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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第5章 擬巨獣ダイナスティス
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5-10  蒼き戦神

 変貌を遂げたコルディラス。

 その体表面の棘状突起は、次々に弾けて周囲に散弾を振りまいていた。

 散弾は周囲の建造物を貫き、あらゆる物を破壊していった。その射程は数キロにも及び、これまで無事だった市街地も炎上し始める。

 散弾のひとつひとつは、コルディラスの体表面を覆い尽くしている大型のゾウムシである。

 ゾウムシという昆虫は非常に硬い。それが互いに強く連結して作られたのが、コルディラスの表面を覆っている装甲なのだ。

 リニアキャノンすら跳ね返す、強靱な装甲。

 その装甲を構成している無数のゾウムシが、自身の体を伸縮させる小さな力を順番に伝え、一点に集中させて先端の数十個体を一気に押し出す。

 これが散弾の正体であった。

 アスカは次々と繰り出されるその散弾を、ほとんど勘で避けながら、なんとかアンハングエラの武器で反撃を試みていた。が、アンハングエラの小型ミサイルや重機銃では、まったくと言って良いほど効果がない。

 素早く何度も旋回を繰り返し、回避行動をとりながらアスカは自分自身に怒りの声を上げた。


「ちくしょう!! まどか!! あんたのかたきを討ちたいのに、あたしには何も……何も出来ないのかっ!!」


 その時、アスカの通信機から、聞き慣れない声が聞こえた。


『こちらブルー・バンガード。支援砲撃を開始する。アンハングエラ、いったん火線から退いてくれ』


「ブ……ブルー・バンガード!?」


 聞いたことのないコードネームだ。

 しかし、MCMOの専用回線を使用してくる以上は、友軍に違いない。アスカは、とまどいながらもコルディラスから距離をとった。

 次の瞬間、海の方から青白い閃光が走り、コルディラスに命中した。単なる光ではないのだろう、熱線に含まれる粒子の圧力で、コルディラスはひっくり返り、じたばたともがいている。


「この光……ほ……放射熱線? Gなの?」


 アスカは海の方を見た。すると水面が泡立ち、何者かが姿を現そうとしている。

 

「やっぱり……まさか新手の巨獣?」


 Gは首都圏にいるはずだ。蘇ったとしても、いくらなんでもここに現れるわけがない。

 ならば、同系統の能力を持つ巨獣だと考えるのが自然だ。しかし、そうするとさっきの通信は何だったのか?

 戸惑うアスカの耳に、やっと聞き慣れた声が届いた。


『聞こえるか新堂少尉? ブルー・バンガードが到着した。彼等は増援だ。協力してコルディラスを倒してくれ!! 私ももうすぐ到着する!!』


「羽田隊長!? いったい、どうしておられたのですか!? ブルー・バンガードとは何者なんです? それにまどかが……五代少尉が……っ!!」


『心配するな。五代少尉は彼等に救出されている。手放しで無事とは喜べない状態のようだが、生きている』


「ほ……本当ですか!?」


『本当だ。見ろ、ブルー・バンガードが浮上する』


 アスカが呆然と見つめる中、大阪湾内の静かな海を割って姿を現したのは、巨大な潜水艦であった。

 

 空の色を基調にした蒼い船体。

 夜目にも鮮やかなカラーリングを施されたその艦は、全長にして五百m近くはありそうだ。

 尖った船首。

 船体の左右にはフロートのように飛び出した部分があり、上部には背びれのように、ウィングが何枚か突き出している。

 通常の潜水艦とは、大分形状が違う。


 いくつか見える砲塔は、内部からせり出す構造のようだが、近代の物にしては大きい。

 その砲塔から先程の蒼い閃光が放たれた。すると、Gの背びれがそうであるように、船体自体も蒼白く輝く。


「よし!! 放射熱線砲、撃ち方やめ!! 続けてチーム・ドラゴン発進準備!! 目標はコルディラスとヴァラヌスⅡだ」


 艦長席に座って指示を出しているのは、海底ラボで兵器開発を担当していたウィリアム=テンプル教授である。

 正面のモニターに三つのコクピットが映り、三人のパイロットが出撃の準備が出来たことを告げる。


「ワイバーンEX、干田茂朗ほしだしげお スタンディングバイ!!」


「サラマンダーFG、カイン=ティーケン Standing by!!」


「シーサーペントNEO、石瀬北斗いしせほくと スタンディングバイ!!」


「チーム・ドラゴン発進します!!」


 超大型潜水艦ブルー・バンガードの左舷、右舷のフロート部分から、それぞれハッチが開き、そこから二体の機械兵器が姿を現した。

 航空機の翼を持ち、ジェット推進で自在に飛行可能なワイバーンEX。

 そして、水中だけでなく、水面も、そして陸上をもホバー推進で駆けるサラマンダーFGの二機である。

 あの強化作業服パワードスーツサラマンダーとワイバーンは、人型をしているだけで、単純な構造であったが、この二機の武装は物々しい。

 二機の機動兵器は、それぞれ水面と空中へ飛び出していった。

 次に艦首が二つに分かれ、そこから小型の潜水艦が分離した。

 小型と言っても、細長い形状のシーサーペントNEOは全長百m近くある。一般の潜水艦のようにスクリュー推進に頼らないこの機体は、艦首から取り込んだ海水を各部から後方に吐き出すことで推進力を得る。

 また、機体全体が無数の関節に分かれており、ヘビのように体を左右にくねらせて泳ぐことでも前進することが出来る。

 更に水中での格闘戦を想定した、大型マニピュレータをも装備している。

 つまり、潜水艦であるだけでなく、機動兵器でもあるのだ。

 シーサーペントNEOは浮上状態のまま、紀ノ川河口へ向けて高速推進を開始した。

 サラマンダーFGとワイバーンEXは、それぞれ上空と地上から、高速でコルディラスへ迫る。


「カイン!! 干田君!! 二機で連携してコルディラスを倒すんだ!!」


「了解!! カイン!! 私の攻撃箇所にポイズンアローを撃ち込んでくれ」


「ラジャー」


 ワイバーンEXは低空飛行に移ると、そのまま小型ミサイルを数発発射した。

 そのすべてが、コルディラスの脇腹に突き刺さる。

 尖った先端を回転させながら、わずかに潜り込ませて爆発する徹甲ミサイルだ。それがほとんど同じ場所に連続して炸裂していく。

 まどかのリニアキャノンのように、小さな穴ではない。深くはないが広い傷跡は、いかに数の多い昆虫群といえども、一度に装甲を修復するには至らない。


「FIRE!!」


 そこへカインが、ポイズンアローを撃ち込んだ。

 仕込まれているのは、高濃度カリウム溶液である。本来、細胞外では低濃度であるべきはずのカリウムを飽和状態まで溶かしきった溶液。

 それを大量に注入されれば、心臓停止を引き起こす猛毒となるのだ。高分子のタンパク毒にはすぐに耐性を獲得してしまう巨獣であっても、自身の体内にもあるカリウムに対抗するシステムは簡単には構築できない。

 コルディラスの動きが急に鈍くなった。


「増援感謝する!! 新堂少尉!! たたみ掛けるぞ!!」


「はい!!」


 ようやく駆けつけた羽田と、まどかの生存を聞き、元気を取り戻したアスカの声が響く。

 瓦礫を踏み砕いて現れたガストニアは、主砲をコルディラスの頭部に次々と叩き込んだ。

 アンハングエラは、装甲の継ぎ目と思われる場所へ、重機銃と小型ミサイルをピンポイントで撃ち込んでいく。

 コルディラスの動きがますます鈍り、体表面の装甲が次々に剥がれ落ち始めた。


 このままとどめを刺せるかと思ったその時、ぎこちない動きのまま、コルディラスは背中の装甲を開いて、半透明の翼を広げた。


「な!? まさか飛ぶというのか!?」


 さらにコルディラスは甲虫のように前羽根を広げ、その下に折り畳まれていた下羽根を震動させ始めた。


「ぐあっ!! まずい!!」


「きゃああっ!!」


 干田とアスカが悲鳴を上げた。

 凄まじい速さで震動しはじめた半透明の翼は、周囲に乱気流を巻き起こした。その衝撃波にも似た急激な空気の流れに、付近を飛行していたワイバーンEXとアンハングエラは、一瞬コントロールを失ったのだ。


「いかん!! このまま逃がせば、またどこかで超回復して暴れ出すぞ。次はミサイルも効かんかも知れん!! 逃がすな!!」


 ウィリアム教授が叫んだ。

 しかし、急激な気流と衝撃波で全機とも状況に対応できていない。

コルディラスの体がゆっくりと宙に浮いた。そのまま加速して、その場を離脱しようとしたその時。

 何の前触れもなく、コルディラスが真っ二つに千切れ飛んだ。

 大量の鮮血が周囲を染め、二つの肉塊と化したコルディラスが地面に激突する。


「な……何があった?」


 全員が目の前の状況を呆気にとられて眺めていた。

 二つに引き裂かれたコルディラス。

 その真ん中で翼を広げ、勝ち誇るかのように佇んでいたのは、巨大な純白のニワトリ……ガルスガルスであった。

 首都圏から低空を高速で駆け抜けてきたガルスガルスは、その勢いを全く殺さないまま、コルディラスに嘴から体当たりを敢行したのだ。

 

 ガルスガルスは、疾走しながら電磁波を受信し、状況判断を行っていた。

 生体電磁波を捉えたことで、まどかの生存は分かっていた。

 助けたのは人間だ。人間は敵ではない。

 つまり、人間の乗る機械兵器に囲まれている巨獣。

 一際強い生体電磁波を放っている、アイツが敵に違いない。

 敵をまどかが倒せなかったなら、自分が倒さねばなるまい。そう思った。

 通常の昆虫であっても、後ろ羽根を広げた背部は相当柔らかい。ガルスガルスは、高速で飛来しながらも、鳥特有の超視力でコルディラスの弱点を見抜いていた。

 コルディラスから数キロ手前の地点で、ステップを踏んで方向転換。

 突入角度を調整した。

 飛翔し始めたコルディラスが、加速する前に始末を付けるためだ。

 斜め上方から、ガルスガルスの嘴がコルディラスに突き刺さった時、その速度は時速八百キロ近くに達していた。


 真っ二つにされては、回復のしようがない。しばらく蠢いていたコルディラスも、ようやく動きを止めた。ついに完全に息絶えたのであろう。

 コルディラスの体表面にひしめいていた黒い昆虫たちは、自分たちの宿主の死を知ってか、跡形もなく霧散していく。


「クキェエエエエエエエ!!」


 甲高い叫びが響き渡る。それは、まどかの敵を討ったガルスガルスの、勝利の雄叫びであった。


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