13-2 慟哭の巨獣王
(守れ……なかった……)
Gの意識の裡で、明は漂っていた。
膝を抱え、座り込んで、立ち上がる気力すらない。
(俺が……死なせた。俺が……救えなかったから……)
激しい悔恨の念。
何もかもが悔やまれ、何もかもが憎かった。
紀久子が肯定してくれる以上、何も怖くない、自分は生きる。そう誓った直後に奪われた希望……紀久子という存在。そして、続けざまに失われたまどかの命。
(もう生きている意味も、死ぬ意味すらない)
そう思えた。どうしようもなく心が折れていた。
目の前に起きていること、それを認識していないわけではない。
放射熱線で何度焼き払っても、恐るべき早さで再生する樹木の壁。その奥から次々に現れる昆虫の群れと、それが組み合わさって作り出される擬巨獣群。
これまで見られた形のものだけではない。初めて見るカメムシやコガネムシ、ハサミムシ、クモやコウガイビル、ミミズに似た擬巨獣もいた。昆虫だけでなく、あらゆる生物が自分を否定し、滅するために襲ってきているかのような錯覚を覚える。
だが、相手が何であろうと、どういうつもりだろうと、自分にはどうでもよかった。動いていれば、戦ってさえいれば、その間だけは、何も考えないでいられるから。
牙で食い千切り、腕で引き千切り、脚で踏みつぶす。
全身に群がる昆虫を、放電して焼き殺す。
擬巨獣どもが怯んだ瞬間、緑の壁に向かって吐き出された放射熱線は、数キロ先まで放射状にクェルクスを焼き尽くした。
リミッターは完全に外れていた。
ベン=シャンモンが機械的に操ることで外してしまったリミッター。
だが、それすらも凌ぐほどのパワーでGは奮戦していた。どれほど必死に戦っていたつもりでも、どこかで明は、Gの力に制限を掛けていた。それが、人間としての意識の最後の砦でもあったはずだった。
だが、もうそんな配慮をする必要はないのだ。
Gの腕の一振りで、巨大昆虫の体が紙屑のように千切れ飛び、フルパワーの放射熱線は、一度に数体を屠った。
怒り。
悲しみ。
それ以外の感情はすべてどこかに押し流されてしまったようだ。
怒りの対象すら、悲しみの理由すらも思い浮かべられないほど、心が痛い。
常人であれば精神に異常を来すほどの絶望の渦中にあって、それでもG細胞に共生している微生物・メタボルバキアは、明が狂気に陥ることを許してはくれなかった。
時折、小さな反撃を受けた時に感じる痛み。
それだけが、少しずつ明の心を癒していく。
だが、そのたびにGの心とシンクロしていく自分を感じていた。
(そうか……だからGは戦っていたんだ。だから……死ねなかったんだ)
ずっと求めていたもの。
数千万年の孤独の中で求めていたのは、死ではなかった。
戦いでもなかった。
遠い過去に失った、普通の生。
共生微生物・メタボルバキアに偶然選ばれ、Gはほとんど不死の体を手に入れた。
その時から失ってしまった、まともな生物としての生。
長い、長い、孤独。
死どころか、狂気すら許されない、孤独。
それを癒してくれるのは、戦いの痛みだけだったのだ。
積み重なる仲間の屍体の山を踏み越えて、さらに数を増やし、迫り来る擬巨獣群。
明はGと一つになって吼えた。
人としての心が、次第に掻き消されていくのを、それと同時に心の痛みが薄れていくのを、歓喜と、恐怖と、孤独の中で感じていた。