表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

コスモス 1


「先生、ここのコスモスってすごくおっきいですよね」

「そうだね。その一本なんかは夏に咲いたヒマワリより大きいんじゃないかな。みんな同じなのによくここまで伸びたもんだ」

 

 ぼくも大きくなりたい。強くなりたい。でも、いやだ。


「これだけ葉っぱがちょっとしかないし、くきも木の枝みたい」


 ちょっと前におじいちゃんから教わった。木はみきが、花はくきが、葉っぱや花を支えてるって。だけど、このコスモスのくきは苦しそうな斜め。

 大きくなりたい。強くなりたい。けどこのコスモスのようになりたくない。


「先生。ぼく、剣道やめたくないです」


 毎週この道場にきて慣れてきたけれど、どうしても慣れないこと。ずっと先生に注意されてきた。どうしても直せないけど、強くなりたいから。やめたくない。


「ん。じゃ、これからは相手をしっかり痛めつけなさい」

「やめたくないけど、打つのもいやです」


 強くなりないけど、強くなりたくない。いつもそこで迷って、すっごく考える。

 それでいつも頭が痛くなって、途中で考えるのを止めちゃう。


「ワガママだな。君が道場に通う理由だろうが。同じクラスの子と喧嘩したいんだろ?」


 あれ? 先生に話したことあったけ? でもアイツとケンカしたいなんて考えたことない。


「ケンカはきらいです。痛いし、こわいからやだ」


 アイツのやってること止めたくて、なんとかしたくて。でも友達がぶたれても、怖くて止めに行けなくて。

 すごくどうしようもない自分がきらい。強くなって、アイツがすること止めたい。

 

 でもなぐるのいやだ。痛いって分かるから。


「もしかして、一方的に攻撃することを喧嘩って思ってるか?」

「? 人をなぐったり、けったりってケンカじゃないんですか?」

「う~ん。そっか、今の子たちって上品なんだな。十数年くらい前の、先生の小学時代は掴み合いとか取っ組みあいとか、よくしたけど」


 女の子だって男の子相手に、組み合ってたのになあ。髪の毛引っ掴んだり。噛みついたり、股間狙ったり。

 なんだか小さい声で聞きにくかったけど、すごいこと聞いた。


「先生もかみのけ引っぱったの?」

「先生はしなかった。相手の手が上にあるってことは、隙だらけの所は他にたくさんできるから。喧嘩をするときは剣道と同じ。相手に隙を見せちゃいけないぞ」


 ケンカって、すごく怖い。


「話が脱線したな。まあそういう風に、殴りあうとか、蹴りあうとか、引っ張り合う、掴みあうって、相手とやりあうのが喧嘩ってもんだよ。一方的に相手を殴るってのはただの暴力という」


 暴力。あいつのやってることは、わるいことなんだ。

 やっぱり止めてやらなくちゃ。でも、どうすればいい。

 頭の中でいつものようにグルグル回りそうになってると、先生が「フム」ってうなった。


「そのガキ大将もつまらないんじゃないか? 拮抗する相手がいないって、本当に退屈なことだから」


 先生は大きなコスモスを見た。ぼくも見る。

 一番大きなコスモスが、仲間外れになったのが悲しくて、頭を垂れているように見えた。大きいけど、そのせいでのけ者にされて。


「先生も喧嘩相手が消えたとき、相当暴れたもんだよ。族入りなんかはしなかったけど」


 ゾクイリって何? って先生に聞こうとして振り返ると、ニコッてきれいに笑った。


「今はそのかわりに、君のような生徒をしごくのさ。ということで、そのガキ大将と相手取れるくらい強くしてやる。これからは週二じゃなく、毎日来い。より鍛えてやろう」

「い、いやです。先生のけいこ、きびしいんだもん!」


 急に先生が楽しそうに笑ったと思ったら!

 先生と打つのみんなと違ってすっごく怖いし痛い。先生は師範の一つ下の師範代で、教えてくれる先生の中で一番若くて強くてきびしい。ぼう具つけてるのに、打たれたところが青くなったり、はれたりして。う~、いや。ぜったい、いや!


「打つのが嫌って言う割に、先生が相手だと少しは打ってくるのはなぜだろうな?」


 それは打たないとあとで先生が・・・・・・あうあう。


「防具をつけて竹刀を構えあう。お互いに打ち合うというのを覚悟しているのだから、逃げる一方、防ぐ一方というのは、かなり失礼なことだって何回も言っていることだろうが。防御に徹するだけじゃ、いつまでも喧嘩できないし、ガキ大将は打ちとれないぞ! ほら、休憩と説教はこれで終わり。とっとと道場へ戻って、素振りしてこい。あとで稽古付けてやる」


 うわ~ん。道場通うのやっぱりやめようかな。でもそれだとこんどはここに入れてくれた、いとこのお姉ちゃんに怒られるかも。あううう、せめてお姉ちゃんには毎日通いってことばれませんように。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ