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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第11章 海上決戦
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11-5 分離合体

「GPSのみ復活しました。これは……鬼王の反応が消滅しています!!」


 樋潟司令の乗る輸送ヘリ。その副操縦士席に座る分析官が報告する。


「そうか……鬼核の防御力は高くない。鬼王の武装が解除された後に、何かに撃墜されたのかも知れん……」


 樋潟司令は苦い表情で呟いた。

 チーム・カイワン。戦力、と数えていいのかどうか、微妙な立場の者達ではあったが、同じMCMOのメンバーには違いない。

 輸送ヘリは、巨大グソクムシ・バシノームスの荒れ狂う戦場から、数十キロ離れた海上にあった。

 巨獣、巨大擬巨獣、機動兵器、潜水戦艦、戦艦、すべて入り乱れての乱戦である。何が飛んでくるか分からない状況では、なんら戦闘力を持たないこのヘリでは、近づくことも出来ないのだ。

 先程まで唯一情報を得ることが出来ていたのが、ようやく回復した通信だったが、鬼王のギガクラスター発射の余波か、ここ数分間はその通信も途絶えていた。


「通信が回復し次第、スカイクーガーとトリロバイトⅡにも、気をつけるように指示しろ!! それと……オルキヌスとの通信はどうなっている?」


「あ……待ってください……つながりました。オルキヌス艦長、メインモニターに出ます!!」


『樋潟司令。初めまして、私がオルキヌス艦長、グレン=アダムスです』


「グレン艦長。まずは御礼を申し上げたい。どうやらブルー・バンガードがギガクラスターの直撃を免れたのは貴艦の援護のおかげらしい。しかし、言いにくいことを言わせていただくが、これまで何度も出撃要請したはずですが? 今頃になって援軍などと……米軍はどういうつもりなのですか?」


『その点についてはお詫びを申し上げたい。だが、これでも精一杯の早さで整備を終え、出撃したのです。オルキヌスはもう建造から十五年を経過しています。しかも、一度沈没して、改修した老朽艦なのですよ。最新鋭の兵器を搭載してはいても、貴艦のようなわけにはいかないのです』


 通信画面のグレン艦長は、すまなそうに肩をすくめ、眉を寄せている。

 十五年で老朽艦だというなら、太平洋艦隊は老朽艦だらけだ。そんな言い訳が通じるようなら、バカにされているとしか思えない。あと一歩参戦が遅れていれば、こちらは貴重な戦力と多くの人員を失っていたかも知れないのだ。

 だが、米軍への要請はあくまで要請であって命令ではない。いくらMCMOが超国家的組織とはいえ、米軍の幹部にこれ以上、文句を言うことは出来ないのだ。

 樋潟は、わざとらしく少し大きなため息をついて画面上のグレン艦長を見た。


「ところで……話は聞いています。貴艦はトリロバイトⅡのLフレームとドッキングすることで、荷電粒子砲を撃てるようになるそうですね?」


『お願いしようと思っていたのは、そのことです。鬼王が撃墜された今、あの巨大生物を葬れるのは、この艦の重量子エンジンを使用した荷電粒子砲以外にない。ご協力をお願いしたい』


「それはこちらの願いでもあります。今度こそ……愚かな狂科学者マッドサイエンティストの引き起こした、この無益で不毛な戦いを終わらせてください」


 グレン艦長の片眉が、ぴくりと動く。

 だが、一瞬の不機嫌そうな表情は、次の瞬間には霧のように消え失せていた。樋潟が、何か気に障ることでも言ったのか、と訝しむヒマもないほど。


『無論です。では、こちらの合体シークエンスを開始します。トリロバイトⅡの通信コードを送ってください』


「了解しました。五代少尉、この通信、聞こえているな?」


 樋潟はメインモニターに、トリロバイトⅡを呼び出した。

 先ほど通信が回復してから、この空域にあるMCMO所属の機動兵器すべてが、通信を共有していた。


『聞こえています。しかし司令。今、分離したらUフレームの松尾さんは、一人でこの戦闘空域に……』


『まどかさん、私なら大丈夫。装備の小型ミサイルはまだあるし、操縦も慣れてきました』


 まどかの心配そうな顔の横に、微笑む紀久子の通信ウィンドウが開き、樋潟に頷いた。


「松尾さん、申し訳ない。民間人のあなたを危険な戦闘に巻き込んでしまった。ウィリアム教授、分離後は松尾さんをブルー・バンガードに収容して貰えないだろうか?」


『無論、了解だ。快適な船の旅をお約束しよう』


 もう一つ通信ウィンドウが開き、ウィリアム教授の顔が微笑んだ。


「ではいいな? 五代少尉。オルキヌスとのドッキングを急いでくれ。荷電粒子砲であのバケモノを片付けて、この戦いを終わらせよう」


了解ラジャー


 硬い表情のまま頷いたまどかは、トリロバイトⅡの分離シークエンスを開始した。

 二人の座席の間を前後に仕切るように、透明樹脂製のシャッターが立ち上がってくる。

 それぞれの操作画面上には、機体模式図が表され、分離後の注意事項が英語表記で流れていく。完全に操縦席が仕切られると、今度はシート自体が移動して、Uフレーム、Lフレームそれぞれの機体の中心に当たる位置へと収まった。同時に操縦装置も変形し、互いに連動していた推進システム、攻撃システムが干渉できなくなった。


『まどかさん、足が使えなくて大丈夫なんですか?』


「大丈夫です。高速飛行は出来ないけど……単に合体ドッキングするくらいなら、下面ノズル制御だけでやってみせるわ」


 まどかは、心配そうに見つめる通信ウィンドウの紀久子に、出来るだけ明るく微笑んで見せた。

 だが、メインジェネレータの出力を調整するフットペダルが使えないのだ。言うほど楽な作業ではない。

 合体の基本動作はプログラミングされていて自動操縦であるが、操縦自体はそうではない。オルキヌスの艦上に辿り着くまで、バシノームス体表から無数に発射されるバシノームスの生体ミサイルを、避けて行かなくてはならないのだ。


『真っ直ぐ行ってくれ。俺達が援護する!!』


 スカイクーガーが、まどかの乗るトリロバイト・Lフレームの横に付いた。


『ヤツの姿を見ろ。もうボロボロだ。あと一撃、荷電粒子砲を撃ち込めば必ず斃せる!!』


「干田隊長。ありがとうございます」


 低出力での飛行を余儀なくされたLフレームは、バシノームスと壮絶な砲撃戦を展開しているオルキヌスへ、よろよろと向かっていく。

 それを狙って放たれる生体ミサイルを、スカイクーガーの両肩口に装備された重機銃が次々に撃ち落とす。

 Lフレームが近づくと、オルキヌス甲板に複雑な形の穴が開かれ、そこへいざなうように誘導灯が光る。


合体ドッキングします!!」


 まどかのLフレームは、オルキヌスの甲板にぴったりと収まった。

 更に両側から立ち上がった金属製のアームが、しっかりと固定する。


「ふう……」


 まどかは大きくため息をついた。

 これでもう、大丈夫だ。これだけの大型艦である。電力量は荷電粒子砲を連射できるほど充分なはずだ。

 だが、合体完了して数十秒が経過しても、一向に荷電粒子砲へエネルギーが充填される気配はない。それどころか、艦は回頭しつつある。これではバシノームスが、射角から外れてしまう。

 まどかはオルキヌスのブリッジへ通信を送った。


「グレン艦長? どうされました? 早く荷電粒子砲を撃たせてください!!」


『了解している。だが、どうもうまく荷電粒子砲が制御できんのだ。五代少尉、その機体から一度降りてもらえないかね? ブリッジで荷電粒子砲を撃ってもらうわけにはいかないだろうか?』


「どういうことです? そんなことしなくても……」


 まどかの顔が曇った。

 コクピットのモニターは、すべて正常だ。あとはエネルギーを充填するだけのはずだ。

 それに、足の不自由なまどかが降りるまでもない。

 まどかが承認しさえすれば、荷電粒子砲の制御は、完全にブリッジで行えるのだから。


『我々も不慣れなものでね。五代少尉になんとかして欲しかったのだが……まあいい。では、こちらで制御するので、承認作業をしてくれないか』


「はあ……」


 まどかの返事は歯切れが悪い。

 何かおかしい。この違和感は何だろう?


『よし、ご苦労だった。これでいい。では、あとはこちらに任せて、君はそこでゆっくり休んでいてくれたまえ』


「グレン艦長? 転進してください!! このままでは戦闘海域を離脱してしまいます。どういうことです!?」


『これでいいんだ。一刻も早く、敵の元へ向かうのは当然だろう? ようやくあのバケモノを斃すための兵器が手に入ったのだからね。』


「だから敵は――――」


『敵はバケモノだと言ったろう? 我々はこれより千葉へ向かう』


「千葉……? まさか!?」


『案外鈍いんだねえ。お嬢さん。そう、僕はGを斃したいんだよ』


 ガラリと口調の変わったグレン艦長が、それまで伏せていた目を正面に向けた。

 タテに細い金色の瞳孔。

 最初は褐色だった肌も、いつの間にか透き通るような白に変化している。


『どうした五代少尉!? どうしてオルキヌスは戦線を離脱したんだ!?』


 オルキヌスの不審な動きに気付いたブルー・バンガードから、ウィリアム教授の通信が入る。


『やあ、ウィリアム教授。久しぶりだね。』


 グレン艦長がひょいと帽子を取ると、そこには一匹の小さなネズミが鎮座していた。だが、その体は上半分しか見えず、まるで頭皮から生えているかのようだ。どうやらグレン艦長の組織に融合してしまっているらしい。

 海底ラボ・シートピアでの事件と同様、シュラインはその細胞に侵された動物たちを放ち、いつの間にかオルキヌスの搭乗員すべてを支配下に置いてしまっていたのだ。


『貴様……シュラインなのか!?』


『ふふ……びっくりしたかい? でも、間抜けだねえ。君達は何度引っ掛かったら、僕の戦略を読めるようになるのかな?』


『そうか……まさかとは思ったが、この巨大擬巨獣も……陽動、ということか……』


『そう単純に考えるから引っ掛かるのさ。バシノームスも重要な戦力。ほんの先ほどまで僕自身でもあった。ただの陽動じゃないんだよ。メクラアブも、ダイナスティスも、そして、このオルキヌスもね』


 ウィリアム教授は唇を噛んだ。

 言い返すことが出来ない。たしかにシュラインは、惜しげもなく他の生物を捨て石として使ってくるように見えて、その実、それ自体が遠大な布石になっている。

 オルキヌスに侵入したシュライン細胞の運び屋ベクターも、把握しきれなかったどれかが生き残ったものに違いない。だが、まさか米軍にまで侵入していようとは考えもしなかった。


『僕はあらゆる生物に融合できる。だから、どんな生物も僕自身になり得る。目的のためなら、利用できるモノはすべて利用する……ってとこかな』


「くっ……」


 まどかはコクピットの制御盤コントロールパネルに指を走らせ、Lフレームの制御を取り戻そうとし始めた。

 だが、グレン艦長=シュラインは、その様子を冷たい目で一瞥すると、鼻先で笑った。


『ふふっ無駄だよ。何のために、こちらにコントロールの主導権を渡すように承認させたと思ってるんだい? もう操縦どころか、分離も出来ない……』


「……私をどうする気?」


『どうもしないよ……そうだ五代少尉。君には、最後までそこに居てもらおうかな。Gが荷電粒子砲に斃れ、すべての人類、いや生物が僕自身に変わるところを見届けてもらって、それから最後に、絶望の中で僕の細胞を植え付けてあげるよ』


 グレン=シュラインの顔がサディスティックに歪む。

 舌なめずりでもしそうな、その下卑た表情から、まどかは思わず目を背けた。


「Gが……明君が負けるもんですか。あんたなんかに」


『聞いてないのかい? あいつはもう、籠の鳥さ。意識を失って僕の手の内にある。あとはとどめを刺すだけなんだぜ?』


「何ですって!?」


『あいつの好きな女のニセモノを作らせてさ。おびき寄せて、少し酸素濃度を下げてやったらパタンキュー、さ。地上最強の生物、なぁんていってもチョロいモンだよね。』


「この卑怯者!! 許さない!!」


 まどかはモニターに映るシュラインのにやけた顔を思い切り睨み付けた。

 だが、脱出すらもできない今の状況では、何をすることも出来ない。


『そうそう。君、あの伏見明が好きなんだったねえ。どうだろう? 君の偽物でも、あいつは助けに来てくれたかなあ?』


「……!!」


 まどかの顔がかっと熱くなる。唇が震えるが、怒りのあまり声は出なかった。

 いったいシュラインは、どこでそんな情報を知ったのか。生体電磁波で相手の思考を読めることを知らないまどかは、戦慄していた。


『この調子なら、一時間以内には千葉に着く。目の前で好きな男の最後を見るといい。何も出来ないで……ね』


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