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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第7章 首都決戦
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7-6 造反

「……おかしい。Gの周辺エリアにだけ、小型巨獣の発生が見られないのはどういうわけだ?」


 樋潟は誰に言うともなく呟いた。

 すでに東京都心部のあらゆる場所に、次々と小型巨獣が姿を現しつつあった。バイポラスは、地下で相当数の卵を産んでいたらしい。

 しかし、中枢部である明を失い眠り続けるGのいる、皇居周辺にはまったく出現していないのだ。それはサテライトマップと現状を照合して、一目瞭然だった。


「Gが停止状態になっている皇居近辺には、あまり地下施設がない、というだけのことではないのですか?」


 科学者の八幡には、戦局を俯瞰的に見ることが出来ないようだ。


「いや、見てください。地下鉄の乗り入れの多い東京駅周辺にほとんど巨獣が見られないのは、それだけでは説明が付きません。

 しかも……少し距離を置くとむしろ集中して出現している。どうも、奴らはGを中心に半径二キロほどの円で取り囲むようにして発生しているようです」


「まさか……シュラインはG細胞による影響を恐れている?」


「おそらくは、何度もG細胞弾頭を受けて警戒しているのでしょう。

 そして今は……邪魔なGを殺すために必要な戦力が集まるのを待っているのではないでしょうか。あくまで推測に過ぎませんが……」


「これだけの数の巨獣でも、まだGに勝てないと?」


「それほどシュラインは確実にGを倒したいのでしょう……そして待っているのは海からの巨獣ではないでしょうか」


 それを聞いて、八幡が目を見張る。


「例の、鬼王がとどめを刺せなかったパルダリスですか!?」


「そうです。おそらくはシュラインの自我を持っている巨獣、パルダリス……。

 ヤツが東京湾岸に現れてからでは遅い。Gを動かすなら、今しかありません。すぐに明君に出撃要請を!!」


 その時、女性オペレータの一人が声を上げた。


「樋潟司令!! MCMO本部より連絡です!!

 MCMOの攻撃部隊を乗せたメガプテラ隊が上海の本部を三時間前に出発しているとのこと!! そろそろ首都圏上空へ到達する模様!!」


「三時間前だと? それを今頃伝えてくるなんて、いったいどういう事だ?」


「電文読み上げます。『そちらの状況は把握している。Gは動かさずに、我々の到着を待て』以上です」


「三時間といえば、ブルー・バンガードから連絡の入った直後に発進していた計算になる……。くそっ!! こちらの情報は筒抜けの上、虚仮こけにされたわけだ!!」


「し、しかし……大型輸送機メガプテラに何を乗せてきたのでしょう? それにGを動かすな、とは!?」


 樋潟が八幡の疑問に答える前に、もう一人の女性オペレータが声を上げた。


「首都圏上空にメガプテラ隊が現れました!!」


 メインモニターには黒々とした大型輸送機の編隊が捉えられていた。

 機体の大きさの割には翼が小さく見えるのは、長流線型のその機体そのものに揚力を発生する構造が組み込まれているからだという。

 そのクジラのような巨体の脇には、MCMOのシンボルマークが銀色に輝いている。

 MCMO最大の長距離大型輸送機M-KJRメガプテラを、どうやら全機動員してきた様子だ。


「首都圏上空のメガプテラ隊から、何か発進しました!! 高速で降下中!! 数は七!!」


「映像を出してくれ!!」


 地上監視カメラからの映像を見た樋潟と八幡は息を呑んだ。


「なん……だ!? あれはメカじゃない!!」


 降下してくるのは機動兵器ではなかった。一見、メカニックな形状をしてはいたが、その姿は確かによく見られる生物の姿をしていたのだ。

 順次降下してくる七つの影、その中でもっとも地上近くへ接近している影が、モニターに拡大画像で映し出された。


「あれは……昆虫!? まさか本部は、この短期間であのダイナスティスと同じ群体巨獣を作り出したっていうのか?」


 八幡は驚きの声を上げた。

 半透明のはねを羽ばたかせ、青空を背景に黒々と光るその姿は、巨大なクワガタムシの姿をしていたのである。

 他の六つの影とほぼ等間隔で降下してくるその群体巨獣は、地上へと真っ直ぐに降り立った。


「見ろ、頭部と胸部にメカニックが組み込まれているようだ。本部はいつの間にシュラインの群体化のメカニズムを解明したんだ!?」


「改造群体巨獣……まさかMCMO本部がそんなものを開発していたなんて……」


「……少し前から長官の態度も、どうもおかしかった。

 東京がこんな状態になっても、チーム・カイワン以外に本部からの支援がないのは、他国でも同時多発的に巨獣問題が起きているせいかと思っていたのだが……」


 樋潟は、悔しそうにデスクを叩いた。

 Gの影響からか、他国でもいくつか巨獣がらみの事件が起きているのは事実だった。だが、MCMO本部はそれにかこつけて日本への対応を、すべて臨時本部の樋潟に丸投げしてしまっていたのだ。


『せっかく、支援部隊を率いてきてやったというのに、不満そうだな?』


 メインモニターにMCMO長官のベン=シャンモンの顔が映し出された。


「シャンモン長官!? いったいどういうつもりなのです!? あなたのやっている事は領空侵犯でもあるし、国際巨獣憲章にも違反している」


 樋潟の言う事はもっともだ。

 軍事力を持つ超国家組織とはいっても、MCMOはあくまで国際連合加盟国による公益団体である。本部といえども勝手に戦力を増強したり、巨獣を処分したりは出来ないのだ。

 改造巨獣を秘密裏に作り出し、日本国政府への事前通達もなくそれを率いて侵攻するなど、許される行為ではなかった。


『そんなことはもう、どうでもいいんだ。Gは私が使う。君たちは黙って見ていろ』


「どういう意味です!?」


『言った通りの意味だ。私の部隊を見ただろう?

 我々は一から巨獣を作り出し、そして操る事に成功したんだよ。チーム・カイワンの送ってくれたシュライン細胞とG細胞のデータのおかげでね』


「その技術でGを動かせるとでも!?」


『今より識別コードを送る。間違ってもそっちの部下に攻撃させないようにしたまえ』


 樋潟の問いには答えず、ベン=シャンモンはそう言って皮肉な笑いを浮かべた。


「メガプテラより味方識別コードが転送されてきました。メインモニターに出ます。新規登録データへの移行開始します」

 

 七体の昆虫型巨獣のデータが画面上を流れていく……いや、正確には彼等は巨獣ではない。

 無数の昆虫が集まり、それぞれに有機的に組み合わさる事で巨獣のような姿を作り出しているのだ。それは擬巨獣とシュラインが呼んでいた、群体巨獣と同じものであった。


「なんだこれは……識別名称コードネームがハイメノパス、メガソーマ、タイタヌス……カマキリにゾウカブト、ヒラタクワガタだと?」


「ビノドゥロサス、ルカヌス、バトセラ、ベスパ……それぞれオオクワガタ、ミヤマクワガタ、シロスジカミキリ……そしてスズメバチ。

 どれも元々が大型昆虫でダイナスティスに劣らない危険性だ。こんな連中が万が一コントロールを離れて暴れ出したらどうするつもりだ!?」


『それは絶対にないのだよ。何しろ、この群体巨獣どもの中枢部は我々が作り出したコアなのだからね』


「コアを作り出した……とはどういう事です!?」


『鬼王のコアであるネモは、生体部品ヒュドラの中を流れる電磁パルスで、偶然発見されたものだ。

 しかし、ネモの性質を再現した人造コアユニットに、更にシュライン細胞の特性を組み込んだ結果、群体化した生物を自由にコントロールできるようになったのだよ。ナヴィゲーションしか出来ない鬼王よりも遙かに自在にね』


「では……彼等は昆虫を集合させて作った、生体ロボットということか」


『そう。つまり間違っても我々に逆らう事は出来ないのだ。しかも、乗員はMCMOの養成した精鋭だ。もう巨獣どもに、我々人間の生活が脅かされる事はない!!』


 樋潟司令も八幡も、モニター上で得意満面の笑みを浮かべるシャンモンを睨み付けている。

 二人の顔に浮かんでいたのは、怒りの表情であった。


「あなたのやっている事は……生命に対する冒涜だ」


『違うな。人間が出来る事を精一杯やっているだけだ。この厳しい世界で生き残るために……な』


「出来る事だから、何をやってもいい、というわけではない!!」


『黙って見ていたまえ!! あの恐怖の象徴、Gが私の手足となる瞬間を!!』


 皇居近くでうずくまった姿勢のまま動かないG。

 そこへ銀色の垂直離着陸機が真っ直ぐに接近していくのが見えた。おそらくベン=シャンモン長官が乗っているのだろう。

 全体に平たく、細長い。しかもいくつもの稼働パーツで出来ている様子で、細長いマニピュレータは節足動物の脚のようであった。しかも全体のフォルムすら生き物のように微妙に形を変えている。

 その戦闘機とも輸送機ともつかない奇妙な形状の航空機は、上からつかみかかろうとする鳥のようにも、昆虫のようにも見えた。

 動かないGの背部から、ゆっくりと重なったその機体は、微妙な修正を繰り返しながらGの体にフィットしていく。

 変形を完全に終えた時、Gの上半身のほとんどはメカニックに覆われた姿と化していた。コックピットのシャンモンは得意げな笑みを浮かべ、機体の制御切り替えスイッチを入れた。


『立て!! お前の力でこの地上から巨獣バケモノどもを一掃するのだ!!』


 頭部から背部そして腕部にかけて、金属製の鎧でも被せられたかのような姿となったGはゆっくりと立ち上がった。

 その機械的な動きは、これまでのGのそれとは明らかに違う。

 しかも兜を被せられたかのような装甲の隙間から見える目は閉じたままであった。

 外界の様子が見えるはずもないGは、しかし遠巻きにGの変化を見守る小型巨獣の群れに向かって立った。

 いつの間にかGの周囲には一定の距離を保って、十数頭の小型巨獣が集まってきていたのだ。

 ヴァラヌスやバシリスク、コルディラスの特徴を少しずつ持った彼等は、その大きさも形状も様々であったが、一様に怒りを湛えた目でGを睨み付けていることだけが共通していた。


『撃て』


 シャンモンは唐突に命令した。

 音声認識システムを持っているのだろう。シャンモンの命令を受けたGは、いきなり口から放射熱線を吐いた。


「キシャアアアアアァァッ!!」


 断末魔の叫びが響き渡る。

 Gの目前まで接近してで様子をうかがっていた一体のコルディラスが、放射熱線によって葬り去られたのだ。

 トゲ状の分厚い装甲を持つコルディラス。

 トリロバイトのリニアキャノンですら、一度ははじいて見せたそのコルディラスを、Gの放射熱線はあっという間もなく焼き尽くしていった。

 しかもコルディラスを貫いた熱線は、ほとんど威力を無くさないまま後方の町へ吸い込まれていき、いくつもの建物を巻き込んで巨大な爆発を起こした。

 ビルに取り付いていたバシリスクやヴァラヌスが、声も上げずにその建物ごと蒸発していく。

 その様子を見て樋潟は驚きの声を上げた。


「な……これは!? 熱線の威力が増している!?」


「機械的に増幅している様子はありませんでした。おそらく、これがGの手加減なしのフルパワーという事なのでしょう」


 八幡の言葉を裏付けるかのように、熱線を放った後、操られたGは数秒間うな垂れて、荒く呼吸している。

 おそらくは電気的に神経を操られているため、パワーの調整がきかないのだ。


「シャンモン長官!! あなたのやっている事は国際法違反の犯罪だ!! すぐにそこから降りてください!!」


『すべて承知の上だよ樋潟君。私の目的は、Gを使ってこの世界から巨獣を一掃する事なのだからね』


「巨獣を一掃ですって? バカな。巨獣という脅威のタガが突然外れれば、これまで開発した兵器だけが残り、水面下だった各国の争いが激化する。そうなれば世界大戦にも発展しかねません!!」


『私の操るGと、精鋭昆虫巨獣部隊がいれば……そんなことにはなるまい? 巨獣を全滅させたその圧倒的な力で、今度は人類を統べればいいのだからね』


 モニターに映るシャンモン長官の目は、ウソや冗談を言っている目ではない。


「あなたは今……世界征服を宣言したのですよ?」


『そう言っている』


「私は、このことを国連安保理に報告する義務があります。すぐに投降してください」


『選択肢は一つではないだろう?

 私に従い、この力を使って巨獣を滅ぼし、共に繁栄の道を進む気はないのかね?』


「会話が…………成立しないようですね」


『残念だ』


「作戦行動中の各チームに告ぐ!! シャンモン長官がMCMOに対して……いや人類に対して反乱を起こした。

 メガプテラより降下した昆虫型巨獣群、および機械武装したGは敵だ!! 味方識別コードに惑わされることなく、撃破せよ!!」


 樋潟は苦渋に満ちた表情で一気に命令を発すると、握った拳で目の前の機器を思い切り殴った。


「長官……こんな……どうしてこんなことをッ!!」


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