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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第6章 人造巨獣・鬼王
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6-13 ネプチューン

「山口君!! 干田君達の戦況は分かるか!?」


 ウィリアム教授は、情報収集担当のオペレータ席に叫んだ。

 だが、その女性オペレータは表情を曇らせながらヘッドフォンに意識を集中している。音波をたどりながら海中の様子をキャッチしているのだが、雑音が多すぎるのだ。


「…………水流と気泡、あと正体不明の雑音が激しすぎて、リヴァイアサンからの情報がほとんどつかめません……」


「やはり海上からでは限界があるか……」


 海上からでも、音波探知機でアンドリアスの遺体らしき巨大な塊は捉えられていた。

 何分経過しても、その位置も姿勢も変わらないところを見ると、リヴァイアサンはアンドリアスの撃破に成功したと思われた。

 だが、だとすると干田達の乗るリヴァイアサンが、現在戦っている相手は何者なのか?


「待って下さい!! これは……金属の圧壊音!!……リヴァイアサンの駆動音も聞こえます!!」


「どうやら、アンドリアス以外に敵がいるようだな。

 このままでは干田君達が危ない。これより本船は潜航してリヴァイアサンの支援攻撃を行う!!」


 ウィリアム教授は、彼自身の建造したリヴァイアサンを、こと海中においては最強の対巨獣兵器だと自負していた。

 しかし、海中は武器も運動性能も通信も制限される。複数の巨獣相手となると苦戦は必至だろう。ウィリアム教授の心に不安がよぎった。


「補助推進機関停止!! すべての動力を主推進機関へ!! これより本船は潜航モードに移行する」


「補助推進機関停止。」


「艦体上部の通信設備を格納します。耐水圧シャッター閉鎖。甲板上の乗務員は速やかに艦内へ退避してください」


「重水素回路始動!! タービン回転率百二十パーセント!!」


「主推進機関オールグリーン。いつでも始動できます」


「総員、戦闘配置!! バラストタンク注水。主推進機関フルパワー!! ブルー・バンガード、急速潜航!!」


 ウィリアム教授の声と共に、海上を浮上航行していた潜水艦ブルー・バンガードは、海中へと進んでいった。



***    ***    ***    ***    ***



「リヴァイアサンを確認しました。水深五百m!! 海溝に近い位置です」


 潜水開始から数分もしないうちに、女性オペレータの奥野の報告が上がる。

 この辺りは急深になっていて、入り組んだ岩礁帯に比較的小さな海溝が黒々と口を開けている。小さいとはいっても、海底の谷間は千m以上の切り立った断崖だ。

 そこに落とされれば、いかにリヴァイアサンといえども無事では済むまい。


「危ないところだな。干田君達の状況はどうだ!?」


「機体後部に全長五百m近い巨獣がまとわりついています!! 形状から、おそらくヒドロフィスと思われます!! さらに周囲に無数の小型生物反応!! 囲まれているようです」


 エコーロケーションモニターには、百m近くある細長い竜の姿をしたリヴァイアサンの姿と、それにまとわりつくヘビのような巨獣の影が映っていた。ヒドロフィスは縦に扁平な体を持つ、ほぼ完全に水生の巨獣だ。

 音響探査のモニターは、色彩を反映しないためハッキリしないが、本来は派手な白黒の横断模様の入った、Hydrophis属のウミヘビ特有の姿をしている。

 ウミヘビは、本来はおとなしい性質であるとされ、ヒドロフィスも隠棲傾向が強い。

 牙には猛毒を持つものの、頭部は小さく顎も小さいため、平常時であれば噛みつくことは少ないのだ。しかし、相手から襲ってきた場合にはその限りではない。牙の猛毒は相手が巨獣の場合には、特に強力な武器となる。

 巨獣大戦時にも数回の戦闘があったとされているが、負けは記録されていない。

 おとなしい性質とはいえ、怒らせるとしつこく襲ってくる上、長い全身を生かした巻き付きで相手を締め上げる。さらに猛毒で動けなくした相手の巨獣をを呑んでしまうのだ。

 外洋性のウミヘビであるため遊泳力にも優れており、十五年前の巨獣大戦時には原子力潜水艦が、ヒドロフィスによって沈められた例まである。


「厄介な敵に襲われているな。しかし、周囲の小生物というのは一体何なんだ!?」


「どうやら、大型甲殻類のようです。メインモニターに拡大画像が出ます!!」


 難しい顔で画面を睨むウィリアム教授に、オペレータの奥野が答えた。


「これは……ロブスターか!!」


 アップで映し出された画像を見て、ウィリアム教授は呻いた。


「昆虫のみならず、他の海生生物までも操れるのか……いや、考えてみれば最初にヤツが操った巨獣はダイオウイカだった。当然のことか……問題は対処方法だな」


 ウィリアム教授は、眉根を寄せた。

 だが、のんびり考え込んでいる暇はない。金属圧壊音を聞いた以上、チーム・ドラゴンは今まさに、危機に瀕しているに違いない。


「どうしますか!?」


人工知能機雷オート・ポーパスを使おう。すぐに周囲の小生物の音響特性をサンプリングしてくれたまえ!! でき次第、全弾発射だ。一刻の猶予もない!!」


「了解。サンプリング開始…………終了!! 人工知能機雷オート・ポーパス、全弾発射します!!」


 人工知能機雷オート・ポーパスは文字通り、人工知能(A・I)を搭載した浮遊機雷の一種である。

 超音波アクティブ・ソナーを発し、音響反射を利用して相手を探知・追跡し、爆破するのだ。

 通常の魚雷と比べ、進行速度は桁違いに遅い。しかし、オート・ポーパスの愛称の通りロボットイルカと言って良いほどの運動性能を持ち、一定の自己判断能力までも有している。

 指定された目標の、わずかな音響特性を捉えて、それを選択してのピンポイント攻撃が可能なのである。

 このため相手にどれほど運動性があろうと、気泡による撹乱や急加速、急旋回による回避を試みようと、動力の続く限りどこまでも追い続けることが出来るのだ。

 特に、今回のように小型の海生生物が相手の場合、その生物特有の生体音を察知して追跡する。

 ブルー・バンガードの船首付近から発射された数十機のオート・ポーパスは、リヴァイアサンを取り囲む大型のエビの群れに次々と体当たりしていった。



***    ***    ***    ***    ***



「何だ? 何があった!?」


 突然、機体を揺るがし始めた衝撃音と水圧の変化に、干田が叫んだ。

 

「これは……オート・ポーパスです!! ブルー・バンガードの支援攻撃!! エビの数は急速に減少中、これなら囲みを破って離脱可能です!!」


「よし、離脱だ。浮上するぞ!!」


 石瀬が主動力を全開にして、離脱を試みた。が、ほとんど機体は前進しない。

 バラストタンクに圧縮空気を注入しているが、巨大なヒドロフィスにからみつかれていては、浮力も稼げないようである。


「機体後部のDamageが!! このままでは……」


 カインが叫ぶ。

 巨大ウミヘビ・ヒドロフィスは、水中型機動兵器であるリヴァイアサンの機体に巻き付き、その進行を止めていた。軋み音を発し始めている機体は、水圧のせいで浸水が止まらない。

 たしかに周囲のエビの数は減ったが、機体内に侵入したエビの群れは、いまだに駆動部を破壊し続けているのだ。

 水深五百mの水圧と駆動部の故障、そしてキイロウミヘビの変異体であるヒドロフィスの巻き付き攻撃は、リヴァイアサンの機体に予想以上のダメージを与えていた。


「機体表面に高圧電流を流せ!!」


「やってます!! しかし……既に出力が低下していて効果がありません!!」


「駆動部Damage、七十%!! 推進機関エンジン出力、二十%にDown!! Shit!!  Auxiliary engineもダメだ!!」


 カインの言葉も次第に自国語である英語の割合が増え、何を言っているのかよく分からない状態だ。


「…………やむを得ん。分離して、脱出しよう」


 決断を下す干田の表情は苦渋に満ちていた。

 だが、それ以上に驚いて声を上げたのは石瀬だ。


「干田さん!? この機体を……シーサーペントNEO本体を捨てるんですかッ!?」


「そうしなければ、このまま全員死ぬことになる。何より、幸いにも他の二機は無傷だ。これ以上、戦力を失うわけにはいかん」


「それは……分かりますが……」


 石瀬の顔に悔しさが滲んだ。


「悔しい気持ちは分かる。だが、シーサーペントのコアマシンは分離可能だ。それに、このヒドロフィスを倒すことが我々の使命だ」


「そうと決まれば、一刻を争ウ!! Here we go!!」


 カインは叫ぶと合体解除ボタンを押した。リヴァイアサンの機体前部は変形を始め、合体した時と逆の動きで二機の人型兵器が分離した。

 続いて、シーサーペントNEOの頭部に当たる部分がパックリと外れ、さらに変形して人型兵器に変形した。シーサーペントのコアマシン、『ネプチューン』である。



***   ***    ***    ***    ***



「ウィリアム艦長!! リヴァイアサンから指向性音波通信です!!

 機体接続部を多数の甲殻類に攻撃され、破損のため行動不能!! シーサーペントNEOを捨てて、離脱する、とのことです!!」


 海中であっても近距離であれば、直接音波を送って、一定の通信が可能なのである。


「何だと!?」


「干田大尉より攻撃要請!! 至急、機体分離後のシーサーペントNEOごと、ヒドロフィスへ攻撃を加えられたし!!」


「よし!! 分離確認と同時に放射熱線砲発射。音響探知魚雷も撃ち込んでやれ!!」


 コアマシンを失ったシーサーペントNEOは、ヒドロフィスに巻き付かれたまま、ゆっくりと海底に向かって沈降を開始していた。

 急に抵抗が無くなったことに気づいたヒドロフィスが、鎌首をもたげてシーサーペントNEOから離れ、干田達を追いかけようとしている。


「させんぞ!! 放射熱線砲、発射!!」


 放射熱線砲は、Gの放射熱線の原理を研究して作られた重粒子加速砲の一種である。

 海中での威力は半減するとはいえ、ヒドロフィスを威嚇するには充分な攻撃であった。

 ひるんだヒドロフィスは、シーサーペントNEOの残骸にとぐろを巻き、ブルー・バンガードへと狙いを変更した。


「北斗!! カイン!! 再合体だ。モード3!! ネプチューンで行く!!」


『了解!!』


 水中戦用のネプチューン以外の二機は、水中の機動性は大きく劣る。三機の人型兵器は、ネプチューンを中心にして合体していく。

 石瀬のネプチューンの後方に、高出力推進機構を持つワイバーンEXが抱え込むように合体する。そして、下から支えるようにサラマンダーFGが加わり、一つの巨大な人型兵器へと変形した。


「シーサーペントの仇だ。くらえ!! トライデントアーム!!」


 石瀬の怒りの声が響く。

 ネプチューンの右腕から伸びた光り輝く槍のようなもの、その先端が三つに分かれて三叉矛の形状を作り出した。

 そして三叉矛を振りかざしたまま、体当たりするように突っ込んでいく。

 輝く三叉矛の形をした腕は、放射熱線砲に続けて通常魚雷を受け、のたうつヒドロフィスの頭部に、深々と突き刺さった。

 次の瞬間、ヒドロフィスはぴん、と体を伸ばして痙攣を始めた。

 中枢神経系を貫かれ、そこに一瞬だが高圧の電流を流されたのである。いかに長大な巨獣、ヒドロフィスといえども脳を破壊されてはどうしようもない。

 巨大人型兵器・ネプチューンは、三叉矛の形のままの腕を携え、力を失って、暗い海溝へ沈み行くヒドロフィスを見下ろした。


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