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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第19章 GONG
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19-8 predestination



“嫌な空気だな”


 ライヒ=タイタヌスが、黒く輝く牙を不機嫌そうに打ち鳴らした。

 その足元には、天使化したスピノサウルスが、袈裟懸けに真っ二つにされ、それでも立ち上がろうともがいている。


“何がです? あたしたち、圧倒的じゃないですかぁ?”


 脳天気に答えたのは、セミの力を得た悠=マクスェルであった。

 マクスェルは、天使恐竜の群れに突っ込んでは、衝撃波を放って相手を行動不能にしている。タイタヌスは、そいつらが回復する前に高周波振動する大顎で止めを刺していた。


“たしかに数は減っている。だが、気づかないか? それ以上に一体一体のパワーが上昇している”


“……そのようだな。天使恐竜ども、戦略を変えたということか……?”


 樋潟=メガソーマが、これまでの数倍に肥大した雷竜を受け止めて言う。

 まるで水風船のように膨らんだ雷竜は、その半透明の体から不規則に細長い首を生やして、蠢かせている。それを軽々と放り投げ、数体の天使恐竜の上に叩きつけたメガソーマは、タイタヌスと背中を合わせて一息ついた。


“そもそも、コイツら……というか、天使は何がしたいんだ? 六大天使の意識を乗っ取った少女たちを抹殺する……だけにしては、やり方が回りくどい。まるでこの場に俺達を集めたがっているみたいな……”


“樋潟司令……まさか、それこそが……”


 二体の擬巨獣が、思わずその複眼で視線を交わした次の瞬間、先ほどの雷竜の体が異様にねじくれ、丸く膨らんだ。


“ヤバいぞ!! 伏せろ!!”


 シュライン=ビノドゥロサスの指示で、全員が姿勢を低くしたその上を、蒼白い光条が薙ぐように通過した。

 発射源となった雷竜の体には、大きく丸い穴が開いている。穴の部分は蒸発してしまったのか、肉片すら飛び散っていなかった。


“こいつは粒子熱線……つまり……”


 ライヒ=タイタヌスの思念波こえには、わずかではあるが恐怖が含まれている。


“そうだ。ヤツら、やっと尻尾を出したようだな”


 そう言った樋潟=メガソーマの思念波こえは、抑えようもない怒気をはらんでいた。


“見て!! 恐竜が食べられてく!!”


 ゆり=ゼリエルが指差したのは、穴の開いた雷竜の死体である。

 そこでは異様な光景が展開されていた。半透明の不気味な雷竜の体が、まるで折りたたまれるようにして、一点に吸い込まれていくのだ。それは、ゆりの言うように、後ろにいる何者かが、すすり込んで食べているように見えた。

 雷竜だけではない。下敷きになったはずの数体の恐竜も、金色の体液を噴き出しながら、何者かに吸い込まれていく。

 その場所に転がっていた数体の天使恐竜は、ほんの数秒で消え失せ、底も見えない真っ黒な穴がぽっかりと顔を出した。


“な……何なんだこれは!? どこから見ても……穴に見えるなんて……”


 ジーラン=ベスパが。上空でゆっくりと穴の周囲を回りながら驚きの声を上げた。

 驚くのも無理はない。その穴は空間そのものに開いていたのだ。

 上下左右、どこから見ても丸い黒い『穴』。直径は五十メートルくらいだろうか。いったいどこに通じているのか、穴の輪郭は、ゆらゆらと揺らいでハッキリしない。

 そして穴が開くと同時に、周囲の天使恐竜がその穴へ吸い込まれ始めた。それは、天使恐竜たちの意志とは無関係なのか、必死に抗う様子を見せている。しかし、抵抗は無駄だった。

 まるで排水口に吸い込まれるように渦を巻きながら、何体もの恐竜たちが穴に呑み込まれていく。見る見るうちに、数十、数百の天使恐竜が姿を消した。

 不思議なことに、その吸引力はシュラインたち擬巨獣群や、少女天使達、また上空を埋め尽くす昆虫群にも作用しないらしい。


“何なに??? あの穴、味方なの? もう戦いは終わり?”


 メイ=ダイニエルが、のんきな声を上げる。他の少女天使達も、肩の力を抜いてその場に佇んだ。だが、七体の擬巨獣群は黒い穴に向かって身構えている。


“気を抜くな。味方である可能性は……限りなく低い”


 イーウェン=バトセラはそう言いながら、首の関節からキシキシとカミキリムシ特有の警戒音を鳴らしている。


“教えてあげるわ、お嬢ちゃんたち。戦場ではね、たとえ自分たちに有利なことが起きても、それが何なのか確認するまでは、絶対に気を抜いちゃダメ。敵の敵は味方、なんてこと、百回に一回もありゃしないんだから”


 ジャネア=ハイメノパスが、両腕の鎌を前にかざし、黒い穴を睨み付けたまま言った。


“……出てくる”


 樋潟=メガソーマが低く呟いた。


“何あれ!? 大きいよ!?”


 メイ=ダイニエルが悲鳴に近い思念波こえを上げる。樋潟の言う通り、穴の底から何か巨大なものが出て来つつあるのだ。その巨大な影は、曖昧な穴の輪郭に手を掛け、頭からずるりと這い出し、頭から海に落下した。

 そいつが海底に両脚を踏ん張り、仁王立ちになった時、その場の全員が驚愕した。

溶岩の固まったような、青黒い皮膚。

 珊瑚のような不規則な形をした蒼い背ビレ。

 長い尻尾を後方に揺らし、額には真紅の宝玉が輝いている。

 それは、あの巨獣王・Gだったのだ。


“ふん。偽のG……いや『複製のG』と言った方が正しいか。つまり、天使恐竜どもは、複製巨獣を材料に作られていたってワケだ”


 言いながら、シュライン=ビノドゥロサスが、ずい、と前に出た。


“つまり、パワーは天使恐竜数百体分ってことか。だけど相手がGなら、戦闘経験のある僕が先鋒をつとめさせてもらおう。文句はないよね?”


 漆黒の大顎を打ち鳴らすシュラインに、守里=ルカヌスが言った。


“一人でやる気か!? 相手はコピーとはいえ巨獣王だぞ?”


“へえ。君が心配してくれるのか? そんなことがあるとは……蘇ってみるもんだな”


 自嘲気味に言いながら、シュラインはGに向かって歩を進める。


“そうだな。たぶん、アイツはオリジナル以上に強いんだろう。だけど僕は、あの姿を使われたことに、少々怒っていてね……”


“……怒る?”


 不思議そうに、ポツリと言った咲良=ティギエルを、ちらっと振り返ってシュラインは笑った。


“まあ、あの戦いを知らない君たちには、理解できないかもね”


 次の瞬間。いきなりシュライン=ビノドゥロサスは動いていた。

 翅を羽ばたかせて一気に間を詰め、超震動の大顎でGの胴体を挟み込んでいたのだ。

 

“よくも僕たちを……僕たちの戦いを愚弄してくれたなッ!!


 怒りの思念波が周囲を叩く。


“Gを冒涜するなッ!!”


 叫んだビノドゥロサスは、そのまま大きく後ろへ反ると、Gを後方へと投げ飛ばし、頭から叩きつけた。凄まじい土煙が上がり、全員の視界を奪う。土煙を裂いて、巨大な岩石の破片が周囲に飛び散った。


“いかん!! 避けろシュライン!!”


 ライヒ=タイタヌスの思念波こえが響く。

 シュラインは、慌ててGから大顎を外すと、仰向けのまま地面に転がった。そのほんの少し上を、蒼い光条が駆け抜けていく。余波が帯状にビノドゥロサスの腹甲を焦がし、周囲に嫌な臭いが立ちこめた

 シュライン=ビノドゥロサスは、そのまま翅を羽ばたかせ、地面を滑るようにして距離をとり、一回転して起き上がった。

 Gもまた、くるりと一回転すると、何事もなかったかのように立ち上がり、次の瞬間、またも蒼白い熱線を放った。シュラインはそれを予測していたかのように姿勢を低くして避け、ふたたび翅を開くと、Gへ向かって奔った。

 Gも姿勢を低くしてこれを迎え撃つ。ビノドゥロサスの黒い牙を正面から受け止めたその動きには、地面に激突したダメージは感じられず、超震動している大顎が食い込んだはずの胴体にも、損傷は見当たらない。

 Gは、両手でビノドゥロサスの大顎を押さえつけたまま、天を仰いで吼えた。その瞬間、不意にGの体表の色が変わり始めた。


“ヤツめ……それが本気の姿ってワケか”


 ライヒ=タイタヌスが呟く。Gの体表は、足元から天使恐竜と同じように、白く、透き通るような色に変わっていく。そして更に、その上に金粉をまぶしたかのように、背ビレや牙、爪、肩などが黄金の輝きを発し始めた。

 おそらくは、以前のGを上回る強化形態への変身である。Gは、黄金に輝きだした右腕を振り上げた。長く伸びた爪が一瞬輝き、ビノドゥロサスの頭部に吸い込まれる。


“ぐあッ!?”


 シュラインの呻きが響いた。爪が引き抜かれた場所からは、白く濁った液体が噴き出す。


“くそッ!! このバケモノめ!!”


 シュラインは怒りの思念波を叩きつけると同時に、腹部の両脇からいくつもの光弾を発射した。それは以前、デルモケリスが吐き出した球電ボールライトニングと同じモノであった。生体電流を極限まで高め、高温でプラズマ化した体内物質を呼吸器官である気門から吐き出したのだ。

 しかし天使化したGは、その巨体には信じられない速度でビノドゥロサスから離れた。

 そして、襲いかかってくる光弾を思わぬ身軽さで避けていく。さらに避けきれなかった数個の光弾は片手で叩き落とし、再び爪を閃めかせてビノドゥロサスに迫った。


“やめろぉぉおおおお!!”


 立ちはだかったライヒ=タイタヌスと守里=ルカヌスを、すり抜けるようにかわし、一瞬でシュラインの背後に回り込んだGは、またも頭部を狙って、その黄金の腕を振り上げた。

 そこにいた誰もが、ビノドゥロサスの敗北を確信した次の瞬間、Gの動きが突然止まった。


“……貴様はGじゃない。いや、伏見明じゃない。あいつなら、決して敵の攻撃を避けたりはしない……”


 シュラインの静かな思念波こえが響く。

 凍り付いたように動きを止めたGに、ビノドゥロサスがゆっくりと向き直った。


“避けてくれて助かったよ。おかげで、上手く結界を張れた”


 彼らを中心にして半径五百メートル。円を描くように等間隔に、先ほど放たれた光弾が宙に静止している。金縛りにあったように凍りついたG。どうやら、そこから見えない何かの力が放出されているようであった。


“いくつか叩き落としてくれたのもよかった。おかげで君にマーキングできたからね”


 光弾が一段と輝きを増し、周囲にオゾン臭が立ちこめた。


“これは正の電荷を帯びたプラズマなんだ。今の君は同じ電荷を帯びているから、反発して動けないってわけさ。そして球電を生み出した僕の体は、同じだけの負の電荷を持っている”


 シュライン=ビノドゥロサスは呟くように言いながら歩み寄る。


“この体は絶縁体でね。このままだとプラズマは寄ってこない。だけど、こうして負の電荷を君に渡したらどうなるか……分かるかな?”


 言いながら、黒い大顎を二、三回打ち鳴らす。すると長い牙の間に、蒼白い別の光弾が現れた。それを、動かないGの胸部にそっと預けると、ビノドゥロサスはくるりと背を向けた。

 そして、先ほどと少しも変わらない足取りでその場を歩み去っていく。

 滞空する光弾の描く円から、ビノドゥロサスが踏み出したと同時に、すべての光弾がGめがけて襲いかかった。

 いや、正確にはGの胸で輝く蒼白い光弾に向けて飛んだのだ。

 凄まじいスパークが起こり、イオン化した空気以外に、肉の焼け焦げる臭いが立ちこめた。


“へえ。この臭い。君もタンパク質で出来てるんだね。参考になるよ”


 振り向いたシュライン=ビノドゥロサスが、冷たく言い放つ。天使の輝きを失い、真っ黒に炭化したGが、バランスを失ってゆっくりと倒れた。

 咲良=ティギエルと瑚夏=ガイエルが、ハイタッチして喜び合い、他の少女天使たちは、ホッとしたようにその場でしゃがみ込んだ。

 気づけば、残った天使恐竜たちは、遠巻きにこちらを見ている。まだ数千体はいると思われたが、攻撃してくる様子はない。


“あの偽Gが最後の切り札だったってことかな……だけど、これでヤツらが諦めるとも思えないんだが……


 シュライン=ビノドゥロサスはそう言うと、さすがに疲れたのか、その脚から力を抜いて跪いた。そこへ、二人のヨッコ――ネクサセルとノエルが駆け寄って両側から支える。


“あの……大丈夫ですか? ケガは?”


“すまない。大丈夫だ。なあに、そもそも群体である僕たちには、ケガなんかあり得ない。ちょっとエネルギーを使いすぎただけさ”


 全員が、ゆっくりとシュラインの周囲に集まってきた。

 だが、まだ警戒を解くことは出来なかった。天使恐竜だけでなく、偽Gを生み出した黒い穴もまた、いまだ消える様子もなくゆらゆらと海面に残されているのだ。七体の擬巨獣と八体の少女天使達は、穴から距離をとってシュラインに寄り添った。

 その時、すっと手を挙げて穴を指差したのは咲良=ティギエルだった。


“まだ何か……出てくる!?”


 咲良の言う通りであった。黒い穴の陽炎のような揺らめきが一瞬激しくなり、中に金色の光が生まれたのだ。穴の内部はよく見える。金色の光は光の粒となり、ゆっくりと渦を巻いて形を作っていく。

 驚いたことにそれは、彼らにとって見覚えのある形をしていた。


“あ……あれって、ティギエルじゃ……ない?”


 メイ=ダイニエルが呟いた。

 たしかにその金色の物体は、咲良が変身しているはずのティギエルだったのだ。

 だが、今のティギエル=咲良は、全身を焦げ茶色の昆虫装甲で覆われている。穴の中に現れたティギエルは、本来の姿であった。

 金色の鎧を纏い、腰に携えているのは両刃剣。揺らめくような光の翼も健在だ。


“どういうこと!? あたし達以外に、六大天使が存在してるってことなの!?”


 呟くように言いながら、瑚夏=ガイエルが一歩、ティギエルに近づいた。


“まずい!! 逃げろ!!”


 叫んだのはシュラインだった。

 穴の中のティギエルが、すっと腰を落とすと同時に、そのままの姿勢で外へ滑り出したのである。


“ぐあッ!?


 樋潟=メガソーマが呻いた。とっさに前に出て、瑚夏=ガイエルを庇ったのだ。

 突き飛ばされた瑚夏が、悲鳴を上げて転がった。

 ただ通り過ぎただけのように見えたティギエルだったが、鞘に収まっていたはずの両刃剣がいつの間にか抜き放たれている。


“くッ……何だ、これは……!?”


 樋潟=メガソーマは、そのいかつい腕を、腹部に当てた。

 斬られている。だが、傷口から漏れているのは、真っ白な煙だ


“クソッ!! 体内の水分が蒸発していく!!”


“樋潟司令!? 群体を解いてメガソーマから離脱して下さい!!”


 ライヒ=タイタヌスが叫ぶが、その時点で既にメガソーマは動きを止め、複眼からは光が失われていた。


“どけ!!”


 駆け寄ったシュライン=ビノドゥロサスが、いきなりその腕をメガソーマの背中に突き刺した。


“大丈夫だ……樋潟は救えた”


 シュラインはそう言うと、すぐに腕を引き抜いた。その鉤爪状の先端には、何か白い内臓のような物体が乗っている。白い物体は、見る見るうちに形を変え、人間の形になった。体は昆虫のように節のある茶褐色の装甲で覆われているようだが、むき出しになっているその顔は、確かに樋潟幸四郎である。

 だが、ホッとする間もなく、ゆり=ゼリエルが叫んだ。


“見て!! Gが!?”


 真っ黒に炭化したはずのGが、立ち上がったのだ。体表には無数のひび割れが入り、剥がれ落ちていく。その下からは、再び黄金の皮膚が何事もなかったかのように現れた。

 Gは天を仰いで一声吼えると、蒼白い熱線を、味方であるはずの黄金のティギエルに向かって発射した。


“まずい!! 散れ!!”


 イーウェン=バトセラが叫ばなければ、そこで全員が消滅していただろう。

 ティギエルに熱線が届くまで、コンマ数秒。その間に擬巨獣群は、少女天使達をそれぞれつかんでその場から離れていた。

 その直後、ティギエルは、最初に出現した時と同じように、Gの熱線をその黄金の装甲ではじき散らしたのである。

 威力はあの時の比ではない。プラズマ化した重粒子の塊が、無数に飛び散り、着弾点は一瞬で融解した。さらに、その余波で蒸発した海水が水蒸気爆発を起こし、巻き起こった爆風は、遠巻きにしていた天使恐竜たちをも吹き飛ばした。


“ぐ……うう……”


 陸側に逃げたシュライン=ビノドゥロサスは、背中から地面に叩きつけられていた。

 凄まじい衝撃に、慌てて手の中を確認すると、樋潟は頭を振って起き上がった。


“気づいたか。見ての通り、状況はよくない。”


“それどころじゃない。シュライン。ヤツら、既に最終手段に出ている”


“それはどういうことだ?”


“意識を失っている間、どうやら俺は、生体電磁波能力でTV放送を受信してしまっていたらしい。お前にもできるはずだ。見てみろ”


“それは可能だが…………何だこれは!?”


 シュラインは、思わず驚きの声を上げていた。

 TV報道は絶望を伝えていた。アメリカを中心として広がりつつあったグレイ・グー。すなわちナノマシンの無制限増殖地帯は、Gドラゴニックのおかげか拡大を止めている。だが、同様なグレイ・グーが、世界各地にさらに五カ所も発生していたのだ。

 ほぼ円形に勢力を拡大しつつあるそれぞれの中心には、輪郭の揺らぐ黒い穴が存在している。それは、目の前にある、偽Gとティギエルが出てきた穴に酷似していた。


“これではもう……Gドラゴニックのナノマシンコントロールシステムも、間に合わない……僕たちの……負けだ”


 がくりと肩を落としたビノドゥロサスに、咲良=ティギエルが厳しい声で叫んだ。


“何言ってるの!! これくらいで負けを認めてどうするの!?  あんたがこの場のリーダーなんでしょ!? まだ、ひとつも謎は解けてないんだよ!?”


“謎…………? 謎だって?”


“どうして、ヤツらは、私たちに天使恐竜をけしかけたの!? どうして、ここに他の偽巨獣や、六大天使は来ないの? どうして、黒い穴からグレイ・グーを出さないの? そもそも、なんでこんな回りくどい方法で、地球を滅ぼさなくちゃいけないの!?”


“言われてみれば……”


“あいつら、私たちにはナノマシン化して欲しくないんだ!! 目的も、想像が付く!! 地球を滅ぼすのは「ついで」なの!! 欲しいのは地球じゃない、人類の体で出来た有機ナノマシンなんだ!!”


“……そうか……ヤツらがデータ化した生命体なら、保存、シミュレートしておく、サーバーかネットワークが必要だと思っていたが……ナノマシン化した有機体をチップ代わりにした、巨大有機コンピュータ……肥大したデータをシミュレートし続けるために、有機体のいる星を無差別に狙ったってワケだな?”


 シュラインはようやく合点がいった、という様子で言うと、黒い体を重そうによじって、ティギエルに向き直った。それを見た二人のヨッコが再び駆け寄り、同時に声を上げる。


“ダメです無理しちゃ!! 死んじゃいますよ?”


“動かないで!!”


 ビノドゥロサスの体は、先ほどの戦闘で大きなダメージを負っているのだ。シュラインは、手の中の樋潟をヨッコ=ノエルに渡すと、その手を振りほどいて歩き出した。

 偽Gが、身構える。黄金のティギエルは、両刃剣を正眼に構え、こちらを狙っている。偽Gは怒りの咆吼を上げ、ティギエルの動かない表情は、目を閉じたままであるにもかかわらず、気迫のようなものが伝わってきた。


“聞け!! 今から僕たちは……ヤツらの手に掛かる!!”


“何だと!? シュライン!! あんたやっぱり、敵だったのか!?”


 ライヒ=タイタヌスが驚きの声を上げた。


“違う。ヤツらにとって、僕たちをナノマシン化することには大きなリスクがあるんだ。それが何かは分からない。だが、ナノマシン化させないために、ここに僕たちを集めて殺す気だったんだ”


“なら、なおのこと、やられるわけにはいかないんじゃないのか!?”


“だが、偽Gも、ティギエルも、強い。周りは天使恐竜に取り囲まれている。勝つことはおろか、逃げおおせるのも難しい。ここは策が必要なんだ”


“どうする気だ?”


“あの穴だ。たぶん、他の穴と同じ場所に通じているはずだ。タイタヌス、ハイメノパス、ベスパ、バトセラ、ルカヌス、そして僕が盾となって、彼女たちを穴に飛び込ませる!! そして行った先で、グレイ・グーに触れナノマシン化するんだ。それ以外に活路は無い!!”


“イヤだよそんな!! 塵になるなんて!!”


 メイ=ダイニエルが怯えた声を上げる。


“違うよメイ。塵になるんじゃない。たぶん、私たちはデータ化されてネットワーク上に転生するんだ。この力を持ったまま……”


 咲良=ティギエルはそう言うと、両脚を踏ん張って立ち、黄金のティギエルに向かって同じ構えで剣を突き出した。


“そうだ。それをヤツらは恐れている。僕らの力は、個体を超えて互いをつなぐ、心のネットワークだ。ネットワークが最も恐れるのは、同一システム内に別のネットワークが生ずることだからな”


“来た”


 灯里=コスモエルが呟くように言った。

 偽Gとティギエルが、ゆっくりと間を詰めてきたのだ。天使恐竜群も、じわりと包囲を狭めつつある。


“もう迷っているヒマはない!! いくぞ!!”


 六体の擬巨獣は、シュラインの声と同時に飛び出した。八人の少女天使と無数の昆虫群がその後に続く。一塊になって突っ込んだ擬巨獣達と、天使化したG、黄金のティギエルが、火花を散らして激突した。


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