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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第21章 巨獣黙示録
174/184

21-5 巨獣群


“ど……どういうことだ⁉ 未来予測シミュレーションが狂っているのか⁉”


 ティギエルに憑依している天使は、狼狽えて叫んだ。

 攻撃も防御も忘れ、呆然と立ち尽くしているティギエルを前に、シュラインもまた横たわったまま、呆然としている。

 支援要請はしたものの、まさか機動兵器がここまでやれるとは思ってもいなかったのだ。

 射程に達したのか、無数のミサイルが周囲に着弾し始めた。黒い少女天使・ガイエルを追い詰めていたダイニエルが、ミサイルの直撃を食らって丸い使い魔の背中から滑り落ちる。

 質量弾による狙撃も始まった。十数体の天使恐竜が、頭部や腹部を吹き飛ばされ、そのうち数体は完全に沈黙した。

 フォートレス・バンガード上に展開した、十二神将による攻撃であった。

 接近してくる天使恐竜に対しては、珠夢達の乗る三機の自衛隊機が、二体の蛾の巨獣、アルテミスとステュクスと共に防衛線を張っている。

 さらに甲板後方では、マクスェルとバリオニクス・カーカスが、一騎打ちを展開していた。

 斬りかかったマクスェルの片刃剣を、バリオニクスが左肘から突き出た刃で受け止める。超振動ブレード同士がぶつかり合う、不快な衝撃音が周囲に轟いた。

 驚いた様子で動きを止めたマクスェル。その瞬間、バリオニクスは腹部のカバーを左右に開いた。現れたのはミサイルポッド。発射された数十ものミサイルは、一発も外れることなく、マクスェルの正面に炸裂する。

 その爆発が終わらないうちに、バリオニクスはジャンプした。尻尾の接続を外し、高々と宙に舞うと、一回転してマクスェルの頭頂部に蹴りを叩きこむ。


「おおおおおおらッ!!」


 羽田が叫んだ。

 バリオニクスの二の腕から先が長く伸び、幅のある片刃剣に変形する。

 羽田はその剣を、よろめいているマクスェルの肩口に向けて振り下ろした。

 マクスェルは火花を散らせて吹き飛び、激しい飛沫を上げて海面を滑っていく。

 バリオニクスの尻尾が生き物のように動いて、艦上のジャックに接続した。電源が入ったことを示すのか、全身に配されたLEDが、緑の光を放つ。


「“次はどいつだ!!”」


 怒りを帯びた羽田の声が、思念波と音声の両方で周囲に響き渡り、バリオニクスは生命を持った獣のように咆哮した。


“バカな……機械の分際で、我らの天使と互角だと……?”


 ティギエルに憑依した天使が、驚きの表情でつぶやいた。


“互角? 何を見てるんだい? アレは、バリオニクスの勝ちだ”


“…………”


未来予測シミュレーションに頼っていると、現実が見えなくなるみたいだね……”


 シュラインの思念波は、強烈な皮肉を帯びている。

 精一杯の挑発なのだ。一分でも、一秒でも時間を稼がなくてはならない。『穴』の加速された時間の中で、少女天使たちは力を得ようとしている。

 三十分。

 それだけあれば、『穴』の中では体感で千年が経過する。それだけの時間があれば、オリジナルの六大天使に対抗できる力を得られる、と、シュラインは考えていた。

 だが、天使ティギエルは挑発には乗らなかった。


“それがどうした。あんなもの、しょせんは機械だ。エネルギーは有限、再生能力もない。たかがふね一隻だぞ? 未来予測するまでもない”


 シュラインは横たわったまま、何も言い返さない。

 この天使の言う通りだったからだ。ありがたい援軍には違いないが、このまま稼げる時間はせいぜい数分といったところか。

 すでに天使恐竜どもは再生を始めているし、オリジナル天使はそれぞれの特殊能力をまだ見せてもいないのだ。

 天使ティギエルは、未来予測が外れたことで警戒している様子ではあったが、こちらの劣勢は変わらない。


(僕も……悪あがきにもうひと暴れくらいするか……)


 それでもう数分稼げれば、御の字だ。『穴』の中で千年は経たずとも、百年やそこらは経過する。そうすれば、わずかでも少女天使たちに勝てる目もあるかも知れない。

 シュラインは動かない体を無理やり起こし、ティギエルに相対した。だが、天使ティギエルはシュラインを見ようともせず言った。


“まだ、やる気か。だが、こちらはこれ以上遊んでやる理由も時間もない”


 天使ティギエルは両手を広げ、二体のオプション兵器・アズラエルを呼び出した。

 そして、自分の目の前に滞空させた銀色のそれを、両掌で打つ。

 その瞬間、二体のアズラエルは消滅し、銀色の霧となって、周囲に漂い始めた。


“しまった!! グレイ・グーか!!”


 あらゆる有機物を取り込み、自己複製して増殖していく有機ナノマシン。それがグレイ・グーだ。

 天使の操るグレイ・グーは、いったん消滅したはずである。それに、『穴』はグレイ・グーの有機体で構成されたネットワーク空間であったはず。

 彼等は、そのネットワーク空間にシュライン達や少女天使たちが入り込むのを、嫌っていたはずではなかったのか。


“いいのか⁉ 僕たちを取りこめば、お前らの仮想空間ネットワークで暴れる。またゼイラニカのようなバグが生じるぞ!!”


“同じ手が何度も通じるとでも思うのか? 一度取り込んでから念入りに抹消してくれる!!”


 銀の霧が生き物のように、シュライン=ビノドゥロサスに襲い掛かる。

 防御する方法は何もない。ビノドゥロサスの黒く固い大顎の表面が融け崩れ、少しずつ虚空へと散り始めた。


“うわあああ!!”


 シュラインは大顎を正面に向け、天使ティギエルに向かって突進していった。

 戦略も何もない。

 固いクチクラ層の装甲を持つビノドゥロサスであれば、すぐに分解されつくすことはない。ほんの一撃でもダメージを与えることが出来れば、それでいい、そういう突撃の仕方であった。

 だが、大顎より先に脚部が崩れ、体重を支えきれなくなって折れた。

 斜めに転倒したシュライン=ビノドゥロサスは、大きな飛沫を上げて海岸に転がった。

 それを、手を下すでもなく見下ろす天使ティギエル


“そのまま悔しがって消えろ。貴様らのようなおぞましい生物は、存在すら許さん”


“なん……だと?”


“生命とは、尽きれば消滅し、肉体はただの物質になるものだ。なのに、貴様らは違う。他者の記憶の中で生き続け、こうして復活し、戦いを挑んでくる。こんなおぞましい生物には出会ったことがない”


“くくくく……はははははは!!”


“何がおかしい⁉”


 心底面白そうに笑いだしたシュラインを前に、明らかにティギエルはたじろいだ。

 六本の脚だけでなく、触覚も、腹部までも融け崩れ始めているにもかかわらず、シュラインはおかしそうに笑い続けている。


“はははは……つまりこういうことか。僕たちはすでに死を克服している。生への執着を餌に、多くの星で侵略を続けてきた貴様らには、理解できない存在だと?”


“ぐ……そうだ。貴様らは危険だ!!”


“……ばかばかしい。僕たちは特別なんかじゃない。生命ってのはな、どれも最初っから不滅なんだよ!!”


 その時、どこからともなく飛来したミサイルが、彼等の周囲で炸裂した。

 そのミサイルからは、煙のような物質が一気にあふれ出し、グレイ・グーを包み込んだ。

 それと同時に、シュライン達の上空を黒い影が通り過ぎる。

 そして、はるか向こうで旋回し、今度はゆっくりと戻ってきた。


“間に合いましたか!! そこの昆虫巨獣さん、あなた、味方なんですよね?”


 生体電磁波でシュラインに話しかけてきたのは、若い男であった。

 彼が乗っているのは、巨大な翼を広げた巨獣の姿。だが、その体の要所は機械であることが一目で分かる。


“誰だか知らんが気をつけろ!! ……その天使ティギエルが、このステージのラスボスだ!!”


 シュラインが叫ぶ。

 ティギエルが、黄金の剣を振りかざして斬りかかっていったのだ。

 大きな翼を意外にも素早く動かし、すんでのところで斬撃をかわした黒い影は、カウンター気味にミサイルを発射して、上空へ逃れた。


“シュラインさんですよね? 僕は中国軍所属、ジャン=フォユェン。階級は少尉です。こいつはG鳳凰(フェニックス)。安心してください。今、松尾さんたちも来ます”


 言い終わらないうちに、水平線方向に、影が二つ浮んだ。

 みるみる大きくなるその影は、急速に大きさを増していく。


“あれはGドラゴニック……紀久子……なのか……?”


 シュラインの胸が詰まる。

 二度と会えない。会わないつもりだった。

 復讐のため、勝手な都合で利用し、その命を軽んじ、これ以上ないほど傷つけた。

 あのまま、木々の中に意識を埋もれさせるつもりだったのだ。

 いつかもし、許してもらえたなら、あの森へ、来てくれるかも知れない。

 その時、樹下を歩く彼女に、晴れた日ならば小さな木陰を差し出すことが出来たら、雨の日ならばほんのひと時、雨を遮ってやることが出来たなら……そう思っていたのだ。

 接近してくる影が、空中で分かれ三体になった。

 一体は明確に大きい。二百メートル級であろうか。首が長く西洋の竜に近い姿。ドイツのGファブニールだ。

 分離した二体のうち、一体は昆虫型巨獣だ。シュラインも知っているダイナスティス。豊川蓮である。

 そして、最後の一体。

 百メートル級の巨体に、骨だけの翼を持ったGサイバネティクスのプロトタイプ。

 Gドラゴニックが、激しい水飛沫を上げて海岸へと降り立った。


“シュラインさん!! 大丈夫……ですか⁉”


 間違いない。紀久子の思念波だ。真っ先に自分に声をかけてくれた。

 それだけでもう、シュラインはすべて報われた思いであった。


“一斉発射!!”


 G鳳凰のディクテーター弾頭ミサイルが、戦場一帯に撒き散らされた。

 ハワイ沖から十数分。

 G鳳凰は、飛来する間に体内のアンチナノマシンシステム、ディクテーターの生産は完全に終えていた。

 煙状のディクテーターが、一気にグレイ・グーを押し包んでいく。

 だが、ジャンはすぐに異変に気付いた。


“おかしい。ディクテーターが推し戻されている”


 いったんは、グレイ・グーを完全に消滅させたかに見えたディクテーターだが、じわじわとその勢いが衰え、グレイ・グーの領域が増殖し始めたのだ。


“同じ手がいつまでも通用するほど……我々は甘くない”


 天使ティギエルはからは、先ほどの激高した様子は消え失せ、静かに佇んでいる。

 その周囲に、他の五大天使と天使恐竜たちが集まり始めた。


“何で⁉ シュラインさんが治んないよ!!”


 咲良が叫んだ。

 Gドラゴニックの腕の中で、ビノドゥロサスが崩れていくのが止まらないのだ。


“僕から離れろ。高千穂咲良……お前までナノマシンに食い尽くされるぞ”


“嫌だよ!! お母さん!! ディクテーターは対ナノマシン用の兵器なんでしょ⁉ なんで効かないの⁉”


“きっと……進化させたんだ。北米を襲ったグレイ・グーをいったん消滅させたのも……作り直すため……”


“じゃあ……もうナノマシンは止められないの?”


“残念だけど……今の私たちじゃ……”


 紀久子のつぶやきをあざ笑うように、天使ティギエルが宣言した。


“そうだ。これが我々の力だ。お前たちは、諦めて大天使メヴィエルの一部となれ。おとなしく従えば、その意識だけは永遠に残してやるぞ?”


 その時。

 不思議な声が響き渡った。


「ルゥウウウウウォォォオオオオオオオ!!」


「ウゥゥゥウウウウウオオオオオオオオオオオ!!」


 湘南の街の方だ。だが、街中には何も動くものはない。人間はすべて地下シェルターへ避難しているし、自衛隊もMCMOも出撃しているはずがない。

 そんな無人の街のさらに向こう。青く浮かぶ丹沢山塊の山頂付近に、巨大な影が動いた。

 数は二つ。百メートルクラスの、四つ足獣型巨獣だ。声は彼らが出していたのだ。

 二体は、大地に張り付くような低い姿勢で踏ん張り、直上の天を仰いで吠えている。

 二つの遠吠えが、美しい和音となって、十数キロも離れた海上まで届いてきた。


“あいつらか……高千穂咲良のためとはいえ……あんなにでかくなりやがって……”


 シュラインが弱々しく呟いた。


“え? え? まさか……あれって……”


 サイズも、またその姿も大きく変貌していたが、あれはたしかに高千穂家の飼い犬、キングとシーザーだ。

 シーザーは四肢が長く、スマートな印象の白い巨獣に変わっていた。

 その長い体毛は全身を覆い、不思議な虹色に輝いている。長い毛の隙間から、背部や足先に琥珀色の装甲があるのが見て取れた。額には、半透明の平たい角が生えている。角の長さは頭部と同じくらいあり、ちょうど額からナイフでも生えたように見えた。

 キングは黒く短い体毛に覆われた巨獣になっていた。

 二回りも大きな体には、盛り上がった筋肉がまといつき、太くなった四肢のせいで、まるでクマのようだったが、体の下半分には焦げ茶の模様が入っている。

 肩や首筋、足先など要所にはトゲ付きの装甲がある。頭部は特に堅そうな飴色の装甲で覆われていて、後方へ向かって生えたいくつもの鋭い突起が、額から首筋にかけて守っていた。

 そして、やおら海へ向かって駆け出す。森の木々が蹴散らされ、土飛沫が左右に飛ぶ。

 獣脚類タイプの天使恐竜数体が襲ってきたが、それをあっさりとフットワークでかわし、一瞬、姿勢を低くしたかと思うと宙に舞った。

 二体はそれぞれ左右に飛ぶと、空中で回転した。シーザーはきりもみ回転。キングは縦回転。ブーメランのように弧を描いて向かう先には、オリジナル天使の一体、ダイニエルがいた。

 ほぼ同時にダイニエルに到達し、シーザーはダイニエルの乗る丸い生き物・アンゲロスを貫き、キングの牙はダイニエルの右腕を斬り飛ばした。

 海中に倒れ伏すダイニエル。気づけば、先ほどすれ違った数体の天使恐竜も、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちている。その首や腹部は、鋭い刃物で断ち切られたかのようにバックリと裂けていた。すれ違いざまに攻撃していたのだ。


“なんだあれは⁉ あの二体も貴様の仕込みか⁉”


 ティギエルに憑依した天使の声は、シュラインに向けた怒りの響きを帯びている。


“二体? そうか、君には二体に見えるんだな……なるほどなあ……”


“なんだと⁉”


“だから言っただろ? 未来予測なんかに頼るからだって”


 更に皮肉めいたシュラインの思念波に、天使は答えなかった。突然、大地が揺れ始めたのだ。

 推定震度は5以上。巨大地震といって良い大きさだ。だが、不可解なことに、揺れているのはこの一帯だけであった。震源はキングとシーザーが現れた方向の山である。

 揺れが一層激しくなると、木々が生えた状態のまま、一部の山肌が持ち上がった。その下から白っぽい皮膚が見えて、初めて地下に何かがいることがわかった。はるか後方の地面も、何か所か波打っている。

 異変に気付いたトリケラトプスタイプの天使恐竜が一体、街を蹴散らして突っ込んでいく。

 だが、山肌に向かって突き立てたその鋭い角は、地面に刺さらなかった。それどころか、激しい金属音を立てて、折れ飛んだのである。

 たたらを踏んで後退したトリケラトプスの胴体を、白い柱のようなものが貫く。

 その白い何かは、そのまま胴体を突き抜け、その先の地上に降り立った。トリケラトプスの体は急激に膨れ上がり、そのまま微塵に吹き飛んだ。

 爆散したトリケラトプスの向こうに現れたそれは、二十年前に複数体現れ、すべて全滅したはずの地底巨獣・バイポラスであった。

 さらに大地を割って躍り出てきた巨獣が二体。

 四肢の間に膜を持つ、オオトカゲの変異巨獣ヴァラヌス。

 その変異体で光学迷彩能力を持つ緑色の巨獣バシリスク。

 その後方の山がひとつ、土砂崩れを起こし、斜面の中からアルマジロトカゲの変異体、重装甲巨獣コルディラスまでもが現れた。


“いまさら巨獣だと? 分解されに出てきたということか⁉”


 天使ティギエルは苛ついたように言うと、腕を振ってオリジナル天使のゼリエルを向かわせた。ゼリエルは冷たい無表情のまま、空中を滑るように四体の巨獣へ近づいていく。

 そして接近しながら、両掌を揃えて中国拳法のように前に突き出した。両掌からは、何かの力が発されたらしく、歪んだ空間が迫っていくのが肉眼でも見える。

 後方にいたコルディラスが、すっと前に出た。そして四肢を踏ん張り、他の三体を守るように頭を低くし、背中を前面に押し出した。

 見えない力がコルディラスの背中に達した途端、コルディラスの背面装甲に、丸く黒い穴が生じた。

 コルディラスの表面構造がどんどん分解されていく。

 背甲がすべて分解され、このままでは血が噴き出す、と見えた瞬間。内側から、白っぽいものが膨れ上がってきた。柔らかそうなその組織は、分解消滅させられながらも次々と盛り上がり、見えない力をそこで食い止める。

 そのうち、次第に見えない力の勢いが衰え、完全に消え失せると、そこには最初と変わらないコルディラスの装甲が復元されていた。

 一撃で屠ったとでも思っていたのだろう。空中で唖然として立ち止まったゼリエルに襲い掛かったのは、ヴァラヌスだった。

 ヴァラヌスは突進しつつ、前脚の爪を叩き付ける。

 腕の装甲ガントレットで受け止めるゼリエル。

 そこへ百八十度近く開かれた大顎の牙が打ち込まれる。

 右腕に噛みつかれたゼリエルは、相手の側頭部へ左拳を叩きこむ。

 だが、ヴァラヌスは怯まない。

 噛みついたまま体を一気に丸め、後足をゼリエルの胸にヒットさせた。

 そしてゼリエルの右腕を噛みちぎりながら、今度は限界までのけ反る。

 空へ駆け上がるように一回転しつつ、後足の爪による二段蹴り。

 ガントレットが吹き飛び、ゼリエルの腕の組織が大きく切り裂かれた。

 しかし、ゼリエルは痛がる様子も見せず、無事な左腕を思い切り振り回した。

 ヴァラヌスを弾き飛ばし、正面に向き直ったゼリエルの前には高速回転しているコルディラスがいた。

 ゼリエルの前面を、電動ノコギリのように削っていくコルディラス。

 飛び散る装甲の破片。それに混じって、虹色の体液や組織片らしきもの。

 ゼリエルは両腕をクロスして、ようやくコルディラスを受け止め、回し蹴りを放ってコルディラスを引きはがした。

 バランスを崩したゼリエルに、今度は見えない衝撃が襲ってきた。

 光学擬態を発動させたバシリスクが、いつの間にか背後へ回っていたのだ。

 バシリスクは、鋭い爪を、ゼリエルの装甲の隙間にねじ込む。

 体液を噴き出させ、ゼリエルはついに動きを止めた。

 そこへバイポラスが正面から突っ込んだ。

 土手腹に突き刺さった真っ白な巨獣を抱え込んだまま、ゼリエルは真後ろに倒れた。


“バカな……ただの巨獣がどうして天使を倒せる……?”


 立ち尽くす天使ティギエルに、シュラインもまた呆然としたまま答えた。


“さあな。僕も驚いているところだ”


 彼等はシュラインが過去に操ったことのある巨獣たちだが、生存していることさえ知らなかったのだ。生体電磁波でのコンタクトも試みたが、何の反応もない。

 とはいえ、この四体の巨獣、そしてキングとシーザーも、グレイ・グーの前にすぐにも消滅するであろうと予想された


“おまえたち……逃げろ。僕が……時間を稼ぐ”


 周囲から昆虫群が集まってきている。シュライン=ビノドゥロサスの脚は、少しずつ再生されてきていた。

 そのか細い脚でよろよろと立つと、またシュラインは突撃の体制をとった。


“シュラインさん。違うぜ。俺たちは、逃げるためにここに来たんじゃねえ。戦うために来たんだ”


 よろめいたビノドゥロサスを、横からしっかりと支えた黒い腕。

 ダイナスティス=豊川だ。ダイナスティスは大地を踏みしめ前に出ると、太い二本の腕を打ち合わせ、鈍い金属音を発した。


“バカ!! 逃げなきゃ……分解されちまうんだぞ!!”


“されねえよ!! あんたほどの人でも分かんねえか? 生命の底力ってヤツがよ!!”


“何⁉”


 シュラインは息をのんだ。

 気付けば、周囲で異様な光景が展開されていたのだ。


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