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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第3章 赤い宝石
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3-7 チーム・ビースト

 その瞬間。大会議室にいた、ほぼ全員が声を上げた。


「生きているですって!?」


「殺せていなかったとは……」


「バカな。あのままで大丈夫なのか!?」


 数十秒が経過しても収まりそうもないどよめき。それを制するように発せられた、よく通る声。


「報告を続けていただきたい。生きているならば、どうしてGは動かないのですか?」


 挙手していたのは、チーム・エンシェント隊長・羽田真也であった。

 合同庁舎に臨時に置かれたG対策本部のブリーフィング。

 そこには、急遽招集されたMCMOの巨獣対策メンバーと、自衛隊の現場責任者クラスが集っていた。議題は、死亡したGの解体作業日程報告、のはずだった。

 だが、会議が始まって早々に発表されたのは、Gはまだ生きている、という誰も予想しなかった内容であったのだ。


「さ……先程も申し上げました通り、Gの生命反応……呼吸、脈拍は検知されています。ですから生きているのは疑いようがない。しかし、脳波については大変微弱で……」


 プリントアウトされたデータを見ながら、前に立った白衣の男が答える。彼が額に吹き出た汗をぬぐうのは、これで何回目だろうか?


「これです。δデルタはに近いものが検出されていますが、雑音ノイズが多く判別しづらい……なぜ動かないのか……」


「あの、す……すみません……δデルタはって……なんですか?」


 おずおずと手を挙げたのは、五代まどかだ。


「五代少尉。軍人としても、そのくらいの知識は持っていて欲しいものだな。人間の場合で失神、気絶時に検出される独特の波形で、いわゆる気絶脳波と呼ばれるものだ。」


 白衣の男性に代わって答えたのは、一番上席に座っている樋潟司令だ。


「それじゃあ、何です? アイツ、まどかのキャノン喰らって気絶しただけってことですか?」


 新堂アスカが腕組みをほどき、呆れ顔で両手を広げた。


「じゃあ、今のうちに毒でも盛っちまえばいいじゃないですか?」


 次に手を挙げたのは、羽田達の隣に腰かけている、別チームの男だった。チームメンバーは、全員欧米系の顔立ちをしているが、挙手した男はスムーズに日本語を口にした。


「いやゲーリン少尉。その方策については、八幡教授から絶対避けるべきと言われている。教授、少し説明をお願いします」


 樋潟の指示を受けて八幡が立ち上がり、スライドを使って説明し始めた。


「……実は、海底ラボでのトラブル中に発見された現象なのですが、Gの体内……いや、細胞内に共生しているメタボルバキアは、宿主のDNAや細胞質を改変することで、宿主の生命維持を行うのです」


 八幡は説明しながら、背後のスクリーンに表示されたスライドショーを先に進めた。


「つまり、このように外部から与えられた毒物や攻撃が、宿主の生存を脅かすことによって、それに迅速に耐性を持つように、宿主の遺伝子を変更し、性質を根本から変えてしまうのです」


「てことは、何か? 毒だけじゃなく、物理的攻撃でも、Gはそれに耐えるようになっちまって、同じ攻撃は効かないってことか?」


 ゲーリン少尉と呼ばれた男が顔をしかめる。


「可能性はある、と申し上げておきます。しかし、現在までGがたった一個体で生き延び続けてきた……くることができた理由、そして、五十年以上前の最初の出現から、少しずつ形態や性質を変え、大型化してきている理由はその辺にあるとすれば、説明はつく」


「それじゃあ、もう額の宝石ジュエルへの攻撃も効かないかも知れないって話ですか? そんなんじゃ手も足も出せないだろ」


「ま、オットーが思いつくような対策で何とかなるなら、こうして会議を開く必要はないわね」


「黙れマイカ」


 馬鹿にしたように口にした、隣の女性を、ゲーリン少尉が睨みつけた。

 この女性は日系人なのか、欧米系の顔立ちだが、黒髪に黒い眼と、東洋モンゴロイド系の特徴も備えている。東西がミックスされた美貌に、欧米人のスタイルの良さがプラスされて、まるでモデルのような美しさだ。


「つまらん仲間割れはやめろオットー。では樋潟司令コマンダー。つまり、今回のブリーフィングは、G解体のための日程報告ではなく、殲滅作戦の継続と、攻撃方法の選択ができるまでの意識合わせというわけですか?」


「Gについてはその通りだ。ライヒ大尉」


 東洋風美女、マイカの隣に腰かけた、欧米系のチームリーダーらしき男性の言葉に、樋潟司令が肯いた。

 ライヒと呼ばれたブラウンの髪の大男は、まるで肩や首がボディビルダーのように筋肉で覆われているのが、軍服の上からでも分かる。


「遙々(はるばる)ドイツから来てもらって申し訳ないが、君達チーム・ビーストのメンバーも、作戦行動をとるとすればGではなく、行方をくらませた緑色のトカゲ型巨獣に対して、ということになる。あの巨獣については間近で目撃した、遺伝子工学研究所の所長である戸塚とつか あさひ氏に、説明していただこう」


 壇上に現れたのは、加賀谷達の上司である遺伝子研究所所長であった。昨夜、リザードマンに襲われた怪我のため、禿げ上がった頭を包帯でグルグル巻きにしての登場である。


「あの緑色の巨獣は……Gの粒子熱線を浴びて墜落する前、相当の敏捷性を見せ、あまつさえ四肢の間の膜を広げて、かなりな距離を滑空していきました。その特徴は……我々が冷凍保存し、研究していた巨獣、ヴァラヌスの遺体と一致します」


「ヴァラヌス?」


「はい。ヴァラヌスとは十五年前の巨獣大戦でGによって殺され、その遺体を我々がそのまま冷凍保存していた巨獣のコードネームです。滑空膜はドラーコ……和名でいうとトビトカゲの特徴ですが、体型や性質、特にDNA情報にオオトカゲのものを色濃く残していたため、Varanusと名付けられました」


「ヴァラヌス……ですか。では、あの巨獣はGを操るシュラインによって、そのヴァラヌスが生き返ったものと考えていいのかね?」


「たしかに、冷凍保存していたヴァラヌスの遺体は消えていました。ですから生き返ったのは間違いないのですが……」


「なんだね?」


 回りくどい物言いに焦れたのか、樋潟司令は戸塚所長に鋭い目を向けて促した。


「しかし、今回の巨獣は体色、体型、敏捷性など、すべてが大きく変わってしまっています。その形態は、私がG上陸当日に水元公園で保護した、グリーンバシリスクという中南米原産の大型爬虫類と酷似していたのです。そして、遺体の冷凍装置のスイッチを切ったのは、その……バシリスクなのです」


「なんだって!?」


 そこに出席していたメンバーのほとんどが耳を疑った。



***    ***    ***    ***    ***



「にしても、全長百メートルの巨獣が保護色使って消えただと? マイカ、お前信じられるか?」


 チーム・ビーストのオットー=ゲーリンは、対策本部の設置された庁舎の廊下を歩きながら、同じチームのマイカ=トートに、自国のドイツ語で声を掛けた。


「まぁ、トカゲが白衣着て所長を脅迫したって話よりは信じられるわ。それに、目撃者は科学者……信憑性は高いんじゃないかな。光学擬態っぽいし、あんたのカトブレパスならすぐ見つかるでしょ?」


「たしかにな。Gも動けねえんじゃあ、処分方法はすぐ決まるだろうし……まあ、仕事が早く片付くのは良いことだぜ。せっかくの日本だ。あの、コードネーム・バシリスク……だっけ? やっつけたら、日本名物の温泉宿でも一緒に行かねえか?」


「冗談。私はオオカミと同じ部屋に泊まる度胸はないわ」


「ったく、つれねえな。お前も」


「東洋系が好みなんでしょ? だったら日本チームのお嬢さん達でも誘ってみたら?」


 マイカが、ひらひらと右手を振りながら、さりげなく後ろに目配せをした。

 二人の後ろを歩いているのは、チーム・エンシェントの三人だ。リニアキャノンでGを行動不能にする大金星を挙げたとはいえ、バリオニクスが大破した彼等は、今回は出撃の機会を与えられていない。


「羽田隊長……」


 呼びかけたまどかの声は暗い。


「なんだ? 昼飯ならまだ時間が早いぞ」


 答える羽田は、努めて明るくふるまおうとしているようだが、張りのない声からしても無理をしていることは明らかだった。


「なんで……Gはあの巨獣を攻撃したんでしょうか?」


「それはさっき、樋潟司令も八幡教授も言っていただろう。シュライン細胞で蘇らせはしたものの、意識を乗っ取れなかったから処分しようとしたんじゃないか……ってな」


「本当に、Gの意識はシュラインという人間のものなんでしょうか?」


「他生物との融合能力を持つシュラインが深海で逃げ、回復不能な傷を負っていたはずのGが、突然蘇った。これ以上の理由はないだろう」


「そう……ですよね」


 そう言いながらも、まどかは釈然としない様子だ。


「Gを倒した功労者が情けない顔をするな。バリオニクスが修理を完了すれば、オレ達も出撃だ。気後れしている暇はないぞ!!」


「…………はい」


 空元気を出す羽田の言葉に返事はしたものの、まどかの心にはどうしても納得しきれない思いが、まるで酒ビンの底の澱のようにわだかまっていた。



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