んでくれたのにな、そう言ったら、加藤は顔を真っ赤にした。

「お前、聞こえてた!? なんだよ、こっちは必死だったんだ」

「もう、呼んでくれない?」

 甘えると決めたので、これからは全力だ。名前で読んで欲しいし、もう加藤以外に髪もいじらせたくない。

「私、今日から加藤芳春の専属になるよ」

「俺はテレビになんか出さないよ。それでもいいのなら」

 私が背負ってきた背中の重い岩は今日から半分こだ。もし、この岩をちょっとだけでも支えてくれる人が増えたら、もっと軽くなるのかな。まずは、手始めにお母さんなんかどうだろう。血を分けた家族だ、もしかしたら手伝ってくれるかもしれない。私は過去を恥じない。それは今の私を作ってくれた重みだ。でも、決して軽いものにするつもりもない。私はこれからも、この岩とともに生きてゆく。だけど、もう一人でくたびれることはない。だって、となりには支えてくれる人がいるのだから。




 

 はじめまして、そしてご無沙汰しています。紗英場です。「背中に想い岩」いかがでしたか。さんざん焦らしといてこの終わり方かよ! と思ってらしたら本当にごめんなさい。だって、りなちゃん強いんだもん。精神的にも、身体的にも弱らないと、人に甘えないんだもん。多分。んで、お母さんとはこれから……的な感じです。多分、お母さんは頼りもよこさないけど、りなちゃんとソックリで意地張ってるだけなんですよ。加藤は、りなちゃんを見た時から好きでした。一目惚れってやつです。兄貴と好みがかぶってるわけなんです。んで、物憂げな顔とかみてたら放っておけなくて、気になってしょうがない、みたいな。そんな感じ。これ、面白いですかね? うーん、無駄に長くても面白くないということに気づきました。

 さて、今新たに思い浮かんでいるネタが、「目玉を舐められる」話か、「寺の住職な女主人公」の話です。また変な話できるんじゃないかな。それでは、またどこかで。

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