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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第19章 GONG
155/184

19-2 STORM



「風が……」


 黒い森の中。先頭を歩いていた広藤が、不意に立ち止まった。


「どうしたの?」


 怪訝そうに言った珠夢も、大きな空気の流れを感じて目を見張る。

 耳鳴りが、急激な気圧の変化を教えていた。

 そして次の瞬間、視界を真っ黒に遮ったのは、無数の昆虫の群であった。

 昆虫群ならば、第二次巨獣大戦の時に経験している。それゆえに、広藤も珠夢も、そして自衛隊員達も、パニックに陥ったりはしなかった。だが、その圧倒的な密度は、二十年前のそれとは比べものにならない、と彼らには思えた。


「こ……これは!? いったいどうして?」


「たぶん、さっきのホタルだ。あの発光シグナルで集まってきたんだろう。しかし……この数は……ッ」


 植物巨獣クェルクスの残滓に覆われた樹木都市・東京。

 そこは世界有数の都市でありながら、多種多様な生命を育んでいることは、その後の研究によって知られていた。そのバイオマス量と密度は、生命の宝庫、アマゾン川流域をもしのぐとさえ言われていたのだ。

 その樹冠に、あるいは幹に、あるいは地中や水中にまで潜んでいたあらゆる昆虫たちが、一斉に明治神宮の森へと殺到してきていた。


「隊長!! 見てください!! 巨獣がいます!!」


 隊員の一人が、密生する樹林の間を指さした。

 見ると、樹木と同じ位の高さ……十数メートル級の何か黒い影が、ゆっくりと立ち上がろうとしている。

 長大な二本の突起が天を突く。頭部付近から生えたそれは、ツノのようである。体表面が、艶やかな黒であることは夜目にも分かった。


「あれは……やはりダイナスティス……いや?」


 広藤は首をかしげた。

 二十年前のダイナスティスは、映像でしか見たことがない。だが、シルエットが違うことは、すぐに分かった。

 前後に長い二本のツノがあるところは似ているが、頭部が目立って大きく、そこには短い二本のツノも見える。また、黄土色であるはずの胴体は、そのツノと同じ艶のある黒であった。


「ヘラクレスというより……同じダイナスティス属のネプチューンオオカブトによく似ているな。それに……えらくスリムだし腕が太い。あれじゃまるで人間だ……」


 冷静に分析している夫に、珠夢は少し焦れたように言った。


「そんなこと、どうでもいいよ。もしかして、あれが豊川君なの? あの時の松尾さんと同じように、変身しちゃったの?」


「状況からしてそうだろう。彼は、あの姿で咲良ちゃん達を助けに行くつもりに違いない」


『そうだ。だけど、行くのは豊川蓮、一人じゃあない』


 突然、背後から声を掛けられて、広藤達は飛び上がった。

 茂みをかき分ける音が聞こえ、森の暗がりから歩み出てきたのは、広藤や珠夢にとっては、見覚えのある金髪碧眼の美少年であった。


「あなたは……シュライン!?……さん? どうして……」


『久しぶりだな。広藤弥美也』


「いったい……何が起ころうとしているんです?」


『この森の……いや、首都圏に住まうものすべてが、彼に力を貸そうとしているんだ』


「首都圏に……住まうもの?」


『見るがいい』


 シュラインが指し示した森の奥に、さらなる巨大な気配を感じて、思わず広藤は後ずさった。


「なんてことだ……あれはッ……!!」


 数は分からない。だが、目の前で形成されつつある黒い擬巨獣と、同等かそれ以上の質量を持つ存在が、そこにも姿を為そうとしていたのだ。


『心配するな。二十年前とは違う。あれらは無闇に暴れたりはしない。その目的はただ一つ。豊川蓮とともに、高千穂咲良を守ることだからだ』


 シュラインはそう言いながら、姿を為そうとしている擬巨獣のひとつに歩み寄っていく。


『今、地球上の生命のすべてを終わらせようとする者たちがいる。松尾紀久子は、ヤツらに抗い、Gの力を得て飛び立った。高千穂咲良たちもまた、自らの未来と命の尊厳を守るために立った。豊川蓮は、己の想いに殉ずる覚悟で、あの姿となった』


 シュラインが指す先には、完全な姿となった黒い擬巨獣の姿がある。

 大まかな特徴はネプチューンオオカブトのそれでありながら、二本の足で直立し、二本の腕が胴ほども太く、その先端には鉤爪だけでなく、ハッキリとした拳の形がある。

 黒く艶やかな装甲に覆われているのは、背甲や腕部、脚部だけではない。本来、昆虫の弱点となる腹部も、竜のそれに似た蛇腹状の甲殻で塞がれていた。


『どうやら、従来の擬巨獣と違って、核となった彼のイメージした通りの姿になったようだね。あいつは、どうあっても戦うつもりのようだ。お前達は……どうする?』


 ふいに微笑みかけられた珠夢が、少しうろたえたように身構えた。


「シュライン……あなたは……」


『すまない。少し、偉そうだったな。二十年経ったから……罪が消えたなんて思っちゃいない。あの天使どもに、僕たちの力が通じるかどうかも分からない。だが、僕もやれることがある限りはやるつもりだ。あの時、君達がそうやって戦ったように……』


 そう言うと、シュラインはまた微笑んだ。そして、新たに出来上がりつつある擬巨獣……黒く平たい巨大な甲虫にその姿はゆっくりと重なり、埋没していく。


“最後まで、足掻いてみようじゃないか。それでこそ『命』。それが『生きる』ってことだろう?”


 生体電磁波の響きが、広藤達の脳に伝わってきた。


「あれはあの時のオオクワガタの擬巨獣……たしか……ビノドゥロサス……」


 広藤が呟くと、シュラインの生体電磁波こえが答えた。


“その通りだ。僕たちは、敢えてこの姿をとる。ベン=シャンモンが反乱に用いた擬巨獣群の姿をな。その意味が理解できたなら……君たち人間にも出来ることがあると気づくはずだ”


「待って下さい!! 俺達に出来ることって……!?」


 広藤の叫びは、突如巻き起こった強い風に打ち消された。

 あの黒い擬巨獣……豊川の変身したものが、半透明の翅を広げて飛翔したのだ。すでに完成した、数体の擬巨獣もそれに続く。シュラインを吸収したビノドゥロサスも飛び立った。

 さらに、完成したものから順に、凄まじい羽音を響かせて舞い上がっていく擬巨獣群。

 その後を、黒い煙のような昆虫群が渦を巻いて追っていく。


「オオクワガタに……ゾウカブト……シロスジカミキリ……ミヤマクワガタ……スズメバチ……? あの姿にどんな意味があるんだ?」


「……分かった」


 低い声で呟いたのは、珠夢だった。


「二十年前のあの時……彼らが暴走しても、すぐには自衛隊の攻撃対象に出来なかった……そう聞いてるの」


「え!? どうして!?」


「簡単なこと。彼らはMCMOの開発した兵器……友軍だったからよ。しかも、史上初の生体兵器で、友軍のシグナルも出していないまま、画像と名称だけの登録だった。あの時、自衛隊の出撃前に、擬巨獣群は崩壊した。だからその登録は、たしか今も……」


「そうか!! 天使への攻撃は出来なくても、友軍への支援という名目なら、自衛隊は戦えるッ!!」


 それまで暗く考え込んでいた広藤の目に、ようやく闘志の炎がともった。

 その目を見つめて、珠夢も強く頷く。


「戻りましょう。横浜基地へ」



***    ***    ***    ***



『来たよ!! あれが天使化した恐竜たちみたい』


 真紅の衣をまとったマクスェル=悠が、地平線に近い一角を、その手の片刃剣で指した。

 雲の端々が金粉をまぶしたように、キラキラと光って見える。まるでそこから夜明けがやって来るようにも見えたが、方角的にも時間的にもそれはあり得なかった。


『なんて数……あれ全部が敵なのっ!?』


 巨大な丸いマスコット生物=アンゲロスにまたがったダイニエル=メイが、怯えた様子で身を震わせる。


『まだまだ序の口だね。アレたぶん、翼竜タイプだけでしょ』


 冷静に呟いた蒼い天使、ガイエル=瑚夏に、マクスェル=悠が聞き返した。


『……なんて呼ぶ? あいつらのこと』


『は? 呼び名なんて必要?』


『だってほら。『天使化した恐竜』って言いづらいじゃん』


『あんなの『天使恐竜』で充分じゃない?』


『ええっ!? それ、あんまし短くなってないし、もっとカッコイイ言い方ないかな……』


『二人とも、のんきな話してる場合じゃない。来たよ!! その天使恐竜!!』


 戦いの前であることも忘れて、妙な問答をしている二人に言い放って身構えたのは、ゆり=ゼリエルであった。

 たしかに、空の一角から広がった天使恐竜の群の展開は早い。まるで水面に金粉をまき散らしたように、もう南の空を埋め尽くそうとしていた。

 地上や海から迫る天使恐竜はまだ見えないが、それも時間の問題であるに違いない。


『あたしに任せて。空なら遠慮無しに撃てる』


 ガイエル=瑚夏は、背に負った巨大な砲身を右肩に背負うようにして空に向けた。

 砲の操作法と威力は、自然に頭に浮かんできている。

 大仰な照準器が、砲身から飛び出して瑚夏の右目に被さった。照準が視線と連動していることを確認し、もっとも空の金粉が濃く集まった部分に、十字の中心を合わせる。


『食らえ!!』


 轟音とともに、砲が火を噴いた。

 先ほどGドラゴニックと対峙したときには、ガイエルが使わなかった大型砲である。

 いざ発射してみて、瑚夏は理解した。先ほどの戦闘では、使わなかったのではない。使えなかったのだ。

 分類すれば、炸裂弾ということになるのであろうか。

 撃ち出されたエネルギー弾は、目標に達すると同時に四散した。そして、弾け出たエネルギーが、無数の奔流となって周囲を焼き尽くしていく。

 着弾点から、半径二キロ以内の『天使恐竜』は、その奔流を浴びてことごとく消滅してしまった。

 もし、先ほどの戦闘で使われていたら、Gドラゴニックはもちろん、他の六大天使もまず無事では済まなかったに違いない。


『……すっごい』


 ダイニエル=メイが思わず呟いた。

 天を塗りつぶそうとしていた金粉のような天使軍に、ぽっかりと穴が開いている。

 衝撃波が分厚い雲をも蹴散らし、丸く空いた穴からは群青色の空が見えた。

 それでも、今の一撃で墜とせたのは、ざっと見ても全体の十分の一にも満たないようだ。瑚夏=ガイエルは大型砲の角度を変え、もう一度発射態勢をとった。


『いけるよ。これなら、あたし一人でも……って……あれ? 弾が……出ない??』


 二弾目を発射しようとした瑚夏=ガイエルが、思わず間抜けな声を上げる。


『危ないッ!!』


 ゆり=ゼリエルが、両手を広げて前に出た。無数の光の矢が、別方向から浴びせられたのだ。

 立ちすくむ天使達の目の前で、光の矢は見えない壁に激突して吹き飛んだ。


『気をつけて!! 海だよ!!』


 メイ=ダイニエルが指さす。

 海中から飛び出した何本もの竜の首が、鞭のようにしなっては更に光の矢を放ってきたのだ。

 どうやら首長竜らしいが、天使の力を得たその首は、まるで黄金の盾をいくつも重ね合わせたようなもので覆われている。時折緑色のスパークを放っては、周囲の海水を沸騰させるその姿には、もはや古代生物の面影は見当たらなかった。

 さらに海面を見渡すと、次々に金色の魚竜や大ウミガメが浮上してきている。気づけば、地上からも恐竜たちが集結しつつあった。

 見上げれば、空も翼を持つ天使恐竜たちに覆われてしまっている。


『妙に静か……天使になると、鳴かないんだね……』


 瑚夏=ガイエルが、ぞっとしたように言った。

 イレギュラーとなった自分たちを抹殺する、そのためだけに群れ集まってくる奇怪な恐竜群に、少女達は恐怖を覚えていた。


『も……もうダメっ……!!』


 それまでゆり=ゼリエルが張っていた半透明の防壁が、恐竜の放つ光の矢を浴びて明滅する。もう数発も食らえば消滅するだろう。


『じゃあ、次はあたしが!!』


 悠=マクスェルが片刃剣を手に前に出た。その刃が赤く輝き始め、何かのエネルギーを発しようとした時、全員の頭に東宮の声が響いた。


(待て!! 待つんだ!! うかつに武器を使用するな!!)


『東宮さん!? どうして?』


(今、分かった。君たちの体内に開いていたゲートが、強制的に閉じられている……いや、完全に接続を断たれている)


『ゲート!? 接続!? 何のこと???』


 素っ頓狂な声を上げたのは、咲良=ティギエルだ


(天使の体は、知っての通り人間と周囲の物質を取り込んで作られている。だが、宙を舞い、熱や光、重力までも操って戦う、そのエネルギーはどこから来ているか、考えたことがあるか?)


『そ……それって、天使が元々持ってる能力じゃないの!?』


 鮮やかな黄の装甲を身につけた新しい天使、ヨッコ=ネクサセルが、驚いたように言う。


(もちろん違う。現に君たち二人……ティギエルの武器だった二人は、格好だけは天使に変型しても、何の能力も発動できないんじゃないか?)


『言われてみれば……』


 もう一人のヨッコ=ノエルが、戸惑うように自分の手を見つめて頷いた。


(俺も迂闊だった。ヤツらがこういう手に出る可能性は考えておくべきだった)


『なんとか……なんないの?』


(俺の力ではなんとも出来ない。今の君たちは、いわば電源とネット接続を切られたパソコンみたいなものだ。内蔵エネルギーが尽きてしまえばもう何も出来ない……)


『そんなこと言ってる場合じゃないよ!! ヤツらの攻撃を防がないと!!』


 悠=ダイニエルが叫ぶ。いつの間にか、地上の恐竜たちが距離を詰めてきていたのだ。ダイニエルの騎乗する丸っこい生き物=アンゲロスの口から、プラズマの炎が溢れ出した。

 炎は奔流となって、地上から迫る天使恐竜たちを包み込む。地上派アンゲロスを中心に、半円形に焼き尽くされ、木や建造物はもちろん、岩石までもが融解していった。


『あ……あれ!? どうしたの!?』


 悠=ダイニエルが、両手でアンゲロスをさする。

 思ったよりも、プラズマ火炎が持続しなかったのだ。アンゲロスはまだ口をパクパクさせ、炎を吐くジェスチャーを続けているが、その口からは何も出ていない。


『きゃあッ!?』


 ゆり=ゼリエルの張っていた防壁が、ついに光の矢に押し切られた。両腕を前に出し、辛うじて衝撃を防いだ天使達だったが、矢の当たった部分には黒い焦げ跡が染みついていく。


『いやあああああ!!』


『ウソ!? どうして!?』


 悲鳴を上げたのは、悠=ダイニエルと瑚夏=ガイエルだ。


『どうしたの!?』


 駆け寄った咲良=ティギエルに、へたりこんだ悠=ダイニエルが呆然とした様子で言う。


『消えちゃった……中にいた人たちが……五人も……』


『あたしは……七人』


 つぶやく悠=ダイニエルは放心した様子で言う。

 さっき天使恐竜へ向けて攻撃したことで、防御のためのエネルギーが足りなくなっていたのだ。

 受けたダメージは、そのまま天使の体を構成する二万人の人々に跳ね返っていた。


『どうすんのよ!? このまんまじゃ、みんな天使恐竜に殺されちゃうよ!?』


 瑚夏=ガイエルが叫ぶ。


(ここから逃げるしかない。まだ使用できる武器を使って血路を開き、一人でも多く……)


『そんな……それに、逃げるって言ってもどこへ?』


(それは……)


 東宮は口籠もった。

 天使恐竜の移動力は凄まじい。仮に、まだヤツらに襲われていない地域に逃げ込めたとしても、すぐに追いついてくるであろう。そうこうするうちに、北米大陸を襲っているナノマシンが、地上のすべてを押し包む。もはや、この地球上に逃げ場など無いのかも知れなかった。


『みんな伏せて!!』


 叫んだ咲良=ティギエルの肩を光の刃がかすめる。地面に突き刺さったその場所は、一瞬で赤熱し、液化して沸き立った。ついに上空の天使恐竜たちからも、光の刃が放たれ始めたのだ。

 もはや、ゆり=ゼリエルの防壁はほとんど役に立っていない。

 また数発の光が天使達に命中し、苦痛の悲鳴があがった。彼女達の体内で、また何人かの人々が消滅したのである。

 咲良=ティギエルが、あわてて黄金の両刃剣を振り上げ、エネルギー波を発して防いだ。だが、その光もまた急速に弱まっていく。


『これ以上は……保たない……』


 何度目かの衝撃が防壁を直撃し、二、三度明滅してから消滅した。

 諦めが、咲良の脳裏をかすめたその時。

 上空の天使恐竜が一頭、凄まじい悲鳴を上げて仰け反った。悲鳴を上げた黄金のプテラノドンは、まるで壊れたドローンのようにバランスを崩し、不自然にきりもみ回転しながら海面に落下したのだ。

 それを合図にしたように、空中だけでなく、海上、地上の天使恐竜たちも苦痛の叫びを上げてのたうち始めた。


(なんだ? あれは……)


 東宮の声を聞いて全員が振り向いた。

 北の空である。ほぼ全天を覆い尽くした天使恐竜の群が、そこだけ腐食したように、黒く変色しつつあった。


『黒い……巨獣?』


 咲良=ティギエルは呟いた。黒く変色した空を、トゲトゲした形の巨大生物が飛んでくるのが見えたからだ。


(あれは……ダイナスティス? いや、フォルムが違いすぎる……それに素早い……)


 黒い大型生物は、東宮の知るダイナスティスよりもかなりスマートに見えた。その巨獣は真っ直ぐにこちらへ向かって来つつ、行きがけの駄賃とばかりに天使恐竜を太い両腕でたたき落としていく。

 東宮は、そのような戦い方をする巨獣を見たことがなかった。


(後方にも何かいる。撃っているのはそいつらだ)


 黒い空に紛れてよく見えないが、ダイナスティス型の巨獣以外にも、大型生物の影が複数ある。どうやら、そいつらが見えない弾丸のようなものを発射し、天使恐竜たちを撃ち落としているようだ。

 そして、それらのフォルムには、東宮にも心当たりがあった。


(たしかあれは、MCMOの反乱部隊……ベン=シャンモンの作り出した擬巨獣どもだ。だが、あの大戦で一体残らず霧散したんじゃなかったのか……?)


 立ち尽くす天使達の目の前に、あのダイナスティスによく似た昆虫巨獣が、地響きを立てて着地した。

 それにつづいて、カミキリムシ、ヒラタクワガタ、オオクワガタ、ミヤマクワガタ、ゾウカブトに似た擬巨獣たちも、天使達を取り囲むように着地する。

 スズメバチとカマキリに似た二体の擬巨獣は、周囲を警戒するように飛んでいる。

 カミキリムシ型の擬巨獣が二枚の翅を広げ、背中から無数の弾丸を発射した。それが、彼らの体を構成している昆虫を撃ちだしているということを、東宮は知っていた。

 上空でまた、数匹の天使恐竜が仰け反って落下していく。やはり、この擬巨獣達が攻撃していたのだ。

 見上げると、黒い空の範囲はどんどん広がり、すでに北の空の半分を覆い尽くしてしまっていた。


『あなた達は……何者? 私たちの味方なの?』


 咲良=ティギエルの問いかけに、思いがけない答えが返ってきた。


『咲良……なんだな? お互い、こんな姿で再会しようとは思わなかった』


 答えたのは、ルカヌス――ミヤマクワガタの姿をした、擬巨獣である。

 咲良はその思念波こえを聞いた瞬間、それが誰のものであるか理解していた。


『お……お父さん……?』




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