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巨獣黙示録 G  作者: はくたく
第12章 七千万年の孤独
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12-6 VSデルモケリス

 シュライン=デルモケリスは戦慄した。

 真っ直ぐこちらに突っ込んでくる、巨大な影。上半身を覆っているのは、ネジで止められたあの銀色の装甲だ。

 体を前に倒し、凄まじい勢いで走ってくるG。

 あの勢いを止められるモノはこの地上にはない。回避行動をとらなくては、バシリスクの時のように、体当たりだけで吹き飛ばされてしまうだろう。

 

“く……くそッ!!”


 背甲を覆った、メタリックグリーンの翼を広げ、その下の半透明のはねを震わせながらデルモケリスがジャンプする。

 その足元を抜けて、勢い余ったGが海へと突っ込んだ。

 氷塊を巻き込んだ巨大な水飛沫が上がり、Gの姿を覆い隠す。と、次の瞬間、水柱を切り裂いて、蒼白い閃光が走った。水中からまたGが放射熱線を発射したのだ。

 正面からまともに食らったデルモケリスは、もんどり打って倒れた。

 小林が歓声を上げる。


「やったぜ高千穂さん!! 圧倒的じゃねえか。でもなんでGが? あんなに呼び掛けても反応しなかったのによ!?」


「Gもまた生体電磁波の発振と、増幅能力を持ってる。本来、シュラインはGのその力を手に入れようとしてたんだろ?」


「あ……ああ。そう聞いてる」


「じゃあ、紀久子の発した、シュラインを苦しめるほどの生体電磁波を、Gが受信しないわけがない……」


「だったら、Gもシュラインみたいに苦しめちまったんじゃ……」

 

「……分からん。だが、紀久子が言っていただろう? 『思いを伝えた』って。もともと苦しめるために発していた思念波じゃないんだ。シュラインが苦しんだのはヤツ自身の行動の矛盾に気付かされたからじゃないか?」


「矛盾?」


「ヤツが望んでいたのは、自分を愛してくれる者だった。だが、すべてを取り込み、支配下に置いても、それは自分自身でしかない。つまりどこまで行っても一人……誰も愛してなどくれない。孤独は終わらないんだ。そのことに気付かされてしまったんだろう……」


 海に上半身を見せたGは、わずかに前傾した姿勢でデルモケリスを睨み据える。

 ゆっくりと立ち上がるデルモケリス。

 必殺の放射熱線を二度も食らったはず。だが、昆虫装甲に覆われたその体表には、ほんの僅かの損傷すら見当たらない。


“正義の味方にでもなったつもりかな? だけど僕は、おまえのようなヤツが一番許せないんだ”


 静かな。しかし、燃えるように熱い思考が、それを感知した全員の意識を焼く。


“伏見明……いや、もうGって呼んだ方がいいよね? お前も僕と同じだ。求めるだけで、何も与えようとはせず、孤独を訴えるだけで、自分を省みようともせず……お前と僕との違いは、哀れんでくれる者がいたかどうか、それだけだ”


 Gの顔が歪む。鼻にしわを寄せ、口元を釣り上げ、牙を剥きだし、獣の瞳でシュライン=デルモケリスを睨む。


“あはははは!! 図星だよね? 紀久子がそんなに大事か? 思いやってくれる人を求めていただけだろう!? おまえは結局、自分が救われることだけを求めていたんだ!! ……お前が正義でなんかあるものか!!”


 何の前触れもなくGの背びれが輝き、放射熱線が発射された。

 慌てて首をすくめ、防御姿勢をとったデルモケリスを、海から駆け上がったGの体当たりが後方へ吹き飛ばす。

 崩れ残ったビルが、デルモケリスの巨体で粉々に砕け散り、周囲にはもうもうと埃が立ち上った。

 エネルギーの溜めが無かったためか、放射熱線の光の束はいつもより弱く見えたが、目を眩ませるには充分だったようだ。


“バカが!! これでも食らえ!!”


 ふいに、デルモケリスの体表面、メタリックに輝く昆虫群が弾けた。

 Gの体表面で軽い金属音が起き、海面に水飛沫が上がる。周囲に何かが飛び散ったのだ。大阪湾でまどかを襲った、昆虫装甲を構成する虫による生体弾。それがGのまとった装甲に弾かれたのである。

 トリロバイトの特殊鋼板とセラミックの複層装甲をも、いとも簡単に貫いた生体弾の貫通力は、リニアキャノンにも匹敵するはずだ。

 だが、ベン=シャンモンがGに取り付けた銀色の装甲は、それを弾いて見せた。

 本来、世界を敵に回して戦う気だった以上、考え得るあらゆる兵器を、無効化する強度と機能を備えているのであろう。

 側頭部から首、胸に掛けて皮膚を覆い、手首から両腕もガントレットのように守っている上に、肘からの突起が関節部も覆い尽くしているため、上体正面にはほとんど死角がない。


“へえ? 効かないか……じゃあ、これならどうだ!!”


 シュラインの思考波と同時に、周囲の廃墟から黒雲が沸き立った。


『新堂少尉!! 何だよアレ!?』


 小林が狼狽えた声を出す。


『分析するまでもないでしょ!! アイツ、フェロモンで昆虫群を操ってるんだよ!!』


 沸き立った黒雲は、空中に墨を流したように漂い、Gの体表にまとわりついていく。

 それと同時にGは、手で払いのける仕草を始めた。目や口、鼻など、あらゆる穴がふさがれていく。

 これまでとは比べものにならない数の昆虫だ。明治神宮で擬巨獣・ダイナスティスが現出した時よりも更に、虫の作り出す黒雲は濃く、大きい。体表を覆い尽くす虫達に、さすがのGも身動きが取れずによろめいた。


『明!! 海中だ!! 虫は海に潜れない!!』


 小林のアドバイスが聞こえたのか、Gは倒れ込むように海中へと逃げ込んだ。

 しかし、そこを狙い澄ましたように連続して爆発が起きる。

 爆発の水柱は絶えることなく、慌てて立ち上がったGの上半身にまで、その爆発は及んだ。そうなって初めて、それが生体ミサイルと化した大型のイカによる爆発だと分かった。

 体液を液体爆薬に変えられたイカは、次々とGに襲いかかり、体勢を整えるヒマも与えない。

 右肩を覆っていた銀の装甲が吹き飛び、ついにGが膝をついた。

 爆発の威力はさほどではない。だが、シュラインの思考波を受けて飛翔するイカは、ヒレを使って空中で方向を変え、的確にGの目や装甲の接続部、関節の裏側などに命中していく。

 爆撃は止まらない。

 一瞬の間も置かずに、海面に飛び出す大型のイカの群れ。

 爆発による白煙で、次第にGの姿が見えなくなっていく。イカは本来、自然界でも個体数の多い生き物だ。ほぼ無数といっていい数のイカが、シュラインによって改造され、周辺海域から集まってきているのであろう。

 Gはもう手も足も出せない、と見たのか、デルモケリスはG-REXへと向き直った。


“紀久子……出てこい……そんなところに隠れているんじゃない……”


 シュラインの思考波が、強い命令となって全員の脳に響く。

 シュライン細胞の汚染を受けていない小林やアスカでさえ、思わず従ってしまいたくなるような威圧。だが、いまだ意識を取り戻していないのか、紀久子の反応はない。


『ふざけんじゃねえ!! お前なんかに誰が松尾さんを渡すかよッ!!』


 小林が叫ぶと同時に、両肩の主砲が火を噴く。

 だが、爆炎が消え去った後、デルモケリスの艶やかな体表面には、やはり何の痕も残っていない。


『クソッ!! どうなってやがる!!』


『効かなくても構わない、斉射だ!! 使える火器をすべてヤツに!!』


『狙いは頭だ!! 一点集中で撃つんだよッ!! 』


 小林と守里、アスカの通信が交錯する。

 次の瞬間、G-REXは火を噴く要塞と化し、すべての火線がデルモケリスへと吸い込まれた。


“人間は……まことに度し難いな。一度ダメだったことを何度も……”


 爆炎で姿も見えない状態で、響いたシュラインの思考波は冷ややかだった。


『効かねえってのか』


「キュゴオオオォォォンンンンン!!」


 膝をついたままのGが吼え、その体が一瞬、蒼白く輝いた。

 放射熱線を吐く時よりも、その輝きは強い。昼間だというのに、周囲を照らすほどの光。

 そして、海面に次々と白いものが浮かび始めた。Gが生体電流を放射したのだ。

 生体ミサイルであるイカだけでなく、海中のほとんどの生物がそのショックで浮かび上がってきているようだ。

 Gは大きく頭を振ると、再び立ち上がり、デルモケリスの肩口にに食らいついた。


“邪魔するなG……僕は……その女を!! その女を!!”


 シュラインの思考波が嵐のように吹き荒れ、Gは電撃に撃たれたように食らいついた顎を放して後退る。

 次の瞬間。デルモケリスの喉元が赤く発光し、大きく開かれた口から蒼白い球体が飛び出した。

 球体は真っ直ぐ飛び、吸い込まれるようにGの胸に接触した。球体は消滅すると同時に、周囲にエネルギーを撒き散らした。熱と衝撃波が港の周囲に残った建物を粉々に砕いていく。

 胸部を覆う装甲が火花を散らして破壊され、その反動でGの巨体が後方に弾け飛んだ。


『クソッ!! これがさっきシュラインが言ってた、球電ボールライトニングとかって攻撃か!!』


 アスカのフェイロングスから送られてくる、コンピュータの解析結果を見て、小林が叫ぶ。

 プラズマ化するほどの超高電圧と、それを一箇所に滞留させる不明物質の微粒子。どうやらそれがこの球電ボールライトニングの原理のようであった。


『要するに、加速されてない荷電粒子砲みたいなもんだね。このままじゃGが不利だ!! 援護するよ!! 攻撃準備!!』


『了解!!』


 紀久子はいまだ気を失ったままだ。アスカは主導機の優先権をトリロバイトⅡからフェイロングスに移した。これで、アスカがG-REXの四肢を操れる。

 だがその分、情報収集や分析機能が大きく損なわれることになるのは仕方がない。

 小林が間髪入れずに主砲を発射した。

 さすがに慣れてきたこともあるだろうが、至近距離からの砲撃はすべて狙い通り、固い甲羅を避けて頭部や手足にヒットしていく。

 だが、やはりデルモケリスの動きに変化は見られない。

 一点集中の砲撃で、昆虫装甲の表面が、わずかに剥がれ落ちたように見える程度である。さらに数秒のタイムラグで、守里が発射したリニアキャノンも、空しく後方へと弾かれた。


『ちくしょうッ!! G-REXの武器は何も効かねえってのか!?』


『でも、やらないよりはマシさ!! このまま、Gが回復するまで攻撃を!!』


 主砲、重機銃、ライジングブラスターが火を噴いた。

 鋼線を網状に放つワイヤーキャノンが手足を絡め取り、デルモケリスは身動きが取れなくなってもがく。


『Gが立つよ!!』


 アスカが叫ぶ。

 足元をふらつかせながら、ゆらりとGが立ち上がった。


『おい!! 明!! 聞こえねえのか!! 返事しろ!! おまえもシュラインみたいに生体電磁波、使えるんじゃないのかよ!?』


 小林が必死で呼び掛けるが、球電ボールライトニングのショックが抜けていないのか、Gは反応を示さない。

 だが、そのままゆっくり歩き出し、G-REXを庇うようにデルモケリスの前に立ちふさがった。ほとんど本能に近いのであろうか、戦闘姿勢を崩す様子もない。

 その気迫に圧倒されたのか、デルモケリスも球電を吐こうとはせず、立ちつくした。

 膠着状態に陥るか、と見えたその時。デルモケリスがその体表を覆う昆虫装甲インセクトアーマーを変化させ始めた。

 右腕の先端に集中した昆虫の群れ。それによって、手首から先だけが異様に太く、長くなっていく。虹色に輝くそれは、禍々しく巨大な剣に見えた。

 キィンというような耳鳴りと共に、その剣の周囲がぼやけたのを見て、小林が叫んだ。


『危ねえ!! 高周波ブレードだ!! 避けろ明!!』


 しかし、Gは避けなかった。

 逆に一歩前に進み出て、持ち上げた左腕で刃を受ける。高周波特有の振動音が耳をつんざき、Gの真っ赤な血が飛び散った。

 左腕の装甲ガントレットがあっさりと両断され、地に落ちた。これまでの高周波刃とは桁違いの切れ味だ。

 しかしGの動きは止まらない。

 骨にまで達してようやく止まった刃。

 深々と肉に切り込まれたその刃を、Gはそのまま抱え込むようにして体を捻り、デルモケリスの体を大地に叩き付けた。


“ぐ……は……”


 シュラインが思考波で呻く。高周波ソードがへし折れ、右腕が妙な方向へ折れ曲がった。

 さらに襲いかかろうとするGに、デルモケリスは背中を向け、首と手足をすくめた。

 ほとんど甲羅しか見えない状態になれば、デルモケリスに物理衝撃はほとんど効かない。

 しかし、Gはそのまま息を吸い込むと甲羅に向けて放射熱線を発射した。

 放射熱線は重粒子の奔流だ。だが荷電粒子砲とは違い、対象物を消滅させるほどの加速がされているわけではない。それでも、プラズマ化した重粒子の熱は、昆虫装甲の大半を引き剥がしていく。

 一箇所に集中して放射され続ける熱。蒼白い炎が、リニアキャノンすら弾き返した甲羅を焼き続ける。甲羅の色が変わり、デルモケリスの口から苦痛の声が上がるが、それでも熱線の放射は止まらない。


“い……いい加減に……”


 Gへ向き直ろうとしたデルモケリスの背中に、今度はGの右腕が叩き付けられた。

 熱せられ、脆くなっていた甲羅が砕け、血飛沫が舞う。

 擬巨獣であるデルモケリスの細胞組織は、正確には集合した海生生物の群れのはずだが、それでもそれを操るシュラインは苦痛を感じているらしく、悲鳴を発した。

 そして、苦しげに手足をばたつかせながら海中へ逃げ込んだ。

 海水で冷やされ、周囲に蒸気が立ちこめる。

 昆虫装甲が剥がされ、ダメージを受けた部分には、中から元の皮膚組織や内部組織が顔を出している。そこへ黒い霧のように、昆虫が再び集まり出した。

 昆虫装甲はこれほどの傷であっても、すぐに修復してしまうのであろう。

 だが、Gは修復寸前と見えたデルモケリスの首筋に噛み付いた。

 今度は思念波で叫ぶ余裕もない。巨獣の口から軋むような悲鳴を発し、手足を振り回してもがくが、Gは首を揺すぶって更に深く牙を食い込ませていく。

 その様は、まさしく獣の闘争であった。

 サンとカイはもとより、G-REXですらその間全く手を出せず、様子を見ているしかなかった。呆然としていた小林が、ようやく声を出した。


『明!! おい!! 明!! 一人で戦うんじゃねえ!! どうしちまったんだよ!?』


『よしな。小林君』


『な……なんでだよ!?』


 アスカの言葉に、小林は不満そうに鼻を鳴らした。


『人であることを思い出したら……あんな戦い方は出来ない。敢えて思考を止めているのか、それとも出来ないのかは分からないけど……あれは、人の戦い方じゃない』


 たしかにそうかも知れなかった。

 Gの戦闘経験、その動きのままに明は身を任せているように、小林にも思えた。巨獣王の異名を持つGの戦い方は、賢しいシュラインの作戦を、悉く力で打ち破り、圧倒していく。

 だが、それは同時に、明が人間でなくなっていくことのように思えて、小林は悔しかった。

 荒れ狂うGの前に、デルモケリスは力尽き、手足をひくつかせ始めた。

 その時。


『おい……主砲の安全装置セーフティが解除されたぞ? コンデンサへの充電が始まった!?』


『ミサイルも……重機銃も動かない。これは……主導機(トリロバイトⅡ)が動かしてるの!? 松尾さんあんた……何をする気だい!?』


 アスカは通信機に向かって叫んだ。

 だが、紀久子からの応答はなかった。G-REXは機体の向きを変えると、Gに、その照準を向けている。


『松尾さん!? まさかあんた、シュラインに操られて!? 雨野少尉!! サンとカイに止めさせて!!』


 サンとカイが、G-REXを両脇から抱え、押さえ込もうとするが、まるで歯が立たない。パワーと重量が違いすぎるのだ。


『やめるんだ紀久子!! Gを殺せば、明君も死ぬんだぞ!!』


『やめて!!』


 だが、叫びも空しくG-REXの二門の主砲が火を噴き、Gの側頭部を直撃した。

 衝撃は上半身の装甲が防いだとはいえ、不意を打たれたGは、ひとたまりもなく横倒しになり、地響きを立てた。


『しっかりして!! 明君!! G!!』


 轟音と爆炎が収まらぬ中、アスカ達の耳朶を打ったのは、紀久子の涙声だった。


『あなたの声……聞こえたわけじゃないよ。けど、私には分かる。一度はあなたと、明君と、私、三人で一つになったこともあるんだから。必要とされているのは明君だけ。自分は誰にも必要とされてない。だから生きていくのも、戦うのもイヤになった。そうじゃないの!?』


『な……何を言ってるんだ? 松尾さん? 誰に話してる……?』


 声を発したのは小林だった。通信を聞く全員が同じ疑問を抱いていた。


『あなたは、愛されないから死ぬの? 愛されないから何もしないの? 愛されないから破壊するの? 愛されないからそうやって、怒りにまかせて戦うの? どうして、自分が何を愛していたのか、何を愛しているのか、そのために何をしたいか、何をすべきか、考えないの!?』


『ま……待てよ松尾さん。Gは……明は、ちゃんと戦ってるじゃねえか?』


 だが、小林の言葉を無視して、紀久子は叫んだ。


『生きて!! 誰も望まなくても、私があなたを肯定する!! あなたの生きてきた時間を!! あなたには還りたい場所が……あるんでしょう……!?』


 通信の後半は嗚咽に変わっていく。だが、その言葉の意味を、涙の意味を、アスカも、小林も、守里も、そしてそれを傍受していた樋潟達も、半分も理解できないでいた。


“松尾さん……ありがとう”


 全員の脳に直接響いたその声は、伏見明の思考だった。


“あなたの言う通り、僕は……いや、Gは目覚めを拒否していた。そして、あなたを再び汚された、その怒りのままに戦っていた……でも、ようやく今、理解しました。シュラインの言ったことも、今なら分かる。僕も、Gも。誰かに愛されるためでなく、愛してくれる者のためでもなく、自分が愛しているもののために、もう一度……戦います。いえ、生きてみます”


 満身創痍のシュライン=デルモケリスから離れたGは、戦闘姿勢を崩さないまま、軽く唸る。

 メタリックに輝く巨大ガメ=デルモケリスは、その部分だけ装甲に覆われていない目を重たそうに開けると、静かな思念波こえで言った。


“何で……とどめを刺さない……?”


“その必要がないからだ。逆に聞きたい……何故、本気を出さない? 何故、Gに殺されようとする? 本来のお前はもっと強いはずだ”


“僕は本気だ。本気で戦って……負けたんだ。おまえにじゃない……紀久子にな”


“シュライン……おまえ……?”


“紀久子が僕のために、思いをぶつけて来てくれた時、もう、すべての生命の意思を統合するとか、崇高な理想とか……そんなものはどうでもよくなっちまってたんだ。ママのことも……今なら許せる”


“じゃあ、もう、手を引いてくれるのか?”


“ああ……だけど、僕は意志を分割してしまった。僕はもはやひとつじゃ――”


『あぶない!!』


 紀久子の声と同時に、突然、G―REXが動いた。

 緑色の光が走り、G-REXの頭部を貫く。

 砕け散った頭部装甲――トリロバイトⅡのキャノピーだったもの――が、海中へと散らばった。


“松尾さん!!”


 明=Gは見た。

 目の前で起きた惨劇。コクピットから放り出された紀久子が、木の葉のように風に舞い、数十m下の海へと落下していく様を。

 紀久子を呑み込んだ海に、次々と落下していく重装甲の破片。助かるはずはない高さと、状況。

 どれだけ必死で超感覚を凝らしても、沸き立つ海面に紀久子の姿は見えなかった。

 G-REXは……紀久子は、Gとシュラインを庇い、荷電粒子砲に撃たれたのだ。


「―――――――――――――ッ!!」


 甲高い悲鳴。

 可聴域ギリギリの。その聞いたこともないような、悲鳴を発していたのは、シュライン=デルモケリスだった。


“よくも……よくもママを……ママになってくれたかも知れない人をッ!!”


 怒りの思考をあたり構わず撒き散らしながら、デルモケリスが飛び立つ。

 あまりのことに、呆然と佇むGを残して。



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