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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第2章 海底ラボ・シートピア
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2-13 vsアルキテウティス

 明は闇の中にいた。それは、以前にも経験した闇だ。すべてを吸い込む黒い闇。


(また……死んじまったのか……オレは…………)


 自分の体すらどこにあるのかも分からないような真の闇。それでいてこの闇は、まるで質量を持っているかのように明の存在そのものを締め付けてくる。

 だがこの前と違うのは、体が異様に重いことだった。

 いや、重いのとは違う。何かに全身を縛られているような、体の動かし方を忘れてしまったようなあの感じ……。


(金縛りだ…………子供の頃は、よくあったな……)


 そうだ。こういう時は指先から動かすといいはずだ。指先さえ動けば、それをきっかけにすべての筋肉が思い通り動くようになる。


 明は右手の小指に意識を集中した。


(動く……動くぞ)


 いったん神経が繋がると手も足も動く。明はゆっくりと立ち上がってみた。


(なんだ? 俺、今までしゃがんでいたんだっけ?)


 横になっているつもりだったが、地面は足の下にあった。何故か重力をほとんど感じない。闇の中なのに立てるのも不思議だったが、このままここにいても仕方がない。

 この闇を抜け出せば、本当の死の世界へ行けるのだろう。父や母に会えるのならばそれもいい。

 闇の中を歩き出した明は、光を探した。



***    ***    ***    ***    ***



「な、ナンダあれは!?」


 カインは思わず叫んだ。

 Gが至近距離に近づいてきたため反響解析画像、エコーロケーションモニターから、視覚モニターへ切り替えた時だった。


「ほ……宝石?」


 強い外部照明に照らされてGの額に浮かび上がったのは、赤い宝石のようだと、いずもは思った。


「あんな器官は……見たことがない」


 長くGを研究してきた研究者ばかりのはずだが、そんなものを見た者は誰もいなかった。


「Gが……目を……」


 Gの目が急に鋭い反射光を放った。全員の背筋に戦慄が走る。開いたGの目に、凶悪な光が宿ったように見えたのだ。

 Gは、隙を狙うかのように周囲をゆっくりと回っているアルキテウティスに向き直り、明確に威嚇の姿勢をとった。



***    ***     ***    ***    ***



 突然明の視界に飛び込んできたのは、先ほどまで戦っていた相手、巨大イカの触手だった。


(戦闘中?…………え?……オレ、まだ死んでないの……か??)


 体の重さは先ほどと変わらない。

 なにより息苦しさがひどい上に、画面もどうやらモニター画像ではないようだ。

 だが、戦わなくてはやられてしまう。


(どう……なってるんだよ…………)


 体だけでなく頭も重い。いや、重いというよりも脳からの命令が手足に届くのに時間が掛かるような、妙な感覚だ。

 しかし、考えているヒマはない。目の前に巨大イカ=シュラインが攻撃態勢で構えているのだ。


(ま……松尾さん!?)


 明は驚愕した。

 アルキテウティスの斜め後方に、第三ブロックのドームが見え、中にいる紀久子の存在がハッキリと感じられるのだ。

 見えもしない紀久子の位置が何故分かるのか、今の状況がどういうことなのか、明にはまったく理解できない。が、しかし己のやるべきことだけはすぐに理解できた。


(この化け物イカを倒さなくちゃ、松尾さんが危ない)


 ぼんやりしていた思考が急に明瞭になった。



***    ***    ***    ***    ***



「八幡先生。聞こえますか?」


 第一ブロックの干田茂朗から通信が入った。


「干田君か!? 心配したぞ。どうして今まで連絡しなかったんだね?」


「通常回線が切断されていたんです。しかし、モニター用の光ケーブルが生きていたので、それを利用してなんとか通信を回復できました。そちらの様子は? 皆さんご無事ですか?」


「なんとか我々は大丈夫だ………だが明君が……」


「明君が?」


強化作業服パワードスーツでシュラインに立ち向かい、このラボから引き離してくれたんだ。しかし……あの巨大イカにやられた」


「何ですって!? どうして彼を一人で発進させたんです!?」


「我々の気付かないうちに、調整中のワイバーンを着装して出てしまったんだ。ちゃんと見ていなかった私のミスだ。すまない」


 そうまで言われて、これ以上八幡を責める言葉はない。明の勇気と行動力に感嘆するほか無かった。

 彼の心情は察して余りあるものがあったが、こみ上げてくるものを敢えて呑み込み、干田は言葉を継いだ。


「いえ……しかしGの復活した今、我々も決して安全ではありません。

 こちらの浮動エレベータは生きています。しかし、脱出するにはヤツらが戦っている今のうちしかない。全員シーサーペントでこちらへ逃げてきてください。我々は第一ブロックの病人を、回復した者から順に浮動エレベータで海上へ送ります」


「どうやら…………それがベストのようだな」


 これまで慎重に研究してきたつもりだったが、結局Gの復活という最悪の結果を招いてしまった。そればかりか伏見親子を亡くし、研究施設も破壊された。圧壊した第二ブロックに残っていた所員は一人も助かるまい。シュライン細胞に汚染された所員は、ヘタをすると一生隔離され続けることになる。この事態を予測しろというのは酷な話ではあるが、八幡はどうしようもない無力感を感じていた。


(もう二度と……G細胞が、平和目的で研究されることはあるまい)


 人類の進歩に携わっているプライドも、夢もあった。それがここまで打ち砕かれるとは、ほんの一月前までは考えもしなかった。

 苦い思いが込み上げてくる。

 隣で目をつぶり、大きなため息を漏らしたウィリアム教授の胸に去来するのもまた、同じ思いなのだろう。


「干田君の意見に従おう。全員、ここから退避します。いいですねウィリアム教授?」


「……ああ」



***    ***    ***    ***    ***



 明は、次第に感覚が研ぎ澄まされていくのを感じていた。

 目で確認しなくても周囲の状況が把握できる。それはGの持つ感覚機能のおかげであった。Gのサンゴ状の背びれは魚の側線にあたる機能を果たし、水流や水圧の変化を感じ取っている。

 体内電流を用いた生体レーダー器官も、動き出していた。鈍く感じていた体の感覚も秒刻みで鋭さを増してきている。十五年の時を経て蘇る生々しい生命の感覚に、Gはその体細胞すべてで歓喜の声を上げていたのだ。

 水圧と水の抵抗はあったが、Gの筋力はそれをまるで苦にしない。逆に水中であることで重力の影響から解き放たれた結果、より素早い動きも可能となっていた。


 明=Gは、アルキテウティスの触腕の攻撃を、僅かに身を沈めることで難なく避けた。

 迫ってくる長い触腕が、非常にスローに感じられる。Gは躱した自分の動きを利用して海底を蹴った。四肢を体にピタリとつけ、体全体を左右にくねらせて泳ぎ出す。

 少しでもラボから引き離したかったのだが、敵も甘くはない。長い尻尾がアルキテウティスの触腕に捕らえられた。

 八本の足が全身に絡みつき、次いで巨大な全身がのしかかってきたことで、Gは泳ぎを封じられてしまった。

 もがきながら着底した二匹の巨大生物は、その場で激しくもみ合った。

 アルキテウティス=シュラインの狙いは、Gの後頭部である。いくら復活したとはいえ、先ほどまで欠損していた場所は他よりもろいはず。そこから侵入してGの中枢神経系を乗っ取れば、一気に形勢は逆転する。

 いくら振り払ってもまとわりついてくるグニャグニャした動きに、Gの脳に次第に怒りがこみ上げてきた。

 この軟体動物は自分よりも小さいくせに、こちらを獲物あつかいしている。どちらがエサか思い知らせてやる必要がある。

 体に巻き付いた敵を引き剥がすには、有効な手段があった。レーダーとして使用している体内電流をすべて直列に繋ぎ、最大出力で流すのだ。自分にも少なからずダメージはあるが、この際問題ではない。

 Gが全身に力を込めたように見えた瞬間、巻き付いていた触手がはじけ飛び、アルキテウティスは硬直した。

 全長二百mの巨体。その背部に連なって存在する発電組織が鈍く光る。一瞬ではあったが、ワイバーンの電流とは比べものにならないほどの高電圧が、Gの体表面を流れていた。

 三たびその身に高圧電流をくらうことになったアルキテウティスは、足を数本自切した。

 自切によって中枢神経系の損傷を免れたため、動きが止まったのはほんの一瞬に過ぎなかった。だが、Gはその一瞬ですべての触手を振り払った。

 海底に足を踏ん張り、巨大な敵の目を見据える。

 イカのガラス玉のような冷たい目は、その意識を映すことはない。全身麻痺を回避したアルキテウティスは、敵わないと判断したのか痙攣の残るヒレを動かして逃げ始めた。


「これで最後の便になる。全員乗ったか?」


 八幡が副操縦士席から声をかける。

 Gとアルキテウティスの戦闘の間に、シーサーペントはすでに二回の往復を終えていた。第一ブロックに避難した所員達のほとんどが、浮動エレベータで海上へと搬送されていた。


「あ!! サン? サンはどこですか?」


 いずもの声が上がった。

 サンは周囲の喧噪に怯え、怪我をした紀久子から引き離されてから、ずっといずもの足元にしがみついていた。

 移動の際の慌ただしさに紛れて、どこかに隠れてしまったらしい。


「私、探してきます!」


 部屋を飛び出していったのは、紀久子だった。


「待ちたまえ!! 君は怪我をしているんだぞ!!」


 八幡の声が追いかけたが、既に姿は見えない。


「くそっ……仕方ない。皆、二分だけ待ってくれないか」


「バカな。実験動物一匹のために、我々が危険な目に遭ういわれはない。モニターを見ろ。いつあの戦いのとばっちりが来るか分からないんだぞ!?」


 それまで黙っていたウィリアム研究室の一人が、八幡に食ってかかった。

 言い方は乱暴だが、彼の言うことにも一理ある。もし発進の遅れのせいでシーサーペントが撃沈されるようなことがあれば、すし詰め状態で乗っている十数人すべてが死ぬことになる。


「ボクが残ろう」


 カインが名乗りを上げた。


「いいえ、それならサンのことを言い出した私が!」


 責任を感じたのか、いずもも手を挙げた。

 しかし、それをカインは両手で押しとどめた。


「キミがラボに残ッテ何の役に立ツ? それよりもMiss.松尾がいなければ、キミがシーサーペントをOperationしなくてはならないダロウ? それに、私が残るのはアノmonkeyのためデモ、Miss.松尾のためデモない。サラマンダーと、モウ一機の試作機を回収したいカラだ。」


「試作機を?」


「ソウダ。アレを破壊されたりしテハたまらナイ。とにかく先に行ッテくれ。我々はパワードスーツで、すぐソチラに向かウ」



***    ***    ***    ***



 シュライン=アルキテウティスは、海底ラボを目前にしてGに追いつかれていた。

 満身創痍となったシュラインの狙いは圧壊した第二ブロックであった。そこには先ほど凍らされ、やむなく脱ぎ捨ててきた自分の外殻がある。それを捕食すれば、体細胞バイオマスもエネルギーも補充できる。

 体格差が無くなれば、海中でイカが他の生物に後れをとるはずがない。だが、Gに掴まれてしまったのは、自切の出来ない体側のヒレだ。振り切ろうとすれば本体が引きちぎられる。それほどの力がシュラインの行動を押さえ込んでいた。


 明=Gもまた焦っていた。巨大イカに組み付いたまではよかったが、つかみ所が無く、弾力に富んだイカの体は噛み切れない。

 しかも全身のだるさが、先ほどのような電流攻撃は、もうしばらく使えそうもない事を教えている。

 海底でもつれあう二体の巨獣は、お互いに決め手を欠いたまま、消耗しつつあった。

 延々と続くかと見えた戦いの均衡は、何の前触れも無く崩れた。白い触手がGの首に巻き付いたのだ。

 全く別方向から伸びてきたそれは、先ほど電流攻撃で自切した、アルキテウティスの脚が変化したものだった。シュライン細胞は、切り離されたくらいでは死ななかった。個体として独立し、独自の判断で本体を救うべく動き出したのだ。

 クモヒトデの脚のように変化した巨大な触手は、Gの頭部に巻き付くと、意外な強さで締め上げた。視界をふさがれたGの手を、アルキテウティス本体がすり抜ける。

 海底の水流に乗ったアルキテウティス本体は、第二ブロックの瓦礫に沈んだ。

 そこには自分自身の外殻がある。低温の深海水に保持されて、いまだ凍り付いていた肉塊を、アルキテウティスはためらいなく食べ始めた。



***    ***    ***    ***



「サン! こんなところにいたの?」


 紀久子は声を上げた。

 見つからないはずだ。サンはウィリアム研究室の一番奥にある古い事務机の裏側に、器用に張り付いていたのである。


「行くのよ。はやく逃げなきゃ…………」


 紀久子がサンに手を差し伸べたその時、大きな震動が部屋全体を揺さぶった。

 不安定な姿勢だった紀久子は、サンを腕に抱えたまま、つんのめって転んだ。


「っ!!」


 一瞬、目の前で白い光が散り、その後に衝撃と激痛が走った。

 サンをかばって自分を盾にした紀久子は、目の前の事務机に額を激しくぶつけてしまったのだ。


「あ…………」


 手を当てると、大量の血が付いた。古い机の角で血管を切ってしまったらしい。床にこぼれた血はかなりの量だ。脳震盪を起こしたのだろうか、足もふらつく。

 痛み止めが切れたのか、シュラインにやられた肩の傷まで疼き始めた。彼女には、もう立ち上がる気力は残っていなかった。


「大丈夫カ!!」


 一瞬気を失っていたのだろう。

 目を開けると、ぼやけた視界の向こうで金髪の青年が叫んでいた。カインだ。カインは倒れた紀久子を、しがみついているサンごと抱きあげた。

 紀久子の怪我は酷そうだが、ここで救護しているヒマはない。

 カインは奥のスライドドアを開け、ハンガーへ向かうと手早く強化作業服の準備を始めた。エネルギーと酸素の残量をチェックし、起動を確認する。通信ケーブルを兼ねた命綱は、この際、邪魔になるので接続部から外す。

 一刻も早く、ここから脱出する必要がある。安全を多少犠牲にしてでもだ。

 この異常振動は、崩壊の前触れかも知れないのだ。


「君ハ、サラマンダーに乗レ!!」


「は………はい……」


 紀久子はカインに支えられてようやくサラマンダーを着装した。カインとの体格差で大きく空いた空間にサンが押し込められる。


「音波誘導の自動操縦にスル。キミたちは乗っているダケでイイはずダ」


 カインは、先ほど八幡が乗っていた球形の試作機に乗り込んだ。


「TAKE OFF」


 二体の強化作業服パワードスーツがシューターを作動させ、隔壁を開けた瞬間、噴き出した高圧の海水が二機を呑み込んだ。ウィリアム研究室が水没していく。

 狭い通路を何とか外部ハッチへ辿り着くと、外部ハッチは完全に破壊されていた。ハッチから顔を出すと、アルキテウティスの触手がかすめる。

 圧壊が始まった第三ブロックの震動が建物全体を揺らす。構造物の破片が周囲に落下し始めた。

 Gとアルキテウティスの勝負はまだついていない様子だ。今のうちに第一ブロックまで移動しなくてはならない。

 脱出のタイミングをはかる余裕もなく、カインと紀久子は圧壊の水圧差で、半ば強引に海中に押し出された。


「Go!!」


 カインは標準航行で進み始めた。

 ジェット推進装置は、距離が近すぎて使えない。それでも数十秒で到着するはずだったし、紀久子の乗るサラマンダーも、音波管制による自動操縦でついてくるはずだ。

 二匹の巨獣が巻き起こす激しい海水の流れに翻弄されながら、かすめていく触手を避けつつ、ようやく第一ブロックに到達したカインは、ほっとして後ろを振り向いた。


「What!? いない?」


 圧壊の轟音で、音波管制が狂ったのだ。

 意識朦朧のままの紀久子は、まったく操縦が出来ていない。命綱もないまま、サラマンダーはゆらゆらと巨大イカの目の前を漂流し始めた。


(松尾さん!!)


 明は声なき声で叫んでいた。

 自分たちの戦闘の影響で第三ブロックが圧壊していくのを見た。そこから二機の強化作業服が脱出してくるのを見た。それを着装しているのが紀久子とカインだということも、直感的に分かっていた。

 圧壊の泡に巻き込まれ、コントロールを失って漂い出した赤い塗装の強化作業服の中身が紀久子だということも『見えて』いた。

 明はまとわりつく触手を引きちぎった。皮膚に鋭い棘が食い込むが、痛みは感じない。

 体をくねらせて体勢を立て直す。紀久子を助けなくてはならない。だが巨大イカ=シュラインは、触腕で紀久子に狙いをつけ、獲物を捕らえる体勢に入っている。


(ここからじゃ……間に合わない!!)


 距離が離れすぎた。

 紀久子を守りたい。そしてシュラインを、倒す。

 そう思ったとたんに体が異様に熱くなった。背中の方からこみ上げてくるエネルギーを感じる。初めて感じるはずの感覚。しかしその感覚を自分は知っている。明は、それが敵を倒せるエネルギーだと理解していた。

 足を狙ってもダメだ。自切される。それに足は紀久子に近すぎる。狙いは巨大イカの胴体部分。その先端だ。


(くらえっ!!)


 声と共に血を吐き出したかと思った。

 のどの奥から燃えるような塊が飛び出したのだ。次の瞬間、深海の闇を切り裂いた青白い閃光は、巨大イカの胴体をつき破って背後の海底にまでとどいていた。

 閃光に触れた海水は一瞬にして蒸発し、発生した水蒸気が細かな泡となって対流する。岩盤を深くえぐった閃光は、発生した時と同じように唐突に消えた。

 閃光から遠いところにいた紀久子は無事だったようだ。激しい海水の流れに揉まれ漂いながらも、ゆっくりと海底に沈みつつある。

 胴体を半分以上失ったアルキテウティスは、ぐねぐねと体を変形させながら生き延びようとしている。だが、死んでいないのが不思議なほどの重傷だ。

 それ以上の行動をとる余裕はさすがに無い様子で、そのままゆっくりと浮上していった。

 明は海底を歩いて手を伸ばすと、着底していた紀久子のサラマンダーをそっと片手でつかんだ。

 そしてゆっくりと第一ブロックへ近づき、外部ハッチ近くへ紀久子を押しやった。外部ハッチ近くで、カインの試作機に抱えられるのを確認する。

 明はほっとため息をついた。これで紀久子は大丈夫だ。


(え?)


 その時になって、初めて明は自分のとった行動の異常さに気づいた。

 自分は片手で、人間よりも大きな強化作業服パワードスーツをつかんでいた。驚いて見つめ直した手は人間のそれではない。


(なんだこれ……俺……いったいどうなって…………)


 そこで明の意識は遠くなっていった。

 十五年間、海底に沈んでいた上に目覚めてすぐの激しい戦闘である。さしもの巨獣王Gも、体内の酸素が足りなくなっていたのだ。


「G……?」


 ゆっくりと横倒しに倒れていく巨大な影。その額に光る赤い宝石を、紀久子はスーツのモニター越しにぼんやりと見ていた。そこで紀久子の意識も深海の闇に吸い込まれていった。



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