20-7 unreal trip
黒い人影は、あの時と同じように、抜身の剣を携えている。こちらが気づいていることは、当然わかっているはずだ。しかし人影は動こうとしなかった。
巨大生物の群は、岩山を下る速度をさらに上げ、黒ずくめの背後から迫ってきている。
「ちっ……遅いんだよ、あいつ。何やってる」
笠椎が苦々しい表情で言った。
「つまり、うまく仕留めるのがアイツの役、ってことだな?」
「その通りだ。沖夜ゆりだけじゃない。お前も、他のイレギュラー共もな……僕たちは、この世界に打ち込まれたワクチンなのさ……早く来いよ!! 何してる⁉」
会話中も佇んでいるだけの黒ずくめの男に、焦れたように笠椎が声を上げた。モンスター群は、そこまで迫ってきている。そして、もうほんの少しで男を踏みつぶしてしまう、と思われたその時。
黒ずくめは、その場で剣を一閃させた。
今まさに男の首を噛み千切ろうとしていた、巨大なハサミムシの首がずるり、と落ちる。
急に力を無くして崩れ落ちたハサミムシ。その死体を乗り越えて来たダンゴムシもまた、外骨格の隙間から体液を噴き出して動きを止めた。
黒ずくめは、その場で跳躍した。剣が一閃するたびに、体液を噴き出してモンスターが動きを止める。
ほんの数瞬で五体のモンスターを屠った黒ずくめは、その他のモンスターたちに向かって右手を大きく振った。
「な……何だありゃ?」
ジーランが思わず口にした。
右手の動きに合わせ、陽炎のような揺らめきが立ち上がったのだ。その揺らめきは巨大な見えない波となって、モンスター群を数十メートル押し戻した。
「何をする⁉」
笠椎は握っていたジーランの剣を、もう一方の手刀で叩き折り、奇声を発して黒ずくめへと奔った。
黒ずくめもまた、姿勢を低くして笠椎の方へ走りだした。剣を左脇に隠す、忍者のような走り方。そのまま接近した二人は、激しい金属音を立ててすれ違った。
黒ずくめが、剣を横なぎに一閃させたのが見えた。
笠椎が、素手でその剣を弾くのが見えた。
だが、立ち止まった黒ずくめの手には、いつの間にかもう一本、短い剣が握られている。すれ違いざまに、隠し持っていた小剣で、笠椎の胴を斬り抜けていたのだ。
「ひっ⁉」
ゆりが声にならない悲鳴を発した。
笠椎の体は脇腹から背中にかけて、バックリと切れていた。だが、悲鳴の理由はそれではない。裂けた傷口からは、まったく血が出ていなかったのだ。その代わりに、黄土色をした粘着質の何かがその空間を埋め、うねうねと蠢いている。
上半身が大きく斜めに傾いだまま、笠椎は首を百八十度回転させた。人間には絶対に不可能な姿勢である。笠椎は、歪んだ体はそのままに、首だけで剣を構えた黒ずくめを見据えていた。
「おまえまさか……裏切ったのか?」
「悪いな」
向き直った黒ずくめのフードが千切れ、無くなっている。すれ違いざまに、笠椎の攻撃も入っていたようだ。
「嘘……どうして⁉」
ゆりは自分の目を疑った。
「せ……芹沢……くん?」
見覚えのある懐かしい顔。自然に名前が口から滑り出た。
芹沢和也。どんなに思い出そうとしても、あの夜はどうしても思い出せなかった名、である。
だが、同時にもう一つのことに思い当たって、ゆりは続く言葉を飲み込んだ。
たしかに彼は、難病を患い、亡くなったはずである。通夜の夜、白い布をめくった時、その下から現れた穏やかな死に顔が、ゆりの脳裏に鮮明に蘇った。
ゆりの声には答えず、黒ずくめの男=芹沢は、無言のまま、異形と化した笠椎に斬りかかっていく。
「何故だ!! 何故裏切った!! 生き返れるんだぞ⁉ もう一度、お前が願った未来を生きることが出来るんだ!! それを……ッ!!」
黒ずくめの男……芹沢は、叫び続ける笠椎には答えず、無言のまま剣を振るっている。
太刀筋が見えないほどのすさまじい剣技だ。だが、ゆりの知る限り、芹沢は剣道ともフェンシングとも縁はなかったはずである。
笠椎の腕は数メートルにまで伸び、ぐねぐねと全方向から襲ってくる。先端の手刀は硬質化しているらしく、芹沢の剣と激突するたびに激しい金属音を立てた。
じっとそれを見つめ、立ち尽くしていたジーランが、ふいに両手で顔を覆い、その場で膝をつく。
「ジーラン!! どうしたの⁉」
力なくうずくまったジーランに、ゆりが駆け寄った。
「怪我? 手当てする?」
「……すまない。どこもケガはしてねえんだけどな……」
らしくない、つぶやくような小さな声だ。その体は激しく震え、顔色は紙のように白い。
「まさか……あいつの正体が、アレだったなんてな……」
笠椎を見つめるその眼には、明らかな恐怖の色があった。
「お前ラを、消しテ、僕ハ、人間になル!!」
ごぼごぼと、口から大きな泡を溢れさせながら、笠椎が叫ぶ。
腕の数が一気に増え、それと同時に衣服が千切れ飛んだ。それまでは、異形といえどもなんとか人の形を保っていたのが、もはや、肉色の触手を振り回す肉塊にしか見えない。
七本にまで増えた触手をさばききれなくなり、ついに芹沢は剣を弾き飛ばされてしまった。笠椎であったものは、奇妙な甲高い音を発して、いくつもの触手を叩きつけていった。
剣を無くした芹沢には、それを防ぐ術はない。残酷な結末を予想して目をつぶったゆりの耳に、意外な声が聞こえてきた。
「何やってんのよゆり!! あんたが戦わなくてどうすんの!!」
目を開いたゆりは、思わず空と声の主を見比べていた。
笠椎と芹沢の間に割って入り、異形の触手を受け止めていたのは、空で叫んでいるのとまったく同じ黒い昆虫の鎧を着た、高千穂咲良だったのだ。
「さ……咲良……? なんで??」
目を白黒させて問いかけるのが精いっぱいのゆりに、咲良は焦れたように呼び掛けた。
「いいからさっさと変身して!! この世界を……ぶっ壊すよ!!」
「変身って……どうやって?」
膝をついてうずくまった芹沢に代わり、笠椎に両刃剣で戦いを挑む咲良を前に、ゆりは呆然と立ち尽くすことしかできないでいる。
そんなゆりの右肩が、突然ぽんと叩かれた。
「願えばいいのよ。単純に。ホラ、思い出して」
来海瑚夏であった。胡夏もすでにその身に鎧をまとっている。
瑚夏の鎧もまた、昆虫を基本としたものに見えたが、咲良のそれよりも少し薄く見えた。黒を基本に、左右対称の黄色い模様が入った鎧は、機動性を重視したデザインのようだが、背中には戦車のような大きな砲身が飛び出していて、それが妙にしっくり装備されている。
「あとはゆりちゃんだけだよ?」
ゆりを守るように、反対隣りに現れたのは、一悠であった。
悠の鎧は、褐色の下地に、緑のラインが複雑に入り組んだ模様の重装甲である。鎧の上には、半透明の昆虫の翅のようなものがまとわりついていた。
「わ……私だけ?」
気づくと、岩山からなだれ落ちてくる巨大生物たちを、いつの間にか現れた、鎧の少女たちが食い止めている。それは、ゆりたちが結成していたバンド、セブン・エンジェルズの友人たちに違いなかった。
「七人の仲間……セブン・エンジェルズ?……じゃあ、やっぱり咲良たちが集めなきゃならない仲間だった、の? でも…………数が……」
たしかにセブン・エンジェルズは、その名に反して七人ではなかった。結成後に高千穂咲良と横山純子の、双子の姉妹が加わったからだ。
「偽の記憶に騙されないで!!」
笠椎と一騎打ちを繰り広げながら、咲良が叫ぶ。
「私たちは、ずっと七人だった!! あなたは……ううん私たちもまだ、高校生になんかなってない!! 武道館公演は終わってないの!!」
その時、乱戦状態の巨大生物群の中から、二つの人影が走り出てきた。
それは、鎧を着た少女ではない。ジーランと同じ、銀色のぴったりしたスーツを着込んだ男女の影。
「ジーランッ!! 立て!! 鬼王と一つになるぞ!!」
「あんなのに怯んでんじゃないわよ!! 一緒にやっつけるわよ!!」
その声が届いたのか、ジーランは大きく頭を振った。
「ちくしょう!! 好き勝手言いやがって!!」
ジーランはそう叫ぶと、拳で目の前の地面を思い切り殴りつけた。
「きゃっ⁉」
悲鳴が上がった。湿った地面から泥が跳ね跳んで、傍にいたゆりの顔にべっちょりとついたのだ。
「う……すまねえゆり……」
ゆりは思わず笑いだした。申し訳なさそうにこちらを向いたジーランの顔にも、焦げ茶色の泥がべっとりとついていたからだ。
「悩んでても、しょうがないよ。たぶん、あたしも、ジーランも『その時』が来たんだよ」
「『その時』?」
「怖くても、ワケわかんなくても、立ち向かわなくちゃならない時。自分が、自分であるために」
「生意気だぜ」
ジーランはゆりから目を逸らし、ふいっと微笑むと、両足に力を込めて立ち上がった。
「行くぜ!! イーウェン隊長!! ジャネア!!」
「キロロロロロロッ!!」
その叫びに応えるように、黄金竜が上半身を持ち上げて立つ。
いまだ足元のあぼつかないジーランの元へ、イーウェンが駆けつけて肩を貸した。
「隊長。アイツの正体は……」
ジーランの目には、まだ恐怖の色が浮んでいる。だが、もう体の震えは止まっていた。
「分かってる。俺たち三人にとっては仇だ。やるぞ」
イーウェンはそう言うと、ゆりに向き直って叫んだ。
「預かってたものを返す!! 思い出せ!! おまえがこの世界の鍵なんだ!!」
そして、ゆりに向かって何かを放り投げた。
バスケットボール大の赤っぽい塊は、ゆりのすぐ目の前で、細長く広がった。
「ちょちょっ?……え? コレうひいいぃぃ!!」
思わず手を伸ばして受け取ったゆりは、両手をぶんぶん振り回して、つかんでしまったものを体から引き離そうと暴れた。それは、長さにして数十センチ、いや一メートル近くはあろうかという、ムカデだったのだ。
「拒否するな!! 忘れたのか⁉ そいつは俺だ!! 殺されそうになったのを、助けてくれただろ!!」
「この声……あの時の⁉」
イーウェンの声には聞き覚えがあった。あの日、中庭でつぶされそうになっていたムカデを助けた時、頭に響いた声である。
「心をつなげ!! 沖夜ゆり!! 彼女たちは、本当はあそこに……現実世界にいるんだ!!」
ジーランが空の咲良を指さした。
「で……でも……」
ゆりは、まだ躊躇していた。両腕の中に収まっているムカデは、形こそ凶悪だが、おとなしくとぐろを巻いている。
「あんた……あの時のトビズムカデなの?」
ゆりの声に応えるかのようにひらひらと触覚を動かしたムカデは、だが自分から何かに変わろうとはしなかった。
「あたしが鍵……って言われても、どうしたらいいか分かんないよ。それに、このままじゃ……」
ゆりの頭をよぎったのは、クラスメイト達や先生、両親、親しい人たちの顔だった。
高校入試から一学期にかけて、数か月の学校生活。部活動や放課後の友人たちとの会話。あれもこれも、すべて仮想にすぎない世界でのこと、現実ではないと頭では理解していたが、それと同時にこの世界を壊すということの意味にも気づいてしまった。
(あの世界では……あの世界にいる人たちにとっては、あれが現実で、世界のすべてなんだ。もし、あたしが『世界を壊し』たら……)
消滅する世界に住んでいた者たちはどうなるのか。
『死のない世界』という、あり得ない世界ではあっても、そこに自分の居場所を作ってくれていた大切な人々は……
「沖夜ゆり!! 貴様さえ死ねば、すべての世界は守られる!! 現実世界とやらもここに取り込めばいいのだ!! 何も変わらない!! すべてを救う方法はそれしかないんだ!!」
咲良と戦っている笠椎の体から、ゆりに向かって何かが発射された。それは、すさまじい速度で伸びてくる新しい触手であった。
「あッ⁉ 待て!!」
咲良が止めようと動くが、位置は正反対、止められるようなタイミングではない。肉色の鋭くとがった触手が、ゆりに達しようとしたした寸前。
それを遮った影があった。
「ぐ……あああ……」
呻き声をあげて膝をつく、黒い人影。
それは、笠椎の攻撃を受けて負傷していた芹沢だった。
「芹沢君⁉」
「近寄るな!!」
叫んで駆け寄ろうとしたゆりを、芹沢は片手で制した。
「なんでよ⁉ ケガ、してるじゃん!!」
「コイツの触手は、相手を侵蝕し、同化していく……僕はもう、ダメだ」
「ひゃははははははは!! 沖夜なんぞを庇ってどうする気だ⁉ お前、生きたいんじゃねえのかよ? まさか、また天使様に生き返らせてもらおうってか?」
哄笑する笠椎。その異形は次第に肥大化し、直径十メートル近くの肉塊だ。どこから声を発しているのかすら分からないが、嘲るような口調は意外にも冷静だ。
しかも、必死で斬りかかっている咲良を、数本の触手で軽くあしらいながらである。
「生きたいさ。これまで通り、生きていたいから、沖夜を守るんだ」
「ハァ? おまえ、頭どうかしたのか? それとも転生させてもらう時に、バグったか?」
「どうもしてないさ。バグってもいない。天使に持ち掛けられた時から、こうするつもりだった」
「それをバグっていうんだよ!!」
肉塊の表面から、更に数本の触手が芹沢に向かって伸びた。
だが、芹沢は負傷しているとは思えない速度で剣をふるい、自分を貫いていた触手を含めすべてを斬り落とす。
「僕の死は、僕のものだ!! 悲しみも!! 怒りも!! 誰にも踏みにじらせはしない!! 消えた僕の命を拾ってくれたのは、沖夜だ!! 沖夜の夢で、僕はとっくに生き返ってるんだ!!」
「え⁉ あたし⁉」
そこで自分の名が出るとは、予想もしなかったゆりがうろたえて声を出す。
「沖夜!!」
「は……はい!!」
「いいか!! 肉体の死は終わりじゃない!! 心を拾ってくれる誰かがいれば!! そいつはずっとその誰かの中で生きている!!」
「ずっと……?」
「ここにいる僕は……奴らが再生したのは、お前の中にいた芹沢和也だ!! 分かるな? お前がお前らしく、まっすぐ生きている限り!! 誰も失われたりなんかしないんだ!!」
「あ……ああああああ!!」
芹沢の言葉が、ゆりの意識の内にあった何かを弾けさせた。
栗色だった髪が、透き通るような璧緑色に長く伸びた。白い薄布がどこからともなく現れ、着衣のようにまとわりつく。
ゼリエルの姿になったゆりが、右手を伸ばしてふわりと動かずと、ムカデがそれに応えた。
まるで、糸で操ってでもいるかのように、空中に浮かび上がり、外骨格がいくつものパーツに展開し、ゆりの体表を覆っていく。
「芹沢君……あたし、分かったよ……」
右目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
自分が戦うことで、消滅する世界の人々。だが、生はそれで終わりではない。人の中で蘇る。それを背負うのは、他でもない、自分自身なのだと、ゆりは心で感じ取っていた。
力が漲る。装甲になった無数の虫たちから、活力が注がれてくる。
両腕は、ムカデそのもののような節が出来、脚のような突起まで生えてきた。全身を覆う赤褐色の装甲は、弾力性に富む曲線で構成され、赤と緑のグラディエーションに変わった薄布が、マントの様に背中になびいた。
ゆりは、右手を高く掲げた。その手の中に、周囲から無数の虫たちが集い、装甲と同じ赤褐色の兜が創り出される。
覚えている。
この姿になるのは、二度目だ。
守るべき、本当の世界はあそこだ。守るべき仲間、本当の家族や友はそこにいる。
世界はナノマシンに覆われ、滅亡しそうになっていた。だから、ゆりたちは敢えての特攻を決めたのだ。それを阻止しようとする天使巨獣との乱戦で、スズメバチ、カマキリ、カミキリムシの三体の擬巨獣に守られ、ゆりだけが隙をついて、空間に開いた『穴』に飛び込むことに成功した。
そして……
「芹沢君ッ!! 咲良ッ!!」
ゆりは、右腕を前に突き出し、装甲のトゲを数発、笠椎であったものに向けて発射する。トゲは空中で無数の針に分かれ、巨大な肉塊の表面を半分以上グズグズに砕いた。
聞いたこともないような高い悲鳴が響いた。肉塊は自分の傷を押し隠すようにぐちゅぐちゅと変形していく。その間に、ゆりは力尽きてうずくまっていた芹沢を救い出し、両手に抱えて走った。ゆりの動きに、咲良も合わせて走る。
二人は、動きを止めた肉塊からいったん距離をとると、ぐったりとした芹沢を、地面に横たえた。
「咲良!! どうしよう⁉ あたし、どうしたらいい⁉」
「芹沢君⁉ しっかりして!! どこをやられたの?」
「高千穂……」
芹沢が薄く目を開け、咲良の名を呼ぶ。
「え? 二人……知り合い?」
きょとんとした顔で、場にそぐわない質問をしたゆりに、咲良があきれ顔で答えた。
「バカね。なんであたしたちが、この世界に来れたと思ってんの?」
「え……まさか……」
驚くゆりの視線を避けるように、芹沢が目を伏せた。
「彼があたしたちを探して、ここへ連れてきてくれたのよ。それぞれ全く違う存在に変えられていた、あたしたちを……」
「違う存在って……でも、あそこに見える咲良は? どっちが本物なの?」
ゆりは、空の向こうで戦い続けている咲良を指さした。
「あたしたちは、この世界に飛び込ませた分身……だから、あなたと一つになって、あなたが現実に帰ることが出来て、初めてこの世界を壊せる道筋ができるの!!」
「分かった……」
そう言ってはみたものの、他のメンバーはモンスター群に押され始めている。よく見ると、モンスターは土中から次々と湧き出しているのだ。
先ほどの攻撃でダメージを負った笠椎も、回復を終えてこちらに迫ろうと動き出した。わずかでも戦力が減れば、押し切られてしまいそうだ。全員と一つになる、といってもどうすればいいのか、試す余裕すら与えてくれそうもない。
「ゆり、アイツは……俺たちにまかせろ!!」
その声に、ゆりは黄金竜の方を振り返った。声の主、ジーランは、他の二人とともに黄金竜の足元に佇んでいる。
「行くぞ!!」
「おう!!」
「了解!!」
「キロロロロロロロッ!!」
隊長のイーウェンに応えた二人の声に、黄金竜の囀りも重なる。そして、三人が変わった。一瞬で重ね描きされたかのように、別の姿に。
ジーランは、黒と黄色の縞模様を持つ、スズメバチの特徴を持つ装甲を纏った姿に。
ジャネアは、緑をベースに、薄茶色のアクセントをあしらった、カマキリの特徴を持つ装甲を纏った姿に。
そしてイーウェンは、長い触覚を持ち、灰色をベースに吹雪のような白をあしらった装甲……シロスジカミキリの特徴を備えた姿へと変貌した。
そして、黄金竜から発せられた眩しい光が、三人を飲み込んでいく。
ゆり達へにじり寄って来ていた笠椎であったものが、その閃光に怯んで、動きを止めた次の瞬間。突然、光の中から銀色に輝く巨大な鎌が現れた。
「え? え? え?」
ゆりは目を白黒させた。
銀色の鎌が、一瞬で肉塊を真っ二つに切り裂いたからだ。
光は急速に収まり、そこに姿を現したのは、見たことの無い一体の大型生物=巨獣だった。