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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第10章 HANE
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10-4 サンvsミルマラクネ

 「シャァァアアアアアアッ!! 」


 サンの発する威嚇音が、周囲の瓦礫を震わせた。

 白く輝く装甲に身を包む、巨大なニホンザル・サンは、牙を剥き、姿勢を低くして目の前の巨体をにらみ据えた。

 だが、その姿勢はサルが格上の相手に対してとる行動だ。突然姿を現した巨大な黒い影……Gの姿をした群体巨獣の前に脅えているのである。


「バカな……Gの……明のはずはねえ!!」


 守里の重みを支えるロープを保持しながら、小林は目の前で起きていることが信じられない、といったふうに頭を振った。


「動揺するな!! 小林君!! これはおそらくコイツの仕業だ。植物型巨獣があのアリを操って、Gに擬態させているに過ぎない!!」


 だが、群体巨獣の姿は、どう見てもあの巨獣王Gにしか見えない。

 融け固まった溶岩のような体表も、碧青色コバルトブルーに輝く背びれも、炯々と光る目も、額に輝く宝石さえも……。



「気をつけて!! サン!! 本物のGじゃなくても、何をやってくるか分からないわ!!」


 サンは、いずもの声に応えるように低く唸りを上げると、ゆっくりとGの姿をした群体巨獣の周りを回り始めた。

 その挑発するような動きにも、微動だにせず立ちつくす群体巨獣。

 だが、サンがちょうど真後ろ、尻尾の先端へさしかかった時、驚くべき速さで群体巨獣は、後ろへ動いた。


「えっ!?」


 いずもは自分の目を疑った。

 長大なGの尻尾。それがパックリと二つに割れ、両側から襲ってきたのだ。

 尻尾が空を切り、再び一つになるのに、瞬きするほどの時間しかかからなかった。

 素早さを身上とするサンでなければ、二つの尻尾に両側から抱え込まれていただろう。

 飛び退いたサンは、手に持っていた鉄の棒を、槍のように投げつけた。


「ガキンッ!!」


 槍は瓦礫の山に突き立った。

 サンゴ状の背びれに刺さるかと見えた瞬間、Gの姿をした群体巨獣は、掻き消すようにいなくなった。


「えっ!?」


 いずもの体が、突然シートに押しつけられた。再びサンが、勢いよく飛び退いたのである。

 たった今までサンのいた場所に、何か液体状のものが浴びせられ、白い煙を上げた。ほとんど姿勢を変えないまま、少し離れた場所に立ち、こちらを向いている群体巨獣がモニターに映る。その口から、滴る液体が白い煙を上げていた。


「あいつが……コレを吐いたのね?」


 サンの息づかいがコクピットを揺らす。

 ゆっくりと、警戒しながら、サンは瓦礫の間に身を隠した。視界から消えたサンを確認しようと、群体巨獣が滑るように移動した瞬間。

 地を蹴って飛び出した白い弾丸は、その肩口をかすめて後方へ飛んだ。

 ニホンザルは本来、自分より強いものと戦うことはしない。

 本来逃げる方が得意なのだ。だが、群れが危機に瀕した時は集団で相手を囲み、攻撃を加えることもある。

 その戦法はヒットアンドアウェイ。

 一撃を加え、素早く離れる。サンもその戦い方を踏襲した。

 後方にあった巨大な瓦礫に素早く身を隠すと、そのまま瓦礫の後ろを走り抜け、反対側から駆け出して、また背後から攻撃を加える。

 群体巨獣の一部が飛び散り、周囲に黒い飛沫をまき散らす。どうやら、コルディラスなどと違って、群体装甲はさほど堅固ではないようだ。

 だが、肩の肉を大きく失いながら、群体巨獣は表情も姿勢も変えない。

 肉、といっても、それは黒い虫達の集合体なのだ。苦痛を感じることはないのであろう。


「ホアァァァアアアアッ!!」


 サンが威嚇の声を上げて、再度突撃する。

 爪。脚。牙。脇を通り過ぎるたびに、鋭い攻撃が加えられ、群体巨獣の体から黒い煙状の飛沫が散って、その姿は次第に欠けていった。



「いける。いけるぜ。Gのマネしたって、所詮偽物だ。サンでも充分斃せる!! 高千穂さん、今のウチだ。松尾さんを助け出してくれ!!」


「わ……わかった!!」


 しばらく、呆気にとられたように、二体の攻防を見守っていた守里は、慌ててロープを握り直した。

 紀久子まで、ほんのあと数m。

 助け出してしまえば、G=明を解放して、さらに反撃のための戦力を加えることが出来る。

 ロープを必死で手繰り、紀久子の側へ近づいた守里は、腰からナイフを抜いた。だが、紀久子の体に何重にも巻き付いた蔓は、恐ろしく丈夫で容易には切れない。

 守里は蔓の末端を探し出し、ほどき始めた。


「紀久子……紀久子ッ!! 大丈夫かッ!? 俺だ!!」


 守里の声が届いたのか、紀久子がうっすらと目を開けた。


「……守里さん? た……助けに来て……くれたの?」


 守里の手が止まる。


「……俺が分かるのか?」


「決まってるじゃない。守里さんを忘れたり、しないよ」


「…………君はいったい……何者なんだ?」


「何? 何言ってるの?」


 突然、冷たい響きを帯びた守里の声に脅えるように、紀久子は目を大きく見開き、身をすくめた。だが、守里の表情は変わらない。


「紀久子は俺のことを、高千穂さんって呼ぶんだ。恥ずかしいからって……一度も下の名で呼んでくれたことは……ないッ!!」


「…………ちっ。こんな簡単なミスでボロを出しちまうとはな」


 紀久子の……いや、紀久子の姿をしたモノの口調がガラリと変わった。


「だが、伏見明だけでなく、高千穂ぉ、貴様までれる機会チャンスはそうはねえ。逃がさんぜえ!!」


 叫んだと同時に蔓が引き千切られ、おぞましい姿が現れた。思わず後退った守里を追って、黒い爪が空を切る。

 不安定な足場を踏み外し、守里は両手でぶら下がった。

 見上げる視界の中を、不気味な生き物が這い寄ってくる。たしかに、胸から上は紀久子のそれだった。

 だが、腹から下は黒っぽく、ぶよぶよと膨らんだ風船のようである。そこにはいくつもの体節が見え、体節ごとに赤い斑点が見える。しかも人間の腕のすぐ下から、長く尖った針金のような脚が数本、横向きに突き出し、醜い腹部を引き摺るようにしていた。

 怪物は膨らんだ腹部の先端から、何か白いものを発射した。

 液体、と見えたその白いものは、守里の体にかかると同時に固化し、糸状になってぶら下がる。


「ぐあッ!? これは!?」


「けけ。動けねえだろ? 便利なんだよな、この糸」


「貴様……クモってことか!? それも……この擬態能力……その形態……蟻蜘蛛ミルマラクネだな!? あのGの姿をした群体巨獣も貴様が操ってるんだろう!?」


「へえ。そこまで分かるか。さすが生態学の準教授様だな?」


「分かったのはそれだけじゃない。Gが騙されたって事は、匂いも、思考波の波長までも、紀久子に似せることが出来るってわけだろう!?」


「これから死ぬヤツがインテリぶるんじゃねえよ。だが……その通りさ。あの化け物ザルと戦ってるのも、俺がアリグモとクロヤマアリに、シュライン様の細胞を植え付けて操ってんのさ。文字通り蟻蜘蛛ミルマラクネってワケだ」


 紀久子の顔をした怪物は、紀久子の声のままでゲタゲタと下品に笑った。


「そして……貴様は……東宮、そうだな?」


「なぁんだ。気づいていたのか。このまま紀久子の顔と声で、貴様にとどめを刺してやろうと思っていたのによ? だが……貴様が死ぬことに変わりは――」


 勝ち誇った表情で言いかけた瞬間、紀久子の顔をした怪物は後ろにのけ反った。

 黒い影が、上方から体当たりをしたのだ。


「ゲスの考えそうなことだぜ!!」


 怪物の前に小林が立ちはだかる。

 守里が、両腕に力を込めて足場の上に這い上がった。


「て……てめえ……上からここは見えねえはずなのに……ッ」


「大丈夫か!? 高千穂さん!?」


「小林君……なんて無茶を……俺は、逃げてくれというつもりで通信機のスイッチを入れたんだぞ?」


「なかなかの機転だったぜ?」


 紀久子が偽物だと分かった時、守里は通信機のスイッチを入れ、異変に気づいた小林は、残ったロープを使って振り子のように飛び降りたのであった。


「どのみち、コイツを倒さなきゃ明も助けらんねえんだ。あんたは、ついでさ」


「言ってくれるな」


 糸に捕らわれて動けない守里は、小林に支えられたままニヤリと口元を歪めて笑った。

 どこか怪我をしているのだろうか、その表情は苦しそうだ。


「キシャアアアアアア!!」


 威嚇音であろうか。鋭い音が大気を切り裂いた。怪物の顔が醜く歪み、紀久子の面影が消えていく。口元がバックリと割れて、黒い二つの牙が顔をのぞかせた。


「ぎざまら。よぐもッ!!」


 飛びかかってきた怪物に向けて、小林の抱えた銃が火を噴いた。

 アスカから預かってきた自動小銃。扱うのは初めてだったが、いくら素人の小林でも、これほど至近距離であれば外しようがない。小型ミルマラクネは、数発の弾丸をまともに浴び、黄色い体液を飛び散らせて弾け飛んだ。


「ふう……松尾さんの顔のままだったら、撃ちにくくて仕方ないとこだったぜ……」


「早くここから逃げよう。俺の勘が正しければ、アレは東宮の本体じゃない」


「ど……どういうことだよ!?」


「たぶん、今、俺達のいるこの緑の塔……植物体クェルクスそのものがヤツだ。疑似フェロモンと生体電磁波で操っていたんだ。……あのGの姿をした群体巨獣も」


“面倒なヤツだぜ。そこまでバレてんじゃあ、絶対に逃がすわけにはいかねえな”


 東宮の思考波が憎々しげに響くと同時に、彼等の登っている緑の塔そのものが、小刻みに震動し始めた。紀久子に化けていた蟻蜘蛛ミルマラクネは、すでに個体ごとにばらけて、黒い染みのように周囲と同化し始めている。


“おまえら、ここで死ね”


 冷たい思考波。

 建物全体を締め付けるように生えていた巨大な蔓が、目の前でさらに太さを増し、建造物に大きくヒビが入っていく。臨時本部の建造物を破壊することで、小林と守里を振り落とそうというのだ。


“この高さから落ちれば……助からねえよな?”


「ちくしょうッ!! 東宮……そこまで人間やめやがったのかよッ!!」


 守里が叫ぶ。


「ダメだ!! 崩れるっ!!」


 足場を無くした小林達は、悲鳴を上げて落下していった。


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