第142話:ただの洗濯機清掃と、暴食の渦潮海魔の強制巨大ランドリー化(総合ライフサポート企業の洗濯設備メンテナンス業務)
第142話:ただの洗濯機清掃と、暴食の渦潮海魔の強制巨大ランドリー化(総合ライフサポート企業の洗濯設備メンテナンス業務)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂の奥底から理性を吹き飛ばすような極上のサフランの香り、そして魚介の濃厚な出汁が焦げる暴力的なまでの香ばしさと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの特大パエリアパン(平底鍋)に向かい、見事な手際と火加減で『特製・幻獣海鮮と天界鶏の極上黄金パエリア〜星屑の特濃アイオリソース添え〜と、世界樹の彩りガスパチョ』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の清冽な海で獲れた特大の幻獣海老、肉厚な天界イカ、そして旨味が限界突破している星屑のムール貝を惜しげもなく使った黄金のパエリアだ。まずは天界鶏のモモ肉と幻獣の玉ねぎ、トマトを神仙のオリーブオイルでじっくりと炒め、旨味のベースを作る。そこに、世界樹の森で採れた最高級のサフランで黄金色に染め上げた幻獣魚介の特濃スープをなみなみと注ぎ込み、洗わずにそのままの神仙米を投入する! 米の一粒一粒に魚介と鶏の旨味を極限まで吸い込ませながら、強火から弱火へと絶妙な火加減で炊き上げるんだ。水分が飛んだら、最後に一気に強火にして、鍋底に極上の『おこげ(ソカレ)』を作る! このおこげこそがパエリアの命だからな。付け合わせには、世界樹の完熟トマトやキュウリ、パプリカを滑らかになるまでミキサーにかけ、キンキンに冷やした爽やかな酸味のガスパチョスープ! 仕上げに、星屑のニンニクを効かせた特製アイオリソース(マヨネーズ風ソース)を添えて……熱々のうちに完成だ!」
アルドがエプロン姿で、黄金色に輝く米の上に山盛りの魚介が乗った特大パエリアパンと、色鮮やかな冷製スープをダイニングテーブルに運ぶと、その暴力的なまでの海鮮とニンニクの香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上パエリア朝食、一口食べれば幻獣海鮮の極上のタウリンと天界鶏のタンパク質が全身の魔力回路を限界突破させ、ガスパチョの圧倒的なビタミンとリコピンが血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と絶対的な活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・地中海フルコース』である。
「うむ……! この黄金の米を噛み締めた瞬間に口内で爆発する圧倒的な魚介の旨味と、鍋底のカリッカリのおこげが織りなす食感のビッグバン! そしてアイオリソースのコクがもたらす無限の食欲ループ! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、休日の昼下がりに海辺のテラス席でワイングラスを傾ける陽気な美食家のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、木のスプーンを両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上レモンティーが振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。数々の偉業を経て、今や世界のインフラの裏側を完全に牛耳る巨大企業として、彼らの顔つきには揺るぎない自信と誇りが満ちていた。
「さて、みんな。南の火山の換気扇・煙突掃除(爆煙魔神のクリーン焼却炉化)も終わって、世界中の空気がすっかり綺麗になったね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸南方の海域、『死の渦潮海峡』における、極めて深刻な海流の乱れと悪臭ヘドロ被害に関するご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「南方の海深く、長年封印されていた『暴食の渦潮海魔・ヴォルテックス・クラーケン』が目覚めまして。強烈な猛毒の墨とドロドロのヘドロを海中に撒き散らし、巨大な渦潮を発生させて行き交う船を全て呑み込もうとしております。さらにタチの悪いことに、その海魔が生み出す『汚泥の触手獣ども(※触れるものを腐食させる猛毒のスライム群)』が海峡から溢れ出し、人々の港に雪崩れ込んでは、海を真っ黒に汚染し、全てを悪臭の渦に沈めようと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(暴食の渦潮海魔だと……!? あれは世界の海流を全て致死の猛毒渦に変え、星を生命が生きられない永遠の泥海へと変貌させる神話級の海魔。それが覚醒したとなれば、南方諸国はおろか、世界の全大陸が巨大な渦潮に呑み込まれて海の藻屑となる。本来なら全国家の海洋魔導士と水竜騎士団を総動員して命がけの超極大海流鎮静・浄化結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「近隣の国々からの要望は、この鬱陶しい洗濯槽にこびりついたガンコな黒カビや水垢(触手獣群)の『徹底的な洗濯槽クリーニング(粉砕と漂白)』と『水流の乱れの原因である回転羽の親玉(渦潮海魔)の洗浄』、そして『糸くずフィルターの交換と排水設備の改善』です。このまま放置すれば、洗濯物に黒いワカメのようなゴミがこびりつくばかりか、悪臭で人々が清潔な服を着られなくなってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「長年掃除してない洗濯機の裏側に、石鹸カスや黒カビがびっしり生えちゃって、糸くずフィルターもパンパンに詰まっちゃってるんだね! おまけにそのせいで洗濯槽の水流が乱れて、服に嫌な臭いとゴミが逆流してるなんて、せっかく洗った服が台無しになるし大問題だ。毎日清潔でいい匂いの服を着るためにも、洗濯槽の徹底洗浄とメンテナンスは定期的にやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。洗濯槽にへばりつく鬱陶しい黒カビの塊(触手獣ども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。こびりついた汚れを一つ残さず綺麗に削り落として、ただの汚水以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧を大型の清掃用ブラシのように構えながら不敵に笑う。
「ええ。黒カビが撒き散らすガンコな悪臭や濁り(※致死の猛毒墨と瘴気)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の強力洗濯槽クリーナー(※極大の聖水浄化魔法)で一瞬にして分解し、真っ白に漂白して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、削り落としたカビや汚水の飛沫(※魔獣の残党)が周囲の床へ飛散しないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な防水パンと飛散防止シート(※絶対封殺の空間隔離結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 洗濯機のお掃除は水が溢れると床が水浸しになるから、しっかり防水パンとシートで養生してくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(猛毒の墨と酸を完全に弾く特製防水エプロンと長靴、ゴム手袋)に着替え、手には巨大な柄のついた洗濯槽ブラシと、強力な漂白剤のボトルを握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象洗浄の神仙洗濯槽ブラシ』と『絶対漂白の魔導クリーナー』を持っていくよ! 世界の人たちの清潔な衣服を守るために、邪魔な黒カビと水垢を落として、洗濯機をピカピカにリフォームしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、水回り設備メンテナンス仕様(水陸両用型)に改造された魔導軽トラに乗り込み、海がドス黒い猛毒に覆われつつある大陸南方の『死の渦潮海峡』へと向けて出勤したのである。
***
その頃、大陸南方の『死の渦潮海峡』の中心。
世界の海を猛毒の泥で満たし、全ての生命を絶望の渦に沈める海の悪夢『暴食の渦潮海魔・ヴォルテックス・クラーケン』が、巨大な触手で海をかき混ぜながら、傲慢な咆哮を響かせていた。
「ギュオオォォォッ……! 素晴らしいぞ! この星の綺麗な海を全て汚染する我が猛毒の渦さえあれば、地上の船など一瞬で粉砕されて海の藻屑となる! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な死の大渦巻を!」
渦潮海魔は、巨大な吸盤のついた腕を振り回し、無数の汚泥の触手獣たちを海峡の外へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に穏やかな航海などないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを呑み込み、大陸全土を永遠のヘドロの海底に沈めよ!」
「我ら海魔の眷属の汚染力は絶対だ! この猛毒と荒波の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! ザパーンッ!
渦潮海魔が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、猛烈な大渦潮が渦巻く海峡のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の猛毒瘴気と荒波をものともせずに水上ドリフト着水する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、洗濯槽ブラシと漂白剤ボトルを持った青年の明るい声が、波のノイズを完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 近隣の国の方々からご依頼いただいた洗濯機の中の掃除と糸くずフィルター交換に伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい黒カビの繁殖っぷりと、水の中に浮いてるタチの悪いワカメみたいなゴミ(触手獣)だね! こりゃ徹底的に洗浄しがいがあるや!」
アルドは、ゴム手袋をキュッとはめながら、プロの清掃業者としてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対汚染ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
渦潮海魔が驚愕の墨を噴き出す中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら荒れ狂う波の上へと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい水に浮いてる黒カビの塊(触手獣の群れ)どもから、綺麗に『すくい取って』差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、死の海峡で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ猛毒軍団ヲ『洗濯機の黒カビ』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ触手獣デ、貴様ラノ血肉ヲ永遠ニ溶カシ尽クシテクレルワ!」
渦潮海魔の怒号と共に、海峡を覆うほどのドス黒い墨とヘドロを纏った魔獣群が、一斉にアルドたちに向かって致死の猛毒液を放ちながら襲い掛かった。
「うわっ、このカビ、すっごくヌルヌルしててドブ臭い! 放置してたら洗濯物が全部台無しになっちゃって危ないぞ!」
アルドは、迫り来る魔獣の群れを「長年の洗剤カスと湿気で大量発生したタチの悪い黒カビ(ピロピロワカメ)」と完全に誤認し、特大洗濯槽ブラシの柄を強く握りしめた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。汚れた水やカビが外に漏れないよう、まずは私が防水パンと養生シートを張ります」
シノンが音もなく跳躍し、海峡の周囲を囲むように、無数の札(神仙の空間隔離結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、海峡全体をドーム状に覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の洗濯機清掃用養生結界』が展開された。これで、致死の猛毒海水や荒波は一滴たりとも外の海へ漏れ出すことはない。
「完璧な養生ですわ、シノンさん。では、私はカビが撒き散らすガンコな悪臭や濁り(致死の猛毒瘴気)を、特殊クリーニングで綺麗に漂白して無害化いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖水浄化魔法』が、超強力な酸素系漂白剤の泡のように周囲の狂気の濁流を包み込んだ。
「ギィヤアアアアッ!?」
万物を溶かす猛毒の墨は、その浄化の泡と漂白成分を浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただの無害で透明な綺麗な海水へと変わっていく。
「フンッ! 魔力を抜かれたただのカビワカメなど、ただのゴミすくいのマトだ! そして、邪魔な浮遊物は私が綺麗に削り落としてやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、無害化した魔獣の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「洗濯槽黒黴削剥斬ィィィッ!!」
放たれた一撃は、魔獣の粘体ボディの「細胞の隙間」を完璧に見切り、まるで水面に浮いたガンコな黒カビを網で一網打尽にすくい取るかのように、シャリィィィン!と見事な手際で綺麗に粉砕し、ただの無害なチリにしてしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ触手獣ガ、タダノ『漂白剤』ト『ゴミ取りネット』ノ前ニ、一瞬デただのチリニサレテイクゥゥッ!?」
渦潮海魔は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただのゴミ」に変わり、有毒な海が透明に澄み渡っていく光景に、驚愕のあまり巨大な触手を激しく波打たせた。
「よし、みんなのおかげで浮いてたガンコな黒カビは綺麗にすくい取れたね! あとは、あの一番デカくて水をかき回してる『回転羽の親玉(渦潮海魔)』に、強力なクリーナーを流し込んでブラシでゴシゴシ磨くだけだ!」
アルドは、特製『事象洗浄の神仙洗濯槽ブラシ』と漂白剤のボトルを構え、渦潮海魔の巨大な本体(大渦の中心)へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。クリーナーは星の浄化の海を液化した絶対漂白剤であり、ブラシは大宇宙のいかなるヘドロや神話級の猛毒すらも、物理的に『こすって落とす』だけで完璧に無害化し、ピカピカに磨き上げる『究極の洗濯槽清掃ツール』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ泥海ニ変エル『終焉ノ絶対大渦巻』デ、貴様ラゴト深海ノ底ニ呑ミ込ンデクレルワ!」
渦潮海魔が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全てを海溝の底へ引きずり込む超巨大な暗黒の渦潮を発生させた。
「うわっ! 洗濯槽の底が、すっごく激しく回転して水流が乱れてる! でも、この特製魔導クリーナーの前には、どんなに酷い裏側の汚れも一発でキュッキュだ!」
アルドが渦潮海魔の巨大な本体に向けてクリーナーをドボドボッと注ぎ込み、容赦なくブラシでゴシゴシ、キュッキュッ!と限界まで綺麗に磨き上げていった。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶大渦巻ガ、タダノ洗濯槽ブラシデ磨キ落トサレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコな水垢と黒カビはスッキリ落ちて、洗濯槽の裏側までピカピカになったぞ! 最後に、この『事象濾過の神仙糸くずフィルター』をカチッと取り付けて……あ、そうだ。この回転羽の親玉、綺麗に掃除して動きを滑らかにしたら、凄くパワフルで綺麗な水流を作れる構造になってるね。ちょっと海流を世界中に回すようにプログラムすれば、海のゴミを自動で集めて綺麗にしつつ、世界中の海を穏やかに保ってくれる『超巨大な全自動・神仙海流浄化ランドリー(海洋環境維持システム)』にできそうだよ!」
アルドが渦潮海魔の本体に仕上げの特殊フィルター(事象を完全に濾過する光の網)を取り付け、事象調律のパネルで水流を「おまかせ・穏やかコース」に設定して巨大な浄化システムへとリメイクすると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していた渦潮海魔の禍々しい猛毒と荒波の魔力は、瞬く間に穏やかで清浄な水流エネルギーへと漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ泥海ニ沈メルハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【海ノゴミヲ集メテ綺麗ニスル為ノ超高性能洗濯機】ノヨウニ……!? イヤ、フィルターヲ付ケラレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ浄化力ト、極上ノ穏ヤカナ海流オ提供スル超大型ランドリーシステム】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ清浄ナル海ト安全ナ航路ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙海流制御機」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした猛毒の大渦は、アルドの「洗濯槽クリーニングとフィルター交換」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を呑み込む暴食の渦潮海魔は、気がつけば「死の海峡を美しく輝く巨大なクリーン海流の起点に変え、世界中のどんな海洋ゴミも一瞬で濾過して無害化し、安全な海流として24時間機能し続ける、超高性能な『永久・神仙全自動海洋浄化ランドリー(見た目は巨大で澄み渡る美しい水の神殿)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌な黒カビと水流の乱れの被害は片付いて、すっごく綺麗で滑らかに動く洗濯機になったぞ! おまけに、これがあれば世界中の海が勝手に綺麗になって、船も安全に進めるね。これで大陸の人たちも、毎日清潔な服を着て、安心して船旅ができるよ!」
アルドがブラシを片付けて額の汗を拭うと、海を覆っていたドス黒いヘドロは一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく稼働する奇跡の海流浄化インフラと、澄み切ったエメラルドグリーンの海が広がっていた。
***
数日後。大陸南方諸国を統べる王室や海上交易・漁業ギルド本部。
各国の王たちは、海洋汚染問題と海難被害が完全に解消され、前代未聞の超巨大な海流制御と海洋浄化インフラが誕生したという報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を死の泥海に沈めるはずだった暴食の渦潮海魔が、たった数時間で『完全な洗濯機の掃除』をされ、あまつさえ海魔が『超巨大な海流制御・海洋浄化インフラ』に転職して、国中の航路と海の清潔さを完璧に独占しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(洗濯設備メンテナンスと海洋環境インフラ整備業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる海洋修復・海流制御施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の洗濯槽クリーニング料金はサービスさせていただいております。……が、渦潮海魔の完全浄化、海流の再構築、そして『大陸全土に極上の清浄な海と安全な航路を供給する巨大施設の永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間海上交易・漁業収益の九割と、海洋ネットワークの独占プロデュース権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。大陸南方の死の渦潮海峡における洗濯槽洗浄、およびフィルター交換作業完了。世界を泥海に沈める暴食の渦潮海魔ヴォルテックス・クラーケン(神話の厄災)を事象の洗濯槽ブラシと漂白剤で磨き上げ、立派な特大海洋浄化ランドリー(海流制御システム)へと改修。猛毒の海洋汚染と海難事故の修復を完了し、大陸全土の海上物流と漁業の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、世界各国からは莫大な賠償金と、海流制御・海洋浄化インフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流、情報・娯楽、資源循環、通信網、医療・甘味、睡眠・無意識、清浄なる排気環境、生命の息吹(農業)、世界の視界と景観、食の鮮度(低温物流)、住環境と天候からの防壁、生命の癒やし(温泉)、世界の気候と空調管理、上下水道網、世界の資源循環とリサイクル、世界の光と電力(照明)、大地の基礎と地下交通(免震)、建築物の外装保護(環境シールド)、世界の熱エネルギーとクリーン廃棄物処理に続き、ついに「海流制御と海洋浄化(大型ランドリー)」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の巨大海魔すら全自動洗濯機に変える(物理的にブラシで黒カビを落とした)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、朝のパエリアで使った極上の海老とイカを細かく刻んで揚げた、サクサクの特製シーフードフリッターだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後のフリッターは、ことのほか魚介の甘みが身に染みよう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただの洗濯機清掃」は、世界海没の危機をただの家電設備メンテナンスとして解決し、渦潮海魔の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の海流制御・海洋浄化インフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に海流と海洋環境の覇権をも握り、いかなる邪悪も日常の洗濯機のお手入れとして葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
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