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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第10章 HANE
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10-5 片道切符

「うわっとっ!!」


 小林達は、白い絨毯に受け止められた。

 一気に数十mも落下して、助からないと覚悟していたところへ、その白く、毛足の長い絨毯のようなものが不意に現れて、小林と守里を救ったのだ。


「ア……アルテミスッ!!」


 小林は思わず叫んだ。

 それは、オオミズアオの巨獣・アルテミスの背中であった。

 次の瞬間,小林の脳裏に、地響きを上げて揺れ始める緑の塔が映し出された。アルテミスに直接触れることで、生体電磁波中継が始まったのだ。


「な……何だこの映像は!? 小林君ッ!?」


 守里も、隣にひっくり返ったままで叫ぶ。

 どうやら、アルテミスに触れている守里の脳にも、同様の映像が届いているらしい。


「こいつは、アルテミスが見ている光景なんだ。どうやら……あんたの言う通り、あの塔そのものが、敵ってワケらしいな」


 揺れる緑の塔は、周囲にどんどん緑の葉を広げ始めている。

 わずかに見えていた壁や窓も、枝に埋もれ、蔓に巻き付かれて見る見るうちに樹木そのもののようになっていく。


「コイツの登録名称コード・ネームクェルクスってのは“カシの木”だろ!? なんであんなでかい葉や、太え蔓までッ!?」


「いや。正確には、“クェルクス”ってのはコナラ属の名称だ。そんな名を付けたのはおそらく、植物体の基本構造が似ていたんだろう。だが……コイツは何種もの植物の融合体と言っていい」


 守里が解説するまでもなく、緑の塔=クェルクスはもはや何の植物だったのか分からないほど、様々な植物の葉や花を付けつつあった。伸びていくツルの先に、どう見てもヒマワリとしか見えない花が咲き、そのすぐ下にはマツやスギのような針葉樹の葉が付いている。さらには堅い樹皮と緑の枝が重なり合い、巻き付き合って、ひとつの巨樹と化しつつあった。


「つまり……この樹をぶっ倒さねえ限り、Gは……明は助けられないってことか……」


「そうだ。しかも、あのシルバー・バイポラスとかって地下巨獣が来るまでに、な」


 守里の言葉に、小林は大きくため息をついた。

 万事休す。というわけだ。だが……ひとつだけ、試してみるべき方法がある。それを思いついた小林は、守里の方を見て不敵に笑った。

 小林と目を合わせた守里も、同じ表情で微笑んだことに、小林は少なからず驚いた。


「あんた……なんで笑う?」


「いい考えが浮かんだからさ……君もそうなんだろ?」


「ああ……だが、成功率は高くなさそうだ」


 小林は、ぎゅっと唇を噛んだ。

 アルテミスの背に立ち上がり、鋭い目で緑の塔の下部を見据える。


「気が合うな。俺達は、同じ事を考えているらしい」


 守里も同じように、緑の塔の下の方……元、MCMO臨時本部だった建物の、出入り口のあたりを見た。

 日光があまり当たらないせいか、もしくは上層部へ生長が集中しているせいか、そこだけは樹皮に覆われておらず、入り口の痕跡が見える。


「……こんな有様になってしまったが、元々ここはMCMOの基地だ。どこかに機動兵器か何か残っているはずだ。そいつを起動、あるいは暴走させれば、一気に塔は崩れ落ちる」


「俺も同じ事を考えていた。だが、あの様子じゃ地下は、根っこでいっぱいなんじゃねえのか?」


「地下格納庫へのシューターがいくつかあったはずだ。そいつは特殊合金製だ。根につぶされている可能性は低い。無事なら、少なくとも地下までは行ける」


「行ける……か。片道切符だな」


 小林が言うまでもなく、それは実行者の死を意味する。


「ああ……だが、運良く機動兵器が残っていれば、そいつを起動させて上部層をぶち抜く。そうすれば、脱出できる可能性はあるさ。地下が根で溢れていたなら、辺り構わず火をつけて暴発を誘うしかないがな」


「そうなれば、火の中で潰されるしか道はないってワケか」


「戦闘用の機動兵器が、植物の根ごときに押し潰されるとは思えない。分のいい賭けじゃないが、やってみる価値はある……」


 楽観的な推測を口にしながら、守里の表情は堅い。だが、白くなるほど握りしめた拳が、強い覚悟を示していた。


「やらなきゃ、シルバー・バイポラスとやらが爆発して、Gも、俺達も、東京も、何もかもおしまいになる。問題は、シューターのカードキーだが……」


「コレのことか? 俺も一応、チームリーダーだからな」


 小林は、懐から取り出したカードをひらひらと振って見せ、足元のアルテミスの背を叩いた。


「話はまとまったな。おい、アルテミス、俺達をあの入り口に降ろしてくれ」


 小林が命令すると、二人の脳に、アルテミスから了解の意思が伝わり、大きく旋回して高度を下げ始めた。


“ココデ待ツ。死ヌナ、二人トモ”


「見損なうな。こんな樹の化け物、ちゃちゃっと片付けてやらあ」


 強がる小林の声は、しかしかすかに震えていた。



「うらあッ!!」


 小林のかけ声と共に、自動小銃の軽い発射音が響き渡ると、巨大なガラスが砕け散り、進入路が確保された。

 臨時本部の正面玄関だった場所は、ガラスであったがゆえに、植物の茎葉は付着できなかったようだ。


「助かった。テロ対策の防弾ガラスだったらどうしようかと思っていたんだが……」


「こっち側は本来、一般庁舎だったからな。地下格納庫以外は、軍事施設ってワケじゃねえんだ」


 訳知り顔で言いながら、小林が建物の中を走り出した。


「こっちだ」


「エリアシャッターが降りてるぞ!? 」


「そいつもこのカードで開く。アレが開かねえようなら、シューターも死んでる」


 小林がカードをかざすと、一般エリアとMCMOの軍事エリアを仕切っていた非常シャッターが、ゆっくりと開いていく。


「よく、こんな進入路がぱっぱと分かるな?」


「へっ。MCMOなんつったって、いつGの敵に回るかも知れねえからな。いつでも機動兵器ってのを分捕れるように、段取りだけは整えておいたのさ」


 得意げに言い放つ小林を、守里は呆れ顔で見つめた。


「コレがシューターだ。地獄へのジェットコースターだぜ」


 辿り着いた壁。

 そこにカードをかざすと、冷たい風の吹き出す暗い穴が四角く口を開けた。


「俺が先に行く。首尾は声で知らせるから、俺に続くか逃げるかは、君が判断してくれ」


 守里はそう言うと、穴の縁に手を掛けた。

 しかし、小林は無言で守里の肩をつかむと、無理矢理後ろに引き倒し、自分がシューターへと身を乗り出した。


「ぐッ!!……小林君ッ!? 何を!?」


「ここから先は、俺一人でいい。建物の中で、植物野郎やアリグモが出た時のアドバイザーとして来てもらったが……こんな事であんたを死なせると、明に怒られそうだからな」


「ま……待て……機動兵器のスターターキーは……?」


「生体認証、ってヤツらしい。ここを通過できれば、誰でも乗れるはずだ。この建物は、俺がなんとしても破壊する。あんたは逃げてくれ」


 そう言い捨てると、小林は真っ暗な穴の中に身を躍らせていった。



***    ***    ***    ***    ***



 すべての電源がストップしているらしい。小林は、真の闇の中を滑り降りていった。


(うわー。やんなきゃよかったなあ……)


 恐怖で身を強張らせながら、どこか脳の一部で冷静にそんなことを考えている自分がいる。

 通常状態でさえ、高速で滑り降りるシューターは慣れない者にとっては怖い。しかも、今はシューター内を照らすかすかな明かりも一切無く、また、行き着く先に安全なシートがある保証もないのだ。


「うあっ!? 痛えッ!?」


 小林は呻いた。シューターの壁にわずかに歪みがあり、それが足に当たったのだ。

 どうやら、かなりな力でクェルクスが外から締め上げたらしい。が、それでも少々変形するくらいで済んでいるのだから、シューターの強度は大したものと言えた。


(これじゃあ……機動兵器は、ダメかも知れないな……)


 まともに考えれば、無事であるはずはない。そう思うが、もし、起動どころか爆発もさせられないほど根に埋め尽くされていたら、そこですべては終わりだ。


(どうなってたって、何とかするしかねえ。待ってろよ、明)


 すぐにシューターの傾斜が緩くなり、小林の速度は落ちてきた。

 掛かった時間は数分にも思えたが、シューターはほんの数秒で小林を地下格納庫へと運んでいた。


「うおッ!? こいつは……」


 座らされたシートは、吸い付くように小林の体を受け止めた。

 それとほぼ同時に、周囲の計器類やLEDが光を放ち始め、モーターの駆動音がどこからか響いてきた。


「やったぜ!! コイツは生きてる!!」


 小林が両手で操縦桿を握ると、全周囲モニターが立ち上がった。

 そして、正面モニター上に浮かんだ文字は……


「ガーゴイロサウルス……? チーム・エンシェントの機体なの……か?」



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