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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第6章 人造巨獣・鬼王
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6-5 鬼王

 干田は、ナパーム弾頭を若者達のいる建物前の路上へ目がけて投下した。ぐねぐねと不気味に蠢く不定形生物は、爆発的に炎上したナパームの炎に追われて逃げまどう。

 どこまでも透明なその不定形生物群は、少なくとも建物の周囲からは一掃されたかのように見えた。

 しかし、ワイバーンEXの武器では建物内に入り込んだ生物群までは、攻撃のしようがない。屋上に通じる階段室からは、まるでトコロテンが押し出されてくるかのように、透明の生物たちがあふれ出してきていた。


「司令!! 彼等を救うための有効な攻撃ができません! 着陸して機外に出ることを許可して下さい!! 人力で救助活動を始めます!!」


 干田は通信機に向かって叫んだ。

 だが、手で扱える武器と言うと自動小銃しかない。

 屋上にあふれ出したアメーバ状の生物群は、ついに逃げまどう若者達に追いつき、覆い被さるようにして襲い始めている。

 サラマンダーFGとシーサーペントNEOが到着するまでには、まだ数分ある。

 このままでは彼等は全員助からない。樋潟からの返信がないまま、干田が独断での着陸を決心したその時、通信機から聞き慣れない声が流れてきた。


『すまないが、それ以上の攻撃は控えてくれたまえ。

 彼等は鬼王の部品なんだ。それ以上数を減らされては困る。心配はいらん。触って人間だと分かれば害は与えんはずだ』


「勝手にこの回線を使うのは誰だ!! 所属は!!」


『MCMO極東本部所属、イーウェン=ズースンレンだ』


『同じく、フォンジェン=ジーラン』


『私はジェチォン=ジャネア』


『我々は鬼王カイワンのナビゲーターだ。今から生体部品ヒュドラを統合して、鬼王を起動する。邪魔をしないでいただきたい』


 イーウェンと名乗った男の声が言った。


「どこだ!? どこから通信している!?」


『干田大尉! 上です!! 上空二千mに機影確認!! 所属はMCMO極東本部のC-2000メガプテラ!!』


 通信機から、本部女性オペレータの声が響く。

 上空の雲の隙間から姿を現したのは、一機の航空機であった。

 どうやら、輸送用の大型航空機らしい。

 その格納部分らしい後部がパックリと開口し、そこから丸みを帯びた銀色の機体が飛び出した。


「カイワン…………だと?」


『見ていれば分かる』


 下部へのジェット噴射で速度調整を行いつつ、霞ヶ浦湖上に降下していく銀色の機体の下に、透明の生物群が渦を巻くようにして集結し始めていた。

 銀色の機体は、何か特殊な信号でも出しているのであろうか、透明な生物群は山のように盛り上がり、かなりな速度で降下してくる機体を柔らかく受け止めた。

 全長数十mの楕円形をした饅頭型の機体は、まるでゼリーの上に落ちたようにその中に埋め込まれる形になった。

 受け止められた機体は、外装が開くようにして変形し、自分の周囲に銀色の長い突起を数本張り巡らせていく。先端にはノコギリ状の突起や、大きな三日月型の突起など、外装の形状をベースにしたものが付いていた。そして、それらが展開していくに従って、盛り上がるように透明の生物群が形を変えていく。


「これは……巨獣……なのか!?」


 呆然と干田がつぶやく。

 そこには、まるで空気が凝集して形作られたかのような、質感のない、一体の透明な巨獣が現出していた。

 不定形生物で構成された透明部分以外は銀色の機械であり、それがまるで、骨格のように全体を支えているのが分かる。

 その全体の体型フォルムはあの巨獣王・Gとよく似ているように見えた。

 しかし、頭部から背中にかけては、大きく反りの入った剣にも似た、銀色の角が一列に並び、猛禽のような嘴と、頬から突き出た牙もまた、銀色に輝いている。

 両手にあたる部分も、二の腕から巨大な鎌状になっていて、それが打ち振られるたびに背景を揺らめかせるところを見ると、高周波震動する武器らしい。

 腹部に見えるノコギリ状の突起も飾りではないらしく、試すように数回動いた。


『…………起動』


 イーウェンの声が聞こえると同時に、透明の巨獣は一瞬にして、紅色がかった黄金色へと姿を変えた。その体表は、まるで細かな鱗状のものに覆われたように見える。

 そして剣のような突起の突き出た背中には、魚のヒレにも似た金色の翼が三列に並んでいた。


「バカな!! あの鱗!! あの翼!! あの表面の色は!!」


 司令本部のメインモニターを見ながら、突然叫んだのは羽田であった。


「あれは…………王龍?……まさか」



***    ***    ***    ***    ***



 色彩を変えた鬼王は、湖底を踏みしめ、ゆっくりと歩き出した。


「ジャネア。ケリドラの弱点は?」


 イーウェンが自分の左前方に座っている小柄な女性に声を掛けた。


「水生傾向の強いカメの変異体のようです。

 乾燥には弱いと思われます。また、甲羅は強靱ですが四肢の付け根の柔らかい部分は、通常攻撃でもダメージを与えられると思われます。ただ、顎と四肢の筋力は侮れません」


 銀色の機体の内部である。

 一段高くなった座席に座っているイーウェンは、無数のコードが接続されたヘルメットを被り、鬼王と情報を共有している様子だ。


「くっくくく……要するにカメだろ? 手足の穴に大鎌サイスアームぶち込んでやりゃあ一発じゃねえかよ」


 右前方の座席で、四肢の情報管制を行っているジーランが、皮肉ぶった口調で言った。


「ジーラン。戦闘方法を選択するのは鬼王だ。俺達は情報を整理して状況判断するナビゲーターに過ぎん」


「へっ。だから未完成品なんて言われちまうんですよ鬼王は。なんで俺達が操縦できるように改造しちまわねえんだ」


「それは、生体部分に擬似中枢たる『ネモ』が存在するからです」


 ジャネアがむっとした顔で振り向き、ジーランに言った。


「こいつらヒュドラの親玉か。ほんとにいるのかよ。そんなの?」


「いなければ、こうして鬼王が自己判断で戦闘することもないはずでしょう。それに、私達ではなく、ネモがヒュドラ達を一つにまとめているのですよ?」


「あーはいはい。分かったよ」


 その時、巨大な地響きを立ててケリドラがこちらへ向かってきた。

 全身を襲っていたヒュドラがいなくなったことで、やっと身軽になったのだ。しかし、湖底に戻ろうとしたところに、鬼王が立ちはだかっていた。

 ケリドラは、邪魔者を排除して湖に戻ろうとしていた。

 巨大な嘴状の口が、鬼王の腹部を狙って迫る。


「正面からじゃあ、ヤツの手足は狙えねえな。お手並み拝見だぜ。ネモさんよ」


 鬼王は、腹部の突起を起動させた。回転するかのように動き出した鋭い突起群は、バカ正直に突っ込んできたケリドラの嘴部分をあっさり両断してしまった。

 顔を大きく抉られ、鼻先から鮮血を迸らせたケリドラは、尻込みするかのように頭を下げると、後脚を大きく突っ張って甲羅を前方に突き出した。

 どうやら、防御姿勢を取っているらしい。

 この体勢であれば、鬼王から見えるのはもっとも硬い甲羅のみだ。

 いかに高周波震動しているサイスアームといえども、一撃では貫けそうもない。

 だが、鬼王はそんなケリドラに近づく様子は見せず、体の前で鎌状の腕をクロスした。両腕の接点で微かに火花が散る。そして、額にあたる部分から赤く光る光線が発射された。


「クロスアタックビームかよ。まあ、あの程度の甲羅なら貫けるって事か」

 

 ジーランはにやにや笑いながらモニターを眺めている。

 ジャネアもイーウェンも、特に何をする様子もない。

 実際の戦闘に入ってしまえば、鬼王は自己判断で戦い続ける。ピンチにでも陥らない限り、ナビゲーターである彼等の仕事はほとんど無いと言っていいのだ。

 細く光る光線は、地面に押しつけられたケリドラの頭部に命中すると、そのまま線を描くように首筋、甲羅へと伸びていき、周囲に肉の焦げるイヤな臭いをまき散らしていく。

 ケリドラの太い尻尾まで光線が達した時、それまで踏ん張って攻撃姿勢を取っていたケリドラの四肢から、ぐにゃりと力が抜けた。

 大きな地響きを立てて、ケリドラが地面に倒れ伏す。

 しかし、発射されたレーザー光線は、そのまま伸びていき、ケリドラのいた道路までもを両断していく。アスファルトが融解し、沸騰した。

 生体レーザーの一種だろうが、恐るべき出力である。

 光線は威力を保ったまま、さらに伸び続けると、倒れ伏しているケリドラの後方のビル群に吸い込まれていった。

 ほんの三秒ほどのタイムラグを挟み、閃光が走った。都市ガスかガソリンにでも引火したのだろうか? 凄まじい爆風が周囲を吹き飛ばし、無人の街は夜空を照らして赤く燃え上がった。


「バ……バカな…………ケリドラは倒したのに、どうしてあそこまでする必要がある!?」


 上空で滞空しつつ、戦闘を見ていた干田が呟いた。

 気づけば、あの若者達のいたビルもまた炎上している。

 ケリドラも不定形生物群もいなくなったものの……屋上まで燃え上がったあの建物で、彼等が生きているとは到底思えない。


「…………救えなかった!!」


 干田は自分の膝を両手で何度も殴り、唇を噛みしめた。


 ケリドラの屍体は、レーザーで貫かれた後もゆっくりと炭化を続け、水分が完全に蒸発したと思った瞬間、炎を上げて燃え上がった。

 炎上する街と、燃える巨獣の屍体。

 ゆらめく赤い炎に照らされながら立ちつくす巨獣兵器・鬼王は、その名の通り、まさに地獄から這い上がってきた巨大な鬼のように見えた。



***    ***    ***    ***    ***



「ひどい…………」


 マイカがモニターから顔を背けた。

 本部のモニターは、炎上する屋上で焼き尽くされていく若者達の姿を、ハッキリと捉えていたのだ。珠夢もいずもも目を逸らして泣いている。

 

「これが兵器だってんですか!? 人間の……作った!?」


 小林が憤懣やるかたない様子で樋潟に言う。どこに怒りをぶつけて良いか分からない、といった様子だ。

 『最悪の兵器』樋潟の言ったその言葉が、隊員達の胸に突き刺さっていた。


「やはりコイツは……あの巨獣ではないのですか?」


「どういう意味だね。羽田大尉?」


「鬼王…………と仰いましたね? この巨獣……いや、兵器の名前……」


「そうだ。中国の科学技術部が開発した、半自動機械化巨獣と聞いている」


「忘れもしません。あの体色、あのヒレ状の翼は、十五年前、私の所属していた部隊を……そして街を全滅させた巨獣・王龍と酷似しています」


「王龍? たしか上海を壊滅させ、日本ではT市を襲った飛行型の巨獣じゃないか」


 ライヒ大尉が思い当たったように言う。羽田は大きく頷いた。


「王龍が初めて現れたのは中国の上海…………王龍と鬼王、名前も酷似しています。樋潟司令!? いったい鬼王とは何なのですか?」


「私にも分からない。鬼王は巨獣大戦の終結寸前に作られたと言われている。

 戦闘内容は非公開だが……中国国内に侵入した巨獣は、すべて鬼王が単独で処分したとのことだ。

 そして中国には今、一体も巨獣遺体は残っていないんだ……すべてあのように、破壊し尽くしてしまったからだそうだ。」


「『最悪の兵器』とおっしゃるからには、それだけでは済まなかったということなんですよね?」


「これも非公開だが……我々幹部のみが閲覧できる記録画像で、戦闘後の街を見た。G並みの巨獣と戦闘した跡ということだったが…………」


「いったい……どうなってたっていうんですか!?」


 言いよどんだ樋潟に、強い調子で質問したのは明だった。


「街が……跡形も無かった。核兵器でも使ったようにな」


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