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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第7章 首都決戦
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7-2 地底巨獣

「樋潟司令!! 丸の内のオフィスビル群が被害を受けています!!」


 メインモニターには、監視カメラらしき固定アングルの映像が映し出されていた。

 まるで地中に吸い込まれるように、下部から崩れていく高層ビル。

 崩壊の途中でバランスを崩し、横倒しになる建物。

 逃げまどう人々。

 犠牲者は百人やそこらではないはずだ。まさに悪夢といっていい光景であった。

 MCMO臨時本部の司令室には、ブルー・バンガードで出撃したチーム・ドラゴンとチーム・カイワン以外の、すべての攻撃チームが集合し、その画面を凍り付いたように見つめている。

 その中には、駆けつけた明の姿もあった。

 建物の倒壊で、地下の空気が押し出されたのであろう。濃い土煙が地下鉄の入り口から吹き出した。監視カメラの視界はその土煙に一気に覆われ、ついには何も見えなくなった。


「二十七号カメラに切り替えてくれ」


 樋潟の声は冷静だ。

 こうなってしまっては、慌てても取り返しの付かないことを知っているのだ。とにかく、出来る方策を考えてすぐに動くしかない。

 画面は同じ場所を、少し離れた場所から映した映像に切り替わった。


「……ひでえ」


 誰に言うともなく小林が呟く。

 他の隊員達は言葉もない。国道十五号線沿いの建物が、ほとんど消滅しているのだ。

 しかもその被害は驚くべき早さで広がりつつあるようだ。地中をバイポラスが進むにつれて次々と拡大していっているのが手に取るように分かった。


「住民の避難状況は?」


「国道沿いには避難命令が出ていますが……これほどの速さで都心に到達するとは予測していませんでしたので……周辺にはまだ、かなりの人々が取り残されている模様です」


「どうするか……」


 樋潟は腕組みをし、目を細めて考え込んだ。

 警察、消防はもちろん、すでに自衛隊も出動している。だが、彼等の装備だけで、被災者の救出が間に合う状況ではない。だが、これを引き起こした地中の敵に対して、MCMOは対処するのが本来の任務だ。

 これ以上、手をこまねいていて被害が拡大させるわけにもいかない。


「司令!! 私達が避難経路を確保します」


 前に進み出たのはいずもだった。


「む……たしかにサンとカイなら、瓦礫を撤去して避難路を確保する事も、救出作業も容易にできるな」


「行きます!!」


 いずもは命令を待たず、ヘルメットを小脇に抱えて司令室を飛び出していった。


「我々はどうしたらいいのですか!?」


 前に進み出た羽田を、樋潟が両手を挙げて押しとどめた。


「はやるな。

 被害者の救出は雨野君達に任せて、我々は攻撃方法を検討する必要がある。地下のバイポラスを倒すのは容易ではないぞ」


「しかし……」


 樋潟の言葉に、羽田は悔しそうに唇を噛んだ。


「見てくれたまえ。これが……現在東京を襲っている巨獣、バイポラスの全体像だ」


 八幡の声と共に、サブモニターにはつるりとした印象の細長いピンク色の生物が映し出された。

 モグラのような強力な前脚を持つミミズ、といった雰囲気の生物である。

光のない地下世界で生活する為、体どころか鋭い爪を持つ前脚までもが、色の抜けた感じのピンクの表皮をしている。ところどころ薄く茶褐色の斑紋が入っているが、総じてピンクと言っていい色彩だ。

 それだけなら気味の悪い印象がぬぐえないだろうが、頭部には切れ込みのようにも、笑ったようにも見える大きな口があり、ホクロのような黒い目がふたつ付いているため、妙な愛嬌を醸し出していた。


「なに、この顔……可愛い……」


 その画像を見て、加賀谷珠夢が思わずつぶやく。


「ん…・・・まあ、この目は表皮に覆われていて、光を感じる程度の痕跡器官だそうですがね」


 珠夢の女の子らしい反応に、八幡教授が思わず口を押さえて苦笑を堪えながら説明し、咳払いをした。


「む、エヘン。すみません。不謹慎でした」


「しかし……何なんですかこの巨獣は。まるでエイリアンだ。本当に地球の生物が巨獣化したものなんですか?」


 半ば呆れ顔でそう言う羽田を始めとして、バイポラスのあまりにも異様な形態に、攻撃チームのメンバーのほとんどが息を呑んでいた。


「もちろんだ。というか、この画像は巨獣化前の生物をCG化したものなのだ。

 なにしろバイポラスは巨獣化後は、一度も地上に姿を見せていないのでね。しかし、ほとんど形態に変化はないと予想されている」


「まさか」


「アホロテトカゲという、メキシコ原産の爬虫類なのですよ。

 視力はほとんど無く、嗅覚と振動に敏感です。サイズは不明ですが……おそらく二百五十mから三百mの間でしょう」


「それじゃあ、何も分からないのと同じではないですか!?」


 そう叫ぶ羽田の額は、怒りにひくひくと震えている。


「仕方ないのですよ。全身が見える状態になったことは一度もなく、常に体の一部しか観察されていないので。現地でも生息数の少ない希少種だったのですがね。G細胞の実験に使われたのは、個体群内の遺伝的多様性が低く、Gと共通の細胞構造が見つかったせいだと言われています」


 八幡教授が樋潟司令の言葉を引き継いで説明した。要するにG細胞との共通点があって、しかも実験に使いやすかった、ということのようだ。


「……面倒な生き物を、巨獣化しちまったもんだ」


 オットーが呆れたように口を挟んだ。


「ま……それよりヤツ……バイポラスは、固い岩盤のある地中を……どうしてあんなスピードで動き回れるんですか!? いくら巨獣だと言っても……」


 オットーの疑問ももっともだ。

 推定全長三百m、直径二十mのミミズ状の怪物である。いくら地中に特化した形態や生態を持っていたとしても、それほどの巨体でこの短時間に首都圏の地下を動き回り、多くの高層建築物をなぎ倒すのは、相当のエネルギーを持っていても不可能に近い。


「バイポラスは自分で掘った穴を移動しているだけではない。どうやら地下施設、とくに地下鉄網を利用して行動しているらしい」


「地下鉄網!?」


「首都圏の地下には、様々な地下施設が作られている。

 ヤツは、その地下施設を掘り拡げて移動しながら、地上の建造物を破壊しているようだ。中でも主に地下鉄網を利用しているのは、これを見れば一目瞭然だ」


 樋潟がモニターに映し出した地図には、たしかに被害エリアに重ねて地下施設が描かれている。何カ所かの例外はあるものの、たしかに地下鉄の路線沿いに被害が集中している。


「では……地上からバイポラスの位置を予測して、地下に貫通する攻撃を加えることが出来るのでは?」


「地中を移動する速度が早い上に、固い岩盤に守られている。地上からの直接攻撃では、効果は薄いと考えられる」


 アスカの提案に、樋潟は渋い顔で答えた。

 彼女の操るアンハングエラは重武装ヘリだ。狭い地下鉄から地下に侵入しての攻撃はできない。

 しかしそれは、チーム・キャタピラーのアルテミス、チーム・ビーストのベヒーモスも同じであった。

 もしかするとGの放射熱線ならば、地中へ貫通する攻撃も可能であるかも知れなかったが……アスカがちらりと視線を向けても、明は画面から目を背け、黙って俯いている。

 その時、オペレータから声が上がった。


「樋潟司令!! ブルー・バンガードから緊急通信です!!」


「繋いでくれ」


 メインモニターにウィリアム教授の大きな顔が映し出された。


『なんとか……アンドリアスとヒドロフィスを斃した』


 報告を聞いた樋潟は、ほっとしたように大きくため息をつき、口元を弛めた。

 しかしウィリアム教授の表情は芳しくない。

 よく見るとかなり疲れている様子だ。いつもはきちんとオールバックに整えられている白髪も乱れ、幾筋か頬に汗で張り付いている。


『しかし……シーサーペントNEOが沈められ、鬼核は中破してメンテナンス中だ。その上……パルダリスは完全には仕留めきれていない』


「パルダリスが!? どういうことですか教授? たしかチーム・カイワンが鬼王で迎撃に向かった筈では……」


『そう……一番悔しがっているのは彼等だ。

 かなり手強かったようだし、シュラインの”声”も聞いたらしい』


「”声”ですか!?」


『そうだ。もしかすると、シュラインの意識はパルダリスにあったのかも知れん。一体ずつしか操れないとも考えられるが……。海生無脊椎動物を数種類操って、パルダリスを群体装甲し、その生物を武器としても使用してきたとのことだ。』


「……つまり、昆虫だけでなく日本近海の海生生物もまた、シュライン細胞に汚染されつつある……ということですか?」


 八幡が深刻そうに問いかけた。


『そう考えざるを得ん。最初に海生のヒルを媒体ベクターに使い、様々な生物種にシュライン細胞を感染させたのだろう……そちらの様子はどうだね?』


「首都圏にバイポラスが到達しています。今、迎撃作戦を検討中なのですが……」


 樋潟は機動兵器の開発者であるウィリアム教授にこれまでの経緯とバイポラスの行動特性を伝えた。


『…………そちらにある戦力で、地下鉄網に侵入してバイポラスと戦える機体は……ケルベロスだけだな』


 それを聞いたライヒ大尉が顔を上げた。

 たしかに、細長い列車状の戦闘車両であるケルベロスだけなら、地下へ潜る事が可能だろう。しかし、火力は圧倒的に足りない。


「ケルベロスだけで……ヤツを倒せますか?」


『鬼王のヒュドラを使えば地下への攻撃も可能かも知れんが……そちらへ到着するにはあと数時間はかかる上に、中破した鬼核ではヒュドラを上手く制御できない可能性もある。

 そんな事をしていては、被害が拡大する一方だろう。

 車幅の狭いケルベロスなら地下鉄線路を走行できる。三機で三方向から地下を進んでヤツを威嚇し、地上へ追い出すんだ。そして待機させておいた他の戦力でとどめを刺す。これが唯一、有効な作戦だと私は思う』


 だが、それは敵の位置すら把握できない暗闇の中、いつ崩れるとも知れないトンネル内での戦闘を意味する。ケルベロスの搭乗者にとっては過酷な戦闘であるといえた。


「やって……もらえるかね?」


 樋潟がライヒ大尉に厳しい表情で問いかけた。


「当然です。我々は戦う為に日本ここに来たのですから」


 ライヒ大尉は力強く答えた。

 彼の後ろに控えたオットーとマイカも大きく頷き、わずかに口元を弛めた。

 樋潟は目を閉じた。ここは彼等に任せる以外にない。心を静めるように大きく深呼吸をし、危険な命令を下す。


「よし。バイポラス殲滅作戦を開始する。チーム・ビースト出撃。他の攻撃チームはいつでも出撃できるよう、第一種警戒態勢を維持して待機!!」


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